アメリカ発のサステナブルなファッション作りやコンセプトをレポートしていく連載第二回目は、Yeohlee Teng(イエオリー・テン)を取りあげたい。

YEOHLEEは、NY Timesの”アパレル業界をリードしてきたアジア系アメリカ人のファッションデザイナー“  The  Asian American Fashion Designers Who Shaped the Industry (2020年4月刊行)   にも選ばれ、NYのファッションデザイナーとして長年活躍してきている。

photo by NY Times

1981年に自身のブランドを立ち上げた当初からサステナブルデザインのフィロソフィーを持ち、彼女が作り出す服はコンテンポラリーかつ普遍的なデザインで何十年も色あせることなく、お洒落に着る事が出来る物が多い。

現在はNYのチェルシー地区とオンラインに店舗を構えるが、作品はNYのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館でも展示されている。

そんなYEOHLEEに、彼女の服作りについてインタビューしてみた。

マンハッタンのチェルシー地区に店舗を構える

サステナブルデザイン、特にゼロウェイストに取り組み始めたきっかけは?

私はマレーシア出身ですが、ゼロウェイストつまり廃棄するものを極力少なくする事という考え方は、生まれ育った環境の中で培われていったものです。今はトレンドワードのように使われていますが、私にとっては生活そのものでした。

私は覚えていないのですが、オーストラリアにいる建築家の友達がメールをくれて「あなたが16歳の時に作ってくれたスカートがあるでしょ?あれは6×36インチの生地を全部使って作ってくれたのよ」と、教えてくれました。デザイナーになる前からゼロウェイストの精神が根付いていたので、1981年に創業した際にも勿論ブランドのフィロソフィーとして取り入れる事が自然でした。

Yeohlee Teng

例えば、このスカートを見てください。

ストライプの柄が縦と横のものが組み合わさったように見えますが、一枚の生地で縫い目なく作りました。生地の切り方しだいによって、この様なとてもシンプルだけど、知的好奇心をくすぐるような構造にする事が可能です。私はこう言ったものが好きなのですが、誰かに説明するのはとても難しいですよね。

YEOHLEEの代表作であるOne-size-fits-allのケープで一気に有名に

ブランドの初コレクションが完成した時にBergdorf Goodmanへ持ち込み営業に行ったのですが、その際にゼロウェイストパターンメイキングで作ったOne-size-fits-allのフード付きケープもそのひとつでした。

売り文句は「ワンサイズなのでサイズ展開が必要なく、ラックスペースが最小限でいいでしょ?」と、話していたのを覚えています。このケープは60インチの生地を3.25ヤードでカットしたワンサイズのフード付きケープなケープだったのですが、Bergdorfから200ピース注文を受ける事ができ、一気に私達がビジネスとして動き出せるようになったのです。

One size fits allのケープがMIT Hayden Galleryで展示された際の写真

One size fits allのケープ(左)

ケープのパターン(右)

ーYEOHLEEで使用される素材なども、サステナブルな観点で取り入れられているのでしょうか?

私の服は “Intimate architecture (密接な建築物)”と表現されたりするのですが、服は一番体に近いシェルターだと考えています。サステナビリティや気候変動などの環境問題を考える際に、服をシェルターとして機能させる事が重要だと語る人はほとんどいません。ですが、例えば火事や洪水から逃げるときには、自分の持ち物は着用している洋服だけ、という可能性が考えられます。ですので、服のサステナビリティを考える際には、みなさんには今よりも更に考えを深めて、重要な持ち物として機能的な服についてよく考えて欲しいです。こう話すと、かなり危機感を感じてしまうかもしれませんが、そうではなく実用的に考える、という意味です。

ーYEOHLEEのお客様は、サステナビリティについて関心が高い方達ですか?

