私たちの未来を守っていくために、アメリカ発のサステナブルなファッション作りやコンセプトをレポートしていく連載。第一回目は、“Fab Scrap(ファブ・スクラップ)”について紹介したい。

これはNY Brooklynに位置する商業用テキスタイル廃棄物を無くす活動を行う団体で、その現場に行って来たようすを報告しよう。

Photo from Fabscrap Twitter

試作品から出るテキスタイルの廃棄物は一般消費者の40

NYは、みなさんもご存知の通りファッションの街。ここには多くの世界的デザイナー達が住んでいて、ファッションブランドの本社やデザインオフィスが数多く存在している。彼らがデザインの過程で使用するスウォッチ(生地、色見本)やサンプル、試作品から出る商業テキスタイル廃棄物は、一般的に家庭用廃棄物の40倍はあると言われている。これらの回収は、インフラ不足や規模の問題*で、一般消費者が出す使用済みの洋服などの廃棄物(Post Consumer waste)より難しいと言われている。
*産業用生地のリサイクル業者は最低でも2万箱近い量がないと回収せず、一つのデザイン事務所が保管するには無理がある。

そこに、解決策を提供しているのがFab Scrapである。

Photo from Fabscrap 2020 Annual Report

2016年に創業してから現在までに655, 710パウンド(lbs)、約297トン(t)の生地を回収し、本来であればゴミ山にただ捨てられるものを救ってきた。

商業用テキスタイルのリサイクルやアップサイクルに特化した大規模な組織は米国でも珍しいので、視察も兼ねてボランティアに参加してきた。Fab Scrapの場所は、NYのマンハッタンからフェリーや地下鉄でも行けるSun Set Parkに位置し、Brooklyn Army Terminal(“BAT”)ビルディングBにテナントとして入居している。Visit BAT | Brooklyn Army Terminal

BATは、第二次世界大戦中には海軍の基地として約2万人が従事していた場所で、現在はフードやアパレルなどのスタートアップ企業や研究所として、スモールビジネスをリーズナブルなテナント料でサポートしている。また、建物の前の広場や海岸沿いではアウトドアシアターや、ポップアップイベントなども時々開催されている様だ。

建物の中に入ると、まさに倉庫!といった無機質な感じだったが、天井や窓が高いために意外と気持ちが良い空間だった。
Fab Scrapの倉庫内でまず目に入ってきたのが、高く積み上げられたビニール袋に入った生地の山。この部屋だけで凄い量!と感じたが、他の部屋にはこの3倍の量が保管されてあるという。

マークジェイコブスやメイシーズなどが同団体と契約を

このテキスタイル廃棄物の山はどこから来ているかというと、Fab scrapと提携している500以上のファッションやインテリアブランド、そしてエンターテーメント企業から。(下記写真は一部抜粋)

Photo by fabscrap website

毎週3.6トンの生地を回収

集荷は毎日行われ、1週間に約8000パウンド(約3.6トン)の量を回収している。一つの袋(約50パウンド=23キロ)を集荷してもらうためには、40~55ドルの回収料をブランド側は支払う必要があるが、年に1度のレポート付き。レポートは、ブランド毎に年間どれだけの量を廃棄(Fab scrapが回収した量)し、そのうち何パーセントが再利用され、何パーセントがリサイクルされ、何パーセントが廃棄されたか、また、温室効果ガスに換算されると何トン削減されたか、などが記載されたものを受け取る事が出来る。ブランド側はこのレポートで廃棄量の可視化が可能となり、次年度にどれくらいの削減目標を立てるべきかなども明確となる。

Sample report photo from fabscrap 2020 annual report

コットンやウールは再利用、スパンデックス入りは廃棄に

テキスタイル廃棄物が再利用もしくはリサイクルされるには、仕分け作業が必要となるわけだが、地域のコミュニティや学生、企業からのボランティアなどで成り立っている。実際、私も参加してきた。

