「映画製作の全行程の中で、ぼくがいちばん苦手なのが、映画について語ること」
と、ブルース・ウィリスは言った。あの深く甘い男らしい声で。
「できることなら、ただ観てくれと、黙っていたい。
取材をうけなくても、みんなに映画を知ってもらえるのなら良いのだが」
ブルース・ウィリスは偉いと思う。
彼なりにがんばって、仕方なく、その苦手な取材を受けてくれるのだ。何度かインタビューしたが、その努力が目に見えて可愛いのだ。
彼は複数の日本のテレビ番組名入りのメッセージまで、続けてやってくれた。
「インタビューには応じても、テレビ番組や視聴者への挨拶コールはしません」というスタンスの大スターは多いのに。
でも、それは疲れる作業だったに違いない。
終わると速攻で、ささっと隣りの寝室へと消え去り、次の取材の前に休憩時間がはいった。
役者は他人になりきって、優しい人のフリをしたり、恋しているフリをしたりと、嘘をつくのが商売。
でも、素晴らしい俳優であるブルースは、じつは”フリ”が得意でない。
「性格上、“フリ”が苦手だから、どうやって正直にやっていけるかと考えすぎてしまう。
それがぼくにとって演技のハードルになっているんだ」
と、語っていた。
とにかく正直。“フリ”が苦手だから、取材時には不機嫌になることもあるかもしれない。
で、ブルース・ウィリスは最悪だったと文句を言うのは、きまってオヤジだ。
だってブルースは、いつでも女性に優しい紳士だから。
「女性はオトコより、うんと頭が良い。
ぼくは女性を崇拝している」
この発言、彼が放つのを私は2回、耳にした。
彼にとって、女性は神のような存在なのか、と私は考えてしまう。

“A Good Day to Die Hard”
『ダイ・ハード』シリーズ最新作「ダイ・ハード/ラスト・デイ」の試写会で聞いた。カップルはこの映画デートを、どう楽しめるでしょう。
すると、すかさず彼は語る。
「観る映画は女性に権限を与えること。どこで食べるか、どんな服装にするか、すべて女性に好きなように任せるんだ。
そうすれば、すべてうまくいくんだよ。
オトコはあまり頭が良くないからね」
そんなことを、澄んだ青い瞳に見つめられながら真面目に語られると、女性の私はついポッとなってしまう。
でも、女性の前で赤くなるのは彼のほうだと、映画『RED』の取材のときに語っていたブルース。
「ぼくは自分の人生では恋に不器用。そんな自分の側面を、フランク・モーゼスの役作りに多く注ぎ込んだんだよ」
と、可愛い中年男。
「時には、スムーズに行動できるときもある。
だけど、ぼくは女性の前で痛ましいほどシャイになってしまうことがあるんだ」
彼の奥様は、とても幸せだろうなあ。
長年の妻デミ・ムーアと別れたあとも、彼女と彼女の恋人(アシュトン・カッチャー)と仲良く一緒にプレミアに参加し、この2人の結婚式にまで参加するという器の大きなオトコ。そういう人って、本当に男らしい。
きっと彼のことだから「デミとの結婚がうまくいかなかったのは、男のオレの責任だ」と、言っているに違いない。

“RED 2”
2013年11月下旬・日本公開の『RED・リターンズ』。
その新作記者会見で、私は失礼なことをブルースに言ってしまった。
「アクションヒーローというと、”若い男”を思い浮かべたものですが、あなたはアクションヒーローの年齢をかなりつり上げましたねえ」
それでも、彼はムッともせず、穏やかに応じてくれる。
「ぼくはね、もう年のことを考えるのを止めたんだ」
と、58歳のアクションヒーロー。
「時には自分の年齢を思い知らされることはあるけれど、まだ敏速に動ける。それが必要とされればね」
若造のヒーローよりも、いまのブルースのほうがうんとカッコ良い。年齢と共に素敵さが増す人は、なんとも心地良いオーラに包まれている。

『ダイ・ハード/ラスト・デイ』の試写会/ファンの集いイベントに参加する ブルースと奥様エマ・ヘミング(彼の右)。
「だれでも秘密は抱いているものだ。あなただって、秘密はあるだろう?」
と、いつかブルースに聞かれたことがある。
「うーん、どうかな。多分、1つだけ」
と、とっさに答えると、彼は微笑んだ。
「ナイス! そりゃあ、よっぽど良い秘密だろうね」
そのときに、「じつは、あなたとデートしたいという欲望を抱いているんです!」と、伝えたら、彼なら「いつか叶わない願いも、叶う日がくるかもしれないね」と、優しく交わしてくれたかもしれない。
そんな妄想さえ抱かせるブルース・ウィリス。さすが、レディーズ・マン!
copyright: Yuka Azuma 2013