私たちの未来を守っていくために、アメリカ発のサステナブルなファッション作りやコンセプトをレポートしていく連載。第三回目は、初めて洋服のレンタルプラットフォームとして今年10月に上場したRent the Runwayのファンであり写真家の庄野チェン裕子さんへインタビューをした内容と合わせて、サステナビリティの観点や、ビジネス的な観点からも説明をしていく。
大好きなブランドが借りられるプラットフォーム
まずは、裕子さんがRent the runwayを始めたきっかけを教えてもらった。
「Rent the runwayは、3か月ほど前に始めたのですが、おしゃれが好きなので最初は眺めているだけでした。最終的に加入しようと思った決め手は、何十年も好きだったA.P.Cの鞄が借りれること!でしたね。」
レンタルすることは節約にも繋がる
「実は今、Rent the runwayを一年間使うことで新品の服を購入するために使っていた年間支出を超えることがないか、という挑戦をしています(笑)。」
「ある時、服飾にかける年間支出を計算したら、$1800位だったんです。一点あたり単価の高いものを買うことはほとんどないのですが、ユニクロなどのファストファッションを少しずつ買っていて積もっているのだな、という事に気が付きました。新しいお洋服を手に入れて気分を上げたいなと思いショッピングをするのですが、結局はどれも飽きがこず長く着れて単価もそれほど高くない黒やグレーなどの色を我慢して買っていましたね。結果的に、そうやって長く着ようと思って買った服も、1年後には飽きてドネーションに出してしまうんです(笑)」
現在、Rent the runwayで一番人気のプランは、1か月間で8アイテム借りられるもの。料金は$135/月(最初の2か月は$99)なので、1年間で計算すると$1,548になる。確かに、裕子さんの年間支出の$1,800よりも節約になる計算だ。裕子さんは、Rent the runwayを始めてから新品の洋服の購入を控えているが、同様に会員のうち89%が新品の服を購入することが減ったと答えている。(参照https://www.renttherunway.com/sustainable-fashion)
また、平均の顧客がレンタルするアイテムの販売価格で考えると、年間で$3,700 (約40万円)の価値になるとデータがあり、今までは購入した金額の分の価値しか得られなかったものが、レンタルすることで得られる付加価値は非常に高い。
レンタルはファッションの楽しさを倍増させてくれる
「Rent the runwayを始めてから得られている楽しさや満足度は、以前のショッピング体験と比較すると圧倒的に楽しくてしょうがないです。借りる服を待っている時や、届いた箱を開けるとき、来たものを試着するときなど、本当にワクワクします。主人からは、『Rent the runwayを始めてから、幸せで輝いている姿を見ることが僕にとってもすごく嬉しい!プランをアップグレードしたいんだったら、いつでも言ってね』とのコメントももらってしまいました(笑)」
自分が好きなスタイルを再発見するためのツールにも
「Rent the runwayのアプリでは、好きなスタイルをフォルダーに保存できるのですが、一度Rent the runwayのために8時間の時間を確保して、借りられるブランドや、カテゴリー、アイテムを隈なくリサーチして、どんどんそのフォルダーにお気に入りを保存していったんです。そうすると、自分が惹かれるカラーやデザインも再発見することが出来たんです!思っていた以上にすごくカラフルな色が好きな事が判明しました。」

Rent the runwayのアプリ上で裕子さんが作成したお気に入りフォルダー
フォルダーにお気に入りを入れることで、「自分自身が好きなスタイルの再発見をする」、という使い方は意外だったが、このようにRent the runwayへ個人の好みなど、できる限り多くの情報を保存していく事で、企業側が導入しているマシーンラーニングによって、アプリ上で個人の画面に表示されるアイテムのカスタマイズが進んでいき、さらに好みのアイテムの提案に繋がっている。
ブランドにとって新規顧客開拓にもプラス
発見という意味で言うと、会員の98%は今まで購入したことがなかったブランドをレンタルした事がある、という新しいブランドへの発見へも繋がっているのだ。このことは、レンタルプラットフォームとのパートナーシップを結ぶことに抵抗があるブランド企業の不安を払しょくしてくれるデータではないだろうか。レンタル市場への参入は、ブランドの棄損に繋がるのではなく、新規顧客の獲得にむしろ繋がっていくはずだ。さらに、Rent the runwayは顧客からのコメントやよく借りられている服のデータなどをパートナーブランドと共有している。そうすることで、顧客から好まれるデザインや、サイズ感の調整などを適用することも可能だ。実際に、Ulla Johnsonはジーンズを借りた会員のうち34%しか履かなかったというデータがRent the runwayから共有されたことにより、作製しているジーンズのフィット感などを調整し、みずからが直接販売しているジーンズの売上向上につながったとの事だった。(参照:Rent the Runway’s post-IPO plans: Profitability, more brand partners | Vogue Business)
心を鷲掴みにされるユーザー体験
さらに、裕子さんのRent the runwayに対する熱い思いがほとばしり、どれだけ自分の中のおしゃれしたい欲を直球で満たしてくれるかを語ってくれた。
