「what!?」と、言ったきり、唖然となって、しばらく声が出なかった。
2015年5月21日、ミュージシャンのルイス・ジョンソンが60才で亡くなったというニュース。死因は不明。
目を閉じて、最初に浮かんだ言葉は「ありがとう」だった。

Brothers Johnson
クインシー・ジョーンズに認められ、兄ジョージと組んだデュオ・グループ「ブラザーズ・ジョンソン」のベーシスト。
「ストンプ!」「ストロベリー・レター23」などのヒット曲がある。
ベースの驚異的なスラップ奏法が有名で、「サンダーサム(雷の親指)」とあだ名をつけられ、多くのミュージシャンから絶賛されたルイス。
ポール・マッカートニーからも「君は僕がいちばん好きなベーシストだ」と、言われたことがある。

兄弟ファンク・グループ、ブラザーズ・ジョンソン。左がルイス・ジョンソン
彼のベースは、マイケル・ジャクソンのアルバム「オフ・ザ・ウォール」「スリラー」「デンジャラス」でも聴ける。
「ビリー・ジーン」などのヒット曲でファンキーなベースを奏でているルイス。「Get On The Floor」は、マイケルと一緒にルイスが作詞作曲したナンバーでもある。
他にもジョージ・ベンソンの「ギブ・ミー・ア・ナイト」、スタンリー・クラークやハーブ・アルバート、アール・クルーやビョーク、スティービー・ワンダーやハービー・ハンコックなど、多くのトップミュージシャンのセッション・ベーシストとしても活躍した。
でも、私にとっては何よりも、優しい友人だった。
80年代、同じ飛行機で一緒にロサンゼルスへと留学した私の日本人の親友が、渡米後、すぐにルイスと出会って結婚した。
ルイスが彼女のことをとても愛しているのが手にとるように分かって、見ていて微笑ましかった。
二人はいつも一緒だった。
だから私も、このおしどり夫婦と多くの時間を一緒に過ごした。
彼らの計らいで、ルイスがベーシストとして参加したジョージ・デュークの東京ツアーにも同行した。ブラザーズ・ジョンソンの東京でのコンサートにも招待してもらった。
彼のプロジェクトや、スティービー・ニックスとのセッションにもスタジオに招待してもらって、彼らがレコーディングする様子を目前で観察しながら楽しい時を過ごした。
でも、私にとって何よりも忘れられない思い出は、ルイスの優しさだ。
私は車社会のロサンゼルスで一人暮らしを始めた、車も買えない貧乏な学生だった。
働き始めたあとも貧乏は続き、2年のうちに3回、さらに家賃の安いアパートへと引っ越した。
ある日、スラム街のような貧困地区にあるお化け屋敷のような風体のアパートまで私を送り届けたルイスは「こんな場所に若い女性がひとりで車なしで暮らしているなんて」と、ひどく心配して怒った。
そして、彼らの車を私にあげようと、言いだしたのだ。
親友は、私は決して受けとらないと伝えた。
すると、彼は「それでは一緒に曲を作ろう」と、私に提案した。
私が歌詞を書いて、ルイスが作曲する。
ヒットになったら儲けられるかもしれない、そしたら車が買えるし、治安の良い場所に引っ越せる。
私はよく詩を書いていたので、それらを持参して彼らの家に泊まりこみ、二人でトライした。
「この詩は、“ライム”(押韻)してないね。この言葉にライムする言葉(韻を踏ませる言葉)を探さなくては」
と言う彼に、まったく無知だった私は「ライム、ってなあに?」と聞く始末。
もちろんのこと、そんな私には英語の歌詞を書くなんて無理なことだった。
それでも、ルイスはなんとか助けてあげようと努力してくれたのだ。
そんなルイスの心遣いは、長年経っても色褪せることなく、私の心の中に生き続けている。
私の親友とルイスは結局、離婚したが、彼の訃報に、彼女はとても悲しんでいる。
「あんなに心の優しい、子供のように無邪気で楽しい人はいない」と、彼女。
本当にいい人だったのだ。
彼女が言うように、ルイスは汚れのない純粋な心を持った優しい人だった。
派手にスラップベースを披露する舞台の彼からは想像もつかないほど、彼の控えめで穏やかな喋り方や優しい笑顔が、私は大好きだった。
彼の死後、親友からのメールに、私は思わず涙を浮かべてしまう。
「ルイスさんは、明るくて可愛いユカちゃんのことが大好きで、私たちにとってユカちゃんは、かけがいのない友人であり、一緒に過ごした時間は懐かしく宝物のよう。
ルイスさんが、ユカちゃんの高い声を真似して“ハイ、ルイスさん”と笑いながら真似ていたのをよく覚えている。私は3人で過ごした楽しかった時間も忘れない」
そんなことを言ってくれる親友の優しさも、心にしみる。
あの当時、親友とルイスは私にとって救世主だった。
そして、私たちの心にいまもこれからも生き続けていくルイス。
ありがとう、ルイス。
私は絶対、あなたに優しくしてもらった日々を忘れない。
Copyright: yukaazuma2015
Featured Photo Credit : A&M Records
ブラザーズ・ジョンソンのヒット曲 「ストンプ!」
ブラザーズ・ジョンソンのヒット曲 「ストロベリー・レター23」
Louis Johnson Bass Solo, Brothers Johnson Live 1979
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