(*5月30日に投稿させていただいた本稿の内容に加筆修正します。2021年6月8日)
2011年1月からエンパイアビルは、電力会社 (NRG エナジー社&グリーンマウンテン社)から風力発電を購入し始め、それ以来 同ビルは持続可能な電力供給への改善と向上を試みてきた。
そしてあれから10年の今年の2021年2月、 改めてグリーンマウンテン社提供の風力発電と提携し、ESRT(Empire State Reality Trust)所有のすべての14棟ビルを風力発電100%に切り替えると発表。向こう3年契約となる。
さらに同エンパイアビルは、近年注目されているサステナブルな環境保全への取り組みも重視しており、二酸化炭素(CO2)排出量削減を目標にかかげている。同排出量の削減目標値は、ニューヨークのタクシー排出ガス(CO2)の1年分に相当する量となる。同時に発電コストも向こう10年で50%の削減が可能となる見込んでいる。
そんな中で、ニューヨーク市のエンパイアビルと関連14棟の風力発電100%への取り組みと地球環境保全への動きが、他都市へのモデルケースとなると注目を浴びている。(2021年6月8日加筆修正)
NYエンパイアステートビル、風力発電100%へ転換!地球環境に配慮
今年2021年、NYランドマーク(国定歴史建造物)にも指定されているエンパイアステートビルを含むESRT(Empire State Reality Trust)関連の全ビルにかかる電力をすべて100%風力発電供給に切り替えると発表した。
筆者は、かつてエンパイアステートビル45階のオフィスに勤務していたこともあり、エンパイアーステートビルの上層階に直撃であたる風でビル自体がギシギシ揺れるなど、どれほど風力が強いか実感している。
強風の日には、ビルが左右に微妙に揺れているのを体感しており、風力が持続的な再生可能エネルギーとして発電に使うことができたら、ニューヨークの停電回数が減るだろうと何度か思ったこともあった。
実際100度(摂氏40度)を超える灼熱の夏となるニューヨークでは停電が多い。そして同ビルは築90年近く経っており老朽化したオフィスタワーである。市内にはそういう旧ビルが多く、さらに北米東部エリアは地震がほぼ発生しない(過去20年で1度だけ震度1が発生したのみ)ことから何十年も改築されてない旧ビルが多い。
そして特記すべきは、ニューヨークにはランドマーク(国定歴史建造物)に指定された老朽ビル多いこと。つまり近代化ビルに改築修理できない建築物も多く、配電についても旧い配電線を使っているビルも少なくない。そんな理由からニューヨークでは配電線の摩耗による停電の発生率も高い。
過去にニューヨークを襲った2度の大停電
上述のように地震がほぼ発生しないニューヨークでは、電力発電所からの配電インフラ設備がとても脆弱であり、2000年以降の過去20年間で、自然災害いよる2度の大停電に見舞われている。筆者は2度とも体験している。
一つ目は2003年8月の真夏日のことだ。米国東部一帯は、真夏の45度を超える灼熱の日に、ブラックアウト(大停電)が突然発生した。
(Photo: Esquire / 大停電、街から電気が消えていく様子)
この日、暑すぎる外部の空気に室内クーラーはまったく効かず、茹だるような暑さだったことを今でも覚えている。そして午後4時ごろ、突然パソコンやオフィスの全室電気がブラックアウト(停電)となった。
原因は、ニューヨーク市内の配電網が暑さで焦げ付き、電力が正常に流れずに逆流しシカゴ発電所が緊急停止したという最悪な状態となったこと。人為的なミスではなく、温暖化が進み老朽化した配電網が、灼熱の暑さによって焦げて摩耗したことによる事態となった。
さらに電力が逆流したことが引き金となって、ボストンやワシントンDCに伸びる配電網にも悪影響し、米国東部一帯の全域が大停電となった。これにより連日、40度を超える暑さの続いていた米国東部ニューヨーク、ボストン、シカゴやワシントンDCで、さらに気温が上昇し50度を超える灼熱の暑さとなり、死者も出たことは未だ記憶に新しい。
(Photo: Rakuten / 明かりが消えたマンハッタン:大停電となった日の夕焼け)
次にニューヨークを襲った大停電は、2013年10月末に米国東部を襲来した超巨大ハリケーン・サンディーの大洪水による被害だ。このハリケーンサンディーにより、地下鉄の路線まで浸水し、市内の老朽化したビルから地下までも水浸しとなり、旧い配電線の機能が麻痺し大停電を引き起こしたことは、まだ人々の記憶に新しいはず。
この災害でニューヨーク当局は、市内の電力復旧に丸24時間以上、長いエリアで段階的な復旧に1週間もかかった。
この2つの大きなブラックアウト(大停電)の後、災害に見舞われても安全な発電と供給へと改善するため、2014年に同州の公共サービス委員会、大手電力会社CONED(コンエディソン)を含むNY市当局が、発電所の連鎖集中型から地域分散型への転換を検討。太陽光や風力などを利用する持続可能な電力再生エネルギーへの変換を急ピッチで推し進めてきた。
NYの関連14棟ビル、持続可能な風力発電100%に!