ある女性のお客様の話をさせてください。彼女は1994年にYeohleeのアイテムを購入してくれたのですが、2018年にその時に買ったYeohleeのトップスと新しく買ったスーツを合わせてコーディネートしてくれました。彼女は、南米にノーベル賞受賞者へ向けたスピーチをするために乗った飛行機の中から、その写真を私に送ってくれて、「とても緊張していたけどYeohleeのアイテムを身に着ける事によって自信が湧き出たわ!」とメッセージしてくれたのです。

他のお客様で、20年前に買ったコートを着てお店に来てくれたり、その当時のアイテムを修理できるか聞きに来て下さる方もいらっしゃるのですが、「修理可能ですよ」と伝えると多くの方がとても驚かれます。私は生地をとても大切に扱い、尊重しているので(そしてもちろん高価なので)、今までのコレクションに使用したものも全て捨てずに持っています。

この、在庫として持っている過去に使用した生地とアーカイブアイテムを合わせてひとつのコレクションを発表したこともあるんですよ。

ーNYのメトロポリタン美術館などで展示されているYEOHLEEの作品をみて、20~30年以上前に作られたものが今も変わらずお洒落に着用できるデザインであることに驚きました

THE METに展示してあるコレクションの一部

1998年にベルリンで初めてBioclimatic Architecture (気候や環境条件を考慮した建築デザインで、室内の最適な熱的快適性を実現するために建物の中に植物を配置するなどといった事を行う)に取り組んだマレーシア人の建築家と、展示会を行いました。その際にも、メトロポリタン美術館などのアートキュレーターであり、学者、評論家、講師でもあったRichard Martinが私の作品についてエッセイを書いてくれたのです。彼はその時に、「建築物の天井の高さを決める際には、もっとも背が高い人と最も低い人の平均値、そして実用性に見合うように作られる。YEOHLEEがゼロウェイストに取り組むために行っているデザインは、One-fits-allケープのデザイン原則にも見られるように、そのような建築物の考え方と同様だ」と。

そして、私の作品を「季節を超越する服であり、それを着れば、アーバンノマド(都会の遊牧民)として一年中都市生活を機能的に過ごすことが出来る」と表現しています。彼は、私が作るデザインは、不自然なカットや不必要なカットを省き、季節や時間を超えて着用する事が出来るという事を理解してくれていたのです。

FITでの展示:Fashion Unraveled (左) ゼロウェイストパターン (右)

時々私の服が高価だと言われることもありますが、季節を問わず20年~30年間着用できることを考えると、一回着用分で値段換算するととても安いですよね。
今、サステナビリティがマーケティング要素として利用されることが多いですが、一つの洋服を長く着れるデザインかつ高品質である事、これが本当のサステナブルデザインだと考えています。

ーCOVID-19によるパンデミックの際には、どのように過ごされていましたか?

新しい作品を作ったり、コレクションムービーを店の前で撮影したりと忙しくしていましたが、その中の一つでGoodwill(ドネーションショップ)が企画したCOVID-19オンラインチャリティーイベントへゲストデザイナーとして参加しました。誰かがいらなくなった服をGoodwillへ買いに行き、それをアップサイクルして寄付させてもらいました。Goodwillでは、オンラインでオークションを行い、その売上金をCOVIDで職を失った人などへの救済金として使用されたようです。とても手のかかる製作でしたが、学びも多く楽しく参加させて頂きました。その時に作った作品の一つは私のコレクションとしてここにも販売しています。また、このような機会があればぜひ参加したいと思っています。

Goodwillで購入した古着でアップサイクルをし販売した作品

アップサイクルした洋服の残りも保管されている

 

ムダがなく、長く着られる服の重要さ

今回、ゼロウェイストの取り組みについて取材に行ったのだが、そもそも洋服という意味合いについて、そしてサステナビリティについて改めて考えさせてもらった。
服は、自分自身に一番近く常に身につけている物。気候変動などを考えた時に、機能的で身を守ってくれるものとしても、考える必要があるということ。

そして、彼女のパターンメイキングには言葉通り無駄がないが、完成品にも無駄がなく、かといってシンプル過ぎないので、20~30年以上前に作られたものでも今もお洒落に着こなすことが出来るし、この先も同様の事が言えるだろう。

お洋服を購入する選択をする際には、マーケティングとして実際に取り組んでいることよりも過大にサステナブルを謳っているブランドではなく、彼女が作る物のように本当にサステナブルなものを選んでいきたい。そのためには、一人一人が知識を付ける事も必要だが、それもアートピースを買うときのように背景を調べながら買うと、楽しみが増えたと思えるだろう。