アメリカに住む私が取材するのは、ハリウッド役者/監督ばかりで、普段は日本役者に会う機会はほとんどない。

そして時折、日本人役者をハリウッド映画で観ると、嬉しくなる。
『ラスト・サムライ』『硫黄島からの手紙』
そして『SAYURI』『インセプション』など。

日本人役者たちの堂々たる演技と存在感には、日本人として誇りを感じてしまうのだ。

ハリウッド役者を相手にしても、なんともチャーミングな渡辺謙さん。
いつか会えたらなあと思っていた。

「いちばんカッコいい日本人俳優というと、渡辺謙よねぇ」とかコメントして、回りをなぜかシラーと沈黙させたりしながら。

そんなおり、ハリウッド版『ゴジラ』が完成し、なんと出演役者である渡辺謙さんに、ニューヨークで取材することになったのだーー。

スラッと背が高く肩幅のある体格で、鮮やかなブルーのシャツと体にフィットしたベストをエレガントに着こなす彼が現れた。
なんて、素敵なんだ!

まずは英語で、他の5~6人の外国人記者たちとのグループ・インタビュー。
私が渡辺謙さんへ質問するときも英語で、というアメリカンな状況。

そこに通訳はいるのだが、ほとんど謙さんは自力でスムーズに英語で対応している。

「あなたが怖いものは?」と、聞かれると、ニッコリ笑って
「あまり怖いものはないのだけれど」と、答え、
「でも唯一、怖いと思うのは‥‥僕の妻!」
と、ガオーとゴジラの鳴き声と共に外人記者たちを笑わせる。

いいなあ、こういう堂々とした態度でユーモアだせる人。
そんな側面は、ハリウッド役者らしい。

彼のような日本人俳優が世界で活躍してくれている、ってことは嬉しいことだ。

『GODZILLA ゴジラ』

そんな英語インタビューのあと、彼に日本語で個別インタビューすることになった。
私が待機するホテル部屋に彼が颯爽とやってきて、向かい合って座った途端、なんと私の口から飛び出してしまった言葉。

「私、ケンさんのこと、愛してます!」

じゃじゃーん!
これが、彼との単独インタビューで、私が開口一番に放った言葉だ。
渡辺謙さんは「はあ‥‥」と、言ったきり、返す言葉もなし。そりゃあ、仕方ないよね。

白人のスタッフ女性が、私の日本語を分かって「これは良いスタートね」と、英語で明るく反応してくれたので助かった。ホッ。

はははと、私自身も自分の軽々さに笑うしかない幕開けで、インタビューはスタート。
渡辺謙さんはどんな質問にも丁寧に知的に心をこめて答えてくれた。

「最初は、うーん、ゴジラねぇ、という反応だった。
前回のリメイクのものがあまり、ある意味、ゴジラが好きな日本人たちにとっては非常に納得のいかないものだったので、そのへんの懸念も多分にありましたし」

と、率直に語ってくれる。

「“えッ、ホントに、それやるの?”とお客様が思うようなものは、まず僕らがいちばん先に感じるわけですよ。
それこそ『ラスト・サムライ』のときに、“ハリウッド? サムライがトム・クルーズ? ふざけんなよー”みたいな(笑)。それは僕がまず、いちばん先に感じたわけですよ」

『ラスト・サムライ』

「だから『ゴジラ』に関しても、“え、またハリウッドがリメイクするの、どうなのよ”っていうのは、まったく同じように感じた。
でも、それを払拭するものは何か。それを、監督のギャレス・エドワーズが持っていた、ということ。

自然と文明や科学との融合というか、バランスをとることが、ぼくたちにとってどういうことなのか。それを声高ではなく、ちゃんと映画として残したい。

そんな彼のビジョンを、ギャレスと最初に会ったときに聞かされたことは、
僕がなぜゴジラをやるんだ、ゴジラをやるということはどういうことなんだ、という問いに充分でした」

そして、ゴジラの鳴き声が良いという話で、盛り上がる。

「で、なかなか鳴かないじゃないですか。ひっぱって、ひっぱって、ヒエ~ッとくる」

と、渡辺謙さん。

ゴジラの鳴き声が大好きな私は「心臓にくるんですよ」と、興奮気味。
すると「そう。なんか、魂にグッとくる」と、 渡辺謙さん。

「あれって、やっぱりね、DVDとかでなくて、劇場のデカいスクリーンとサウンドで観ると、やっぱり感動するんですよね。なぜか」

英語のインタビューの際、「その鳴き声にちょっと寂しさを感じる」と、語っていた彼なので、「ゴジラというのは、そんな声も含めて、哀愁やロマンが魅力になっているのではないかと思います」と伝える。

『GODZILLA ゴジラ』のアメリカでのポスター

すると、「あのポスターを見ると、まったくそうですよね」と、渡辺謙さん。

「何故、背中なのか。なぜ、背中!(笑)
それこそ『許されざる者』のクリント・イーストウッドですからね。背中で語るぞ、みたいな。
つまり日本の映画人たちがゴジラに託した何か。その何かが、脈々とつながってくれたのでは、と僕は思う」

そんな素敵なコメントが続いていく。
憧れの渡辺謙さんとの楽しいひととき。

『GODZILLA ゴジラ』日本公開は、2014年7月25日。

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