上述のような過去の東部を襲った2度の大停電、時には幾度となくエリア的に発生する小停電を改善するため、ニューヨーク市は安全な電力供給のためIT技術を駆使した持続可能な風力発電の利用を推奨してきた。
今回、風力発電100%への利用を先導すると打ってでたのが、10年前の2011年にNRG エナジー社の風力発電を購入すると発表したニューヨークを象徴するエンパイアステートビルだ。今回の新たな動きで、エンパイアビルを含むESRT(Empire State Reality Trust)所有の全14棟のビルの発電がすべて風力100%となればインパクトが大きい。成功例としてその後のニューヨーク市内の各ビルが風力発電に移行するという動きにも拍車がかかると見込める。
(Photo:Empire State Building website) NYを代表するエンパイアステートビル
具体的な動きとしては、同ビルの管理会社エンパイアステート・リアリティ・トラスト(Empire State Realty Trust)が、持続可能なエネルギー供給企業と称する大手グリーン・マウンテン・エナジー社(Green Mountain Energy)と3年間の契約を結んだことを発表したことだ。
今回のこの風力電力の供給契約によって、同会社が管理する全オフィスビルが、風力発電による電力のみで運営されることになる。
因みにエンパイアステートビルが1時間に消費する電力量は、550万Kw(キロワット)と言われる。単純に計算しても、1日オフィス労働時間を8時間と想定すると、電力消費量は4,400万Kw (キロワット)にも上る量となり、これを1カ月間、さらに1年間と換算すると、想像を絶する電力使用料であることが分かる。
そんな中、地球に優しい再生可能な省エネルギービルを目指し、エンパイアステートビルの管理会社は、新たに5億5000万ドル相当をかけて風力発電100%へと改善に着手したのだ。
業界の専門誌及びエンパイアビル管理室の説明によると、風力発電用の巨大バッテリー設置(ビルの内部)や蓄電力の技術は、10年前より進んでいる。それ以来、エンパイアビルは、旧い配電線の取り換えなど内装工事を含め各階フロアーごとに風力発電への転換に備えていた。
(Photo:Empire State Building website)
風力発電に転換する同ビルを支える進化したテクノロジー
地球環境保全への大きな前進
エンパイアビルを含む関連ビル全14棟すべてで風力発電100%になれば、地球環境保全にむけた持続可能でサステナブルな環境対策としても大きな貢献となる。
今回の発表で注目されている同ビルの管理会社エンパイアステート・リアリティ・ステート (Empire State Realty Trust)で、エネルギー部門ディレクターDana Robbins Schneider氏は、「地球温暖化の最大の原因でもある二酸化炭素(CO2)排出を削減するための技術導入やサステナブルな戦略を考えながら、経済効果にも貢献できるようバランスよく調整し実現させます」と話している。
チェンジアメリカ(Changing America)というメディア紙でも、3年間で20万トンのCO2排出削減ができることとなると大きく取り上げている。削減量は、ニューヨーク市内を走るタクシーが排出するCO2の1年間の量をなくすのと同じ効果だ。
地球環境保全への取り組みが進む中、今回のエンパイアビルを含む14棟の関連ビルが100%風力発電に転換すれば、地球全体の持続可能な開発への大きな前進となるモデルケースになると期待したい。
SDGs ×ニューヨーク市
#7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
#11 住み続けられる街づくりを
#13 気候変動に具体的な対策を
(参考文献)
Good News Network:
The Empire State Building is Now 100% Powered By Wind, Along With 13 Other Related Buildings
The Hill: Empire State Building company now powered entirely by wind
Happy Mag: The Empire State Building now runs entirely on wind energy