アメリカの大手通信会社、Tモバイル社(T-Mobile)が9月3日から、新型コロナ禍で自宅学習を続けている生徒たちにむけて、教育「プロジェクト 10 ミリオン(Project 10 Million))サービスを始めた。
これは貧困層で、学校に行けず、社会的支援が必要な家庭の生徒向けにWi-Fi接続を無料で提供して、タブレットやラップトップも安価で貸し出しするというもの。
パンデミックでさらに広がる米国の教育格差をなくすため、ネット環境へのアクセスを開放することを目標に、Tモバイル社のCEO マイク・シーヴァー(Mike Sievert)が利用を呼びかけている。
まずその背景にある、ニューヨーク市の教育事情から説明しよう。
NY市では半年ぶりに公立学校が対面授業を再開するも、すぐに学校閉鎖
NY市は10月1日、公立学校の対面授業を再開した。
当初は9月10日の再開を予定していたが、新型コロナの感染防止対策が十分でないと懸念する親や教員からの抗議があり、再開は2度も延期。
そしてようやく10月1日、3月以来の約半年ぶりにNY市内の大半の小中公立学校が授業を再開することになった。
といっても、この再開については、再拡大を不安視する保護者の間や教師、そして行政ともに模索状態であり、「対面授業」「リモート」、そして両方を混ぜた「ハイブリッド」式を、生徒が選べる形式となっている。
ところがこの再開により、新型コロナの感染陽性率が、じわじわ上がってきてしまった。
NY市の新型コロナ陽性率が、9月29日には1.38%だったのに、10月5日には3%に達したことを受け、デブラシオ市長とクオモ州知事は、感染が集中しているエリアでの対面授業を再び閉鎖する措置を発表した。
コロナ感染は、ブルックリンとクイーンズ地区で感染数の増加が目立っている。地図の赤いゾーンが、感染の要注意エリアだ。
またも学校閉鎖が続くことで、教育格差がさらに広がる懸念がある。
★NYタイムズ紙「N.Y.C. Closes Some Schools…Again」
(2020/10/05: NYTimes)
T-Mobile、教育支援で子供達に無料でWIFIとデバイスを提供!
アメリカが抱える問題は、貧困層の児童にとってネットのアクセスがむずかしいところだ。
コロナ感染のパンデミックが発生する前から、全米の学童生徒5,600万人のうちおよその学童(小学生)がインターネットへのアクセスを安定的に行うことができずに学校の宿題ができないでいた。
そのため新型コロナが広がる以前から、ネットにアクセスできない生徒の、学校での成績や卒業後の進路に悪影響を及ぼしていたことが問題となっていた。
さらにパンデミックにより、現在米国では5,000万人の生徒が在宅学習の状態にあり、特に貧困層の家庭ではインターネットにすらアクセスできない生徒も多く、学校の授業がオンラインで再開されてもそれを受けられない環境に追い込まれている子供たちも多い。
そういう事態を踏まえて、Tモバイルは今年2月のスプリントとの合併後に、インターネットにアクセスできない家庭の生徒を対象とした無料Wi-fi接続サービス「プロジェクト10ミリオン」を発表した。年間100GWまでインターネット接続を無料化するとともに、低額でデスクトップやノートパソコンも提供している。
★Every child deserve an opportunity
現在、全米で160万人が利用
そして10月6日に学校が再び閉鎖される事態になって、Tモバイルは「プロジェクト10ミリオン」のサービスを拡大するとしている。
サービスの内容はプロジェクトへの参加学校に対し、家庭ごとにハイスピードインターネットとフリーワイヤレス・ホットスポットを年間100GBまで無料にするプランに加え、ラップトップやタブレットの安価での貸し出しも用意している。いずれも生徒に対しては費用がかからない。
以下、サービスの概要を説明しよう。
●100GBで生徒たちが無料利用できる内容と時間数
・140時間: 学校の授業をストリーミング
・5000時間: ネットリサーチ可能
・320時間: オンラインバーチャル学習
・200時間: オンラインカレッジテスト準備時間
●利用可能対象者:
国立学校給食プログラムに認定された公立学校、グレードK-12の生徒が対象
●申し込み方法:
サービスに興味がある学校はフォームに記入しTモバイルに提出。Tモバイルの教育担当者が連絡
●デバイスの配給のされ方:
手続きが完了した学校の生徒たちにホットスポットか、デバイスが各生徒の家庭に支給される
●子供達が自宅でネット利用を希望する場合:
両親や保護者から各学校側にTモバイルに利用申請するようリクエストすることが可能。
今回の「プロジェクト10ミリオン」には、パンデミック発生前の3月以前の時点で全米50万人の生徒が活用。さらにパンデミックが深刻化した3月からは、全米の3100学区(通学区域)で学ぶ。
現在、さらに米国ではがインターネット回線にアクセスできない状態にあるが、同社は今回のプロジェクトを機に、それも解決していきたいと意向を示している。
同社CEOは「我々は、さらにこのプロジェクトを拡大しインターネットでの新たなサポートを構築する」と、全米の生徒たちへの教育支援の拡大を示している。
同じような取り組みとしては、カリフォルニア州では、アップルと協働で100万人の生徒にネット学習の機会をサービス拡大提供する準備を進めているという。
より多くの家庭に、インターネットのアクセスを。これは国連がかかげる、持続可能な開発目標≃SDGSの17のゴールのうち、「質の高い教育をみんなに」のゴールにもつながるものだろう。
無料インターネットアクセスの試みが、どう教育に成果をもたらすか、期待したい。

国連が掲げる17のSDGsの目標、4「質の高い教育をみんなに」