少し前にVOGUEのオンラインで、アメリカの移民政策について書いたのだが、その時に読者から、気になる感想をいただいた。
そこではアメリカの移民政策には大きな問題がありつつも、国民の移民に対する態度がポジティブに変わってきていると言うふうに書いた。下記のリンクからご覧いただけるので、参照していただければありがたい。
VOGUE CHANGE 「ゼロ・トレランスの悲劇アメリカの移民問題から私たちが学ぶべきこと」
すると、いくつかいただいた感想の中に「 日本に入ってくる移民は日本の優れた安い医療保険制度を濫用しているのだ」と言う情報があった。グーグルしてみると確かにそれらしい事が書かれている記事も見つけた。きっとモヤッとしている人も少なくないのだろう。
実はアメリカでも同じように考えている人がたくさんいる。移民はアメリカ人が払う税金を使って生活保護を受けたりしている。実にけしからんという意見だ。
しかしそう考えている人は非常に重要な現実を忘れている。
例えば今世の中でZ世代(10代〜25歳)が持て囃されている。アメリカでは人口の4割を占め、 これからの 社会を引っ張っていく存在だ。
しかしアメリカの出生率は下がり続けている。ではなぜ若者が多いのか? Z世代の3割は難民を含む移民かその子供たちだからだ。彼らのおかげでアメリカは日本ほど少子化に悩まなくていいのである。
移民に否定的なアメリカ人が考えない移民の貢献
移民が税金泥棒と思っている人は、まず移民は貧しいと決めつけている。つまり皆が貧困ライン以下で生活保護を受けなければならないと想定している。難民だったらそうかもしれない。確かにアメリカは年間数万人もの難民を受け入れている。彼らはいきなり働けないから税金を使っていることになるだろう。
でも難民は受け入れられれば移民となる。そして言葉も不自由でコネもない国で最低賃金またはそれ以下で働く。もし不法移民であれば正式に働くことはできないから雇ってもらえるなら最低賃金以下でもどんな重労働でも厭わない。雇う方にとってもありがたい労働力だ。農業や食肉加工場など、アメリカ人の食べ物は彼らの安い労働力によって支えられている。
不法移民だからもちろん医療保険ももらえない。とにかく生きるために必死に働いているのだ。移民ビザ(グリーンカード)を持っていれば少しはマシだが、それでも最初は大変だ。でも彼らは苦しくても生活保護を受けようとはしないものも多い。税金を払い1日も早くアメリカ人として認められようと必死だからだ。
しかしアメリカが数々の問題を抱えながらも、何とかしてこれだけの移民や難民を受け入れてきたおかげで、彼らが根付き家族を育て、その子供たちがZ世代となって今社会に出始めている。アメリカはそのおかげで世界1の経済を維持しているのである。
移民を否定する背後に潜む人種偏見
ところがトランプ前大統領は「メキシコやハイチからの移民はいらない、 スウェーデンとかから来ないのか」と言うような発言をした。つまりピープルオブカラーの移民は貧しい税金泥棒で、ヨーロッパ白人はそうではないと言う明らかな人種偏見で差別発言だ。
注意しなければならないのは、移民は税金泥棒だという発想には必ずこうした人種差別がつきまとうことだ。 日本への移民が医療保険を乱用していると言う時に、おそらく思い浮かべるのはアジア諸国等からの移民であり、決して アメリカやヨーロッパの白人ではないのではないか。 こうしたステレオタイプは白人主導の現代社会で私たちの中に刷り込まれている。
移民世代が作り出すアメリカの新たなビジネスチャンス
数だけではない、Z世代はこれまでなかった新たなビジネスチャンスも生み出している。
Z世代の半数近くは非白人であるために、これまでのアメリカでは起こり得なかった激変が起きている。
ブラックライブスマター運動がそのいい例だが、消費の世界ではファンデーションの色が何十色もあるコスメブランドが脚光を浴び、あらゆる体型やサイズの人に似合うアスレジャーファッションが人気だ。 アメリカが多人種他民族化しダイバーシティーが広がれば広がるほどそれはビジネスチャンスになり、消費の拡大につながっていく。
そしてデジタルネイティブなZ世代は 自らこうしたビジネスを立ち上げ、さらなるアメリカの発展に貢献する。 言葉がわからず苦労した親の姿を見てきているだけに学ぶ意欲も高くこれまでで最も高い学歴を誇る世代でもある。
親の世代の移民難民を受け入れたことはまさに将来への投資だったことがこの世代集団から見えてくるのだ。
移民を差別すると自分たちも痛手を受ける
話を日本の医療保険に戻そう。 もし日本の医療保険が移民してでも利用したいそこまで素晴らしいものなら、日本人はそれを誇りに思うべきだ。
海外からの優秀な労働者が 欲しいなら、いっそ手厚い医療保険制度を売り物にしてみてはどうだろう。 制度を悪用するものがいるならその制度を変えれば良いが、そのために所得の低い移民を差別するようなことがあってはならない。
そして、 どんなに間違ってもアメリカのような医療保険制度になることだけは避けて欲しい。 アメリカ人が国民皆保険に反対するのは、人は自己責任で生きるべきだという考え方から来ているとよく言われる。しかしその根本には、 こうした制度を黒人やピープルオブカラーの移民に使われたくないという差別感情があった。彼らに使わせるくらいならいっそない方がいいという偏狭な考え方が、同様に制度を必要としている白人さえも一緒くたにバッサリ切り捨ててしまう。それがアメリカの社会保障が貧困な所以だ。日本にはそうなってほしくない。
日本は移民を受け入れるべきか
ここまで読んでくださった方には言うまでもないと思うが、私の答えはイエスだ。
日本はアメリカのように移民の歴史が長くないからゼノフォビア(外国人や異文化に対する嫌悪や恐怖、排斥する傾向)が強いかもしれないが、逆に奴隷制度のような厳しい人種差別がなかったために、アメリカに比べれば差別意識はずっとマイルドだと思う。
脅かすわけではないが、地球温暖化による食糧不足や水不足は社会不安をもたらし、ますます世界は難民で溢れることになると予想されている。 残念ながら日本だけそのシェアを拒否して世界3位の経済を享受する事は、現実的にもモラルの上でも不可能だし国際社会からも リスペクトされるのは難しくなる。
皆さんの周りにもきっと移民や外国人労働者がいるはずだ。 心を開いて彼らと話をしてみてほしい。 彼らは私たちから何かを奪おうとしているわけではない。 私たちと同じように 子供たちに平和で幸せになってほしいと願っているだけなのだから。それが簡単だとは言わない。でもこの大変な事をどこの国でもやってきているのは、それが必要だと知っているからだ。(シェリーめぐみ)