アン・ハサウェイが待機するニューヨークのホテル部屋に入っていく。
私を見たアンの美しい大きな目と口がさらに大きく開かれた。
「また、あなた? 」
天真爛漫な彼女は、心情が素直に大きな表情で表れる。
「何回インタビューするの。他に雇うジャーナリストがいないの?」
何でもはっきり仰る。ユーモアたっぷりに。
明るい人なので、何を言っても嫌みにならない。
「じつにこの3日、あなたとのインタビュー、これが97回めよ」
97回というのは冗談だが、この2日前にインタビューしたときには「あれ、これはあなたとの7回目のインタビューじゃない?」と言われた。
アン・ハサウェイとロバート・デニーロ主演の最新作『マイ・インターン』で、テレビと雑誌とプレミアの取材が続いたのだ。
それにしても、なぜ、一記者でしかない私のことなどを覚えている?
私は以前、彼女とたまたま同じエレベーターに乗ったことがあったけれど、この3~4日以外に彼女にインタビューしたことはなくて知り合いではなかった。
アン・ハサウェイの驚くべき能力は、回りをちゃんと観察していて、人を覚えることだ。私は何度インタビューしてもスターたちからは決して覚えられない、という特技の持ち主なのに!
「分かってるわ。あなたのせいじゃないわよね。あなたが雇用では売れっ子のお若いレディだってことは嬉しいわよ」
は?
お、“お若いレディ”と、私を本気で呼ぶ、このひと、って。
まあ、50代もヤング、ではあるけれど‥‥?

映画『マイ・インターン』 写真©ワーナーブラザーズ
笑わせてくれるアン・ハサウェイ。
そんな彼女が日本でも大ヒット中の映画『マイ・インターン』で演じるのは、華やかなファッション業界で成功して、私生活も充実、一見、現代女性の理想の人生を送っているようなニューヨーカーだ。
「でも、実際はというと、いまの現代女性の現状は改善される余地があると思うわ。
女性がすべてを完璧にやり遂げたとしても、社会は男性がやり遂げた場合と同じように報酬を与えないかもしれない、という現実があるのよ」
と、アンは語った。
「世が女性に対して”あなたは何でもなりたいものになれるし、何でもできる”と言っていても、”だけど、少ない稼ぎで働いてくれるのならば”と付け足したら、一体なんなの?」
そして彼女は、女性の稼ぎが男性に比べていかに低いかを、数字を使って語りだした。
「イギリスで最近行われた男女間の賃金格差の調査では、女性は年間日数に換算すると57日間、ただ働きしている、という統計がでたのよ。
それにね、誰も役者の給料に対しては同情なんてしないけれど、世界で最も稼ぐ俳優20人と女優20人の給料のギャップは、なんと6億6千万ドルなのよ」
こんなことを一生懸命、熱をこめて話してくれるなんて、アンのことだから、日本の女性地位の事情も知っているのかもしれない。
日本は、女性賃金は2014年の世界男女格差ランキングで、世界142カ国中104位という主要国最低の国。
去年の年収平均の男女のお給料の差は、国税庁によると女性のほうが239万円も少ない。
「私たちはみんな男性も女性も、いまよりベターな女性にとっての状況を要求すべきよ!」
と、力強く語るアンだが、その底抜けな明るさに、それを改善していくことが楽しいことのように思えてくる。

映画『マイ・インターン』 写真©ワーナーブラザーズ
『プラダを着た悪魔』から9年。今回の『マイ・インターン』でも、彼女の演じる現代の働く女性はとっても素敵だった。
NYの大人気ファッションサイトの女社長を演じるアンだが、彼女自身はオンラインでどんな洋服を買うのか、聞いてみた。
そして、返ってきた答えに、今度は私が目を見開いてしまう。
「セールのもの」
え? あ、あなたが ?! 本当に? と、聞き直しても「もちろんよ」と返ってくるので、大笑い。
「正規の値段で買うのって、お得な気分にならなくてつまらないでしょ」
アカデミー賞受賞女優なのに、まったくお高くとまったところがない。
それに、前向きなエネルギーのオーラが自然にでてる人なので、彼女と一緒のひとときを過ごした後は、元気になる。
アンと別れるときに「安心してね。もう、これであなたに会うことは、しばらくないと思うわ」と、笑いながら伝えた。
すると彼女は「それにはハッピーだとは言えないけど、次回は、なにか違うことについて話しましょう」と、言ってくれた。
彼女は私と同じくべジタリアンだとか。
今度はそういう話をしてみたい。
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「セレブの小部屋」No.88
Copyright: Yuka Azuma 2015