Photo by www.sierraclub.org

仕分け作業は、100%コットン、100%ウール、100%ポリエステル、スパンデックス、その他の生地、紙、ゴミの7種類。

100%コットン、ウール、ポリエステルは繊維を分解し再び繊維としてリサイクルされるFiber to fiberを目指しているが、今は最適な技術をもった企業との提携などを進めている段階だとの事。よって、現状はそれぞれの素材の量を測った後にNJのパートナー企業の元で全て裁断され、断熱材や、カーペットや家具の詰め物、引っ越し時に使うブランケットなどに生まれ変わる。

伸縮性が高く、水着やアウトドアアパレルなどに多く使用されているスパンデックス生地はリサイクルへ不向きで、素材が1%でも入っていると、fab scrapが利用している技術ではダウンサイクルする事が出来ないので廃棄されるとの事だった。

Picture from fabscrap website

図の様な仕組みで、毎週fab scrapへ届く約8000パウンドの生地を1日換算すると、平均約1,100パウンドになるのだが、仕分けできるのが毎日約300パウンド。このペースだと、ゴミの山が高く積みあがっていくしかない計算だ。
この状況を打破するには、ボランティアの人数を増やす事が直近の課題だが、長期的には様々な仕組みを変えていく必要がある。

テキスタイルの廃棄物を減らす方法は?

まずは、当たり前だが
①商業用テキスタイル廃棄物の量を削減する事。
これには、今までテキスタイルの会社などから取り寄せていた見本が、デザイン工程で本当に全て必要なのか?
また、無駄を最小限に抑えるパターンを考えたゼロウェイストデザインなど、デザインの仕方は他にないのか?
ボタンやレースなどは最小限に抑え、単一素材で商品は構成できないか?
など、ゴミを削減しリサイクルをし易くする方法は他にも色々と考えられる。

二番目に、
②現状の慣習のマイナーチェンジ。
これは短中期的な解決方法であり、実際にスウォッチの仕分けで学んだことだが、現状の大きさの素材が、見本として本当に必要なのか?
ホッチキスで紙の台紙に張り付けなければならないのか?などという点。
そういった細かい事に関しても、廃棄物の削減、仕分け作業効率向上の為には重要だ。実際にリサイクルの現場などで経験してみると、やはり発見する事も多い。

そして、プレコンシューマー(消費前)の生地を取り扱っているからこそ出来るのが、ラグジュアリーブランドのデザイナーなども使用した、品質が高い生地の量り売りである。

回収したレザーやレース、ファーやボタンなど特別な生地や素材、長さがある生地などを、そのままデザイナーの卵や学生、アーティスト達へ、BrooklynのウェアハウスとChelseaのショップ(6月末で閉店)、オンライン上で販売している。ONLINE-STORE — FABSCRAP
価格は、特別なレザーなどを除いて、量り売りで1パウンド(約2.2キロ)5ドルと非常に安価。ウェアハウスへショッピングのために入るには、オンラインでの事前来店予約が必要となっている。ボランティアスタッフは、対価として5パウンドまで無料で生地が購入できた。

アップサイクルするデザイナーなど、コミュニティも盛んに

販売して終わりでは無い所がfab scrapの素晴らしさの一つ。購入した生地をどう生かすか?などのセミナーなど、インスタライブで配信している。
実際にfab scrapから購入した生地をアップサイクルして販売するデザイナーやアーティスト達がfab scrapのプラットフォームで配信したり、オンラインショッピングのサイトやChelseaのShopなどで商品を販売するサポートも行っており、コミュニティを大切にしている姿勢がうかがえる。

一般消費者から出る洋服などの廃棄物ばかりに目が行きがちだが、ファッションの街NYだからこそ抱える問題、解決の糸口となる組織などが存在する。
この様な事例から学び、「ファッションの街、東京!」で売り出したい日本も、単眼的にならずに様々な角度からの取り組みを進める必要があるだろう。

まだ日本ではフォーカスされていない分野だが、ぜひ今後の取り組みを期待したい。