その朝、あなたは無精髭を丁寧に剃った。 ぷ、と片頬をふくらませて念入りに剃刀を当て、つるりとした肌にローションを叩きつけた。あなたには珍しく。 それからなるべく清潔に見えるシャツを選んで着こんだ。 今日のデートに備えて。 アッパーイーストサイドにある立派なアパートメントの大理石と真鍮に飾られたエントランスを入ると、受付に立つドアマンが会釈をした。 エントランスには、巨大なばかりで退屈な絵が飾られていて、その豪華な内装は、あなたの目にはいささか過剰で無趣味に映る。 ロビーのソファに座っていた人影が、 「ダディ!」...
世界の終わりが来るというので、あなたはトランクに荷物を詰めて旅立つことにした。 世界の終わりというものはニューヨークや東京やパリやロンドンや、よく知られた都市から始まることになっている。 だからどこか田舎の、ほとんどの人が聞いたこともない町、それだけに消えるのが後まわしになる町に移ることにしたのだった。 通りは長距離バスに乗りこむ人々でごった返していた。 バスの屋根にはトランクが山と積まれ、窓からもなかば人が溢れ出ている。...
モントークは聖域だ。 ニューヨークのいちばん東にあるこの町には、どこよりも早く朝日が訪れる。 浜辺は誰にでも開かれているし、一杯のコーヒーを買う時でも店員は親しげに話しかけてくれて、サーフボードを積んだピックアップトラックが走り、誰もが気軽に挨拶をかわす。ここでは時間はゆるやかに流れ、人々は麻の切れ端のようにほどけて、くつろいでいる。...