「Rent the runwayの創業者のインタビュー記事を読んだことがあるのですが、サービスローンチ後は、特別なオケージョンの際に着るドレスなどを貸し出すことがメインだったらしいのですが、今は“毎日をちょっとカラフルに彩りたいと思っている人向け”、つまり私のような人向けに変更されているとの事でした。」
「商品を眺めていても、私の心にグサグサと刺さるような、商品リストで本当に驚きます。自分だったら絶対買わないが、借りられるんだったら借りたい。購入するわけではないので、選ぶアイテムを失敗しても、気にならない。もともとは高級なものでも、借りているだけなので着用中も汚れなども気にせず活動ができる。と、いう気持ちにもなり、どこへでも着ていく事ができます。」
カスタマイズされたユーザー体験は、このように満足度やエンゲージメントが高く、ロイヤルカスタマーへと導いてくれるので、非常に重要な要素だ。また、裕子さんもコメントをしていた汚れなども気にせず使用できる、といった心理的ハードルを下げる点も、レンタルサービス自体が提供する顧客満足度へと繋がっているのだが、一点気をつけなければいけない事がある。それは、企業側も価格が高い商品をブランドから仕入れているので、今後レンタルできないほどの損傷を受ける事は損失に繋がるリスクだ。その事を防ぐために、汚れや傷がついて返却されたアイテムの借主にシステム上でフラグを立て、今後高価なものを出来る限り表示しないという制限をかけている。
「さらに、借りている人の気持ちに寄り添ったプランも様々出てきています。例えば、私が今借りているジャケットなどは結構お気に入りなので、冬の間中着用したいなとおもっているのですが、そういう人のために今の服を借りたまま休会する事も出来ます。その場合には、ひと月当たり$39を支払えば、洋服の返品をする必要がありません。通常のプランでは$135支払っているので、その差額分でレンタルアイテムとして提供されていない帽子を購入しようか、と考えています。」
Rent the runwayは既存顧客を退会させない施策や、新規顧客の獲得のため、もしくは環境負荷削減のために、料金プランをはじめとして様々な修正を行ってきている。以前は無制限のレンタルプランが存在したが、環境負荷削減のために停止。また、直近では料金プランの数を増やすことで、一か月の服飾費にかけたい金額が異なる幅広い個人のニーズを満たしている。さらに、レンタルにとどまらず、古着の再販を開始し、会員になることなく好きなアイテム単体のみを購入する事も可能になった。
「かなり満足しているサービスではありますが、一つだけ不満な点があります。配送は、はTforce (https://www.tforcelogistics.com/)というサービスで届くのですが、その配送時間やトラッキング情報などの誤りが多い事ですね。例えば、商品が届いているとの通知が来たのですが、実際には届いていなかったのでカスタマーサービスへ問い合わせをして同じ商品を再送してもらいました。そうすると、2着が同じタイミングで届いたこともありました。」
届くアイテムの状態も満足いくもの
多くの人が気になるポイントだと思うのが借りるアイテムのコンディション。以前は、あまり丁寧に扱われていなかった事もあったそうだが、現状は改善しているようだ。
「借りるものを選ぶときにNewでソートが出来るのですが、その中から選択すると未使用のものが届いたこともあります。使用されたものに関しても、一度猫の毛が少しついているものがあったこと以外は、きちんとクリーニングされている状態だし、ほつれや汚れがあるものなく綺麗な状態で届くので、まったく問題ありません。」
レンタルをする事で廃棄物削減に貢献しているという、サステナビリティの観点からは?
「あまり大きな声では言えないのですが、サステナビリティの観点からは特に考えていなかったですね。もちろん、洋服を捨てる事に罪の意識は感じるのですが……」
実際にサービスを利用している顧客にとって、サステナブルだからという理由からレンタルサービスを選択する事は稀なのかもしれない。だが、新品購入する場合と比較すると、以下のような環境負荷削減に知らず知らずのうちに貢献していることになる。Rent the runwayのLCA(ライフサイクルアセスメント)のデータによると、新品を1着購入する代わりにレンタルをすることによって、24%の水使用量削減、6%のエネルギー使用量削減、3%の二酸化炭素排出量削減に繋がっている。
インタビューを終えて、まずはこんなに熱量が高いファンを作ることが出来るRent the runwayの凄さを感じた。自分に“ドンピシャ”というサービスは、テクノロジーの力があって実現する、カスタマイズされた商品提案や、顧客が望む料金システム、商品を選択してから届くまでの満足いく顧客体験の結晶である。
熱量が高いファンは、自らがサービスについて知人や友人にその魅力を伝えてくれる。そのファンマーケティングこそが、企業が作りたい状態なのだ。なぜなら、何よりその個人の方が企業よりも圧倒的な信頼があり、他者の行動を変える事が出来る圧倒的なパワーを持っているから。
また別の点からは、現在レンタルサービスや二次流通の市場はサステナビリティの観点から非常に注目されているが、それはあくまでもビジネスモデルとして環境負荷削減など仕組みを作ることが企業にとって重要なことであり、個人へ押し付ける事ではないと感じた。個人が行動を起こすのは、サステナブルな事に貢献したいという理由が一番に来ることは稀だ。特に、ファッションの市場では気持ちを高ぶらせる事ができるものや体験に顧客はお金を支払う。その結果、知らないうちにサステナビリティへ貢献していた、というRent the runwayと裕子さんのような関係性を作れることが理想形なのではないか、と改めて感じた。
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