私は記憶力が悪い。
もの忘れの酷さは、時折、自分でも信じられないほど。
2年前のこと。
「この週末、マット・デイモンに会えるのが嬉しい。でも、どうも前にインタビューしたことがあるような気がするのだけど‥‥」と、私。
忘れるなんてと友達に笑われ、調べたら、映画『シリアナ』でしっかり取材していたことが発覚。もしかしたら、その前にもなんかでインタビューしたような、しないような‥‥。
素晴らしく優秀な役者。脚本家としても定評あり。
でも、マット・デイモンの印象は、あまり強烈でなかったわけだ。
「ピープル」誌が2007年度 「もっともセクシーな男」に選んだ男だというのに、私にとっては「ルックスも普通の知識人」というイメージ。
そして最高にイイ人。
彼と会った人に聞くといい。彼はナイスだったと答えること間違いなし。いつでも誠実な態度で接してくれると、報道陣の間でも評判のハリウッド・スターだ。
会ったことを忘れていた私でさえ、会う機会を重ねるうちに彼の人間性の素晴らしさに感嘆させられていった。
この2年は『グリーン・ゾーン』『ヒア アフター』『トゥルー・グリット』『アジャストメント 』『幸せへのキセキ』と、マット・デイモンにインタビューする機会がたて続いた。その度、私は惚れ惚れさせられたのだ。
だって、聞いてもいないのに、彼の口からふとこぼれ出る奥様への愛。ノロケではなく、正直だから、つい溢れてしまう愛。
彼の奥様は世界一、幸せな女性だわ、と羨ましくなる。
「結婚生活を円満に保つ秘訣? それは正しい人を選ぶこと! それにつきる」
と、語る彼だ。

2010年のアカデミー賞授賞式に参加したマット・デイモンと奥様ルシアナ © A.M.P.A.S.
『ふたりにクギつけ』の撮影でマイアミに滞在していたときに、バーに行った。
「出かけるのは止めようかとも思ったんだよ。でも、結局、出かけた。もし、あの晩、あのバーに行かなかったら、どうなっていただろう。もし、あの映画に出演していなければ、どうなっていただろう」と、彼は思いを巡らす。
そこでバーテンダーをしていたアルゼンチン人の女性、一児の母ルシアナ・ボザン・パロッソと出会った。
「彼女をはじめて見たとき、彼女のまわりがオーラで光り輝いていた。実際に輝いていたのかどうかは分からない。でも本当にそのように記憶しているんだよ」とマット。
いまや、彼女の連れ子を含む4人の父親として、幸せな家庭生活を満喫中。
良い夫であり、献身的な父親であることが、ふとしたコメントから溢れでる。こういうファミリー・マンこそ、真の男。
それに、彼は世界の平穏を願う一市民でもある。
第三世界での貧困阻止や飲料水の配給、ダルフールなどでの残虐行為の阻止などの慈善活動に熱心な彼。
そして日本のイルカ猟の実態を映し出したビデオのナレーションも務め、海洋保護にも関心を示すマットだ。
去年12月9日~11日の週末3日間は、NYの有名なエンパイヤー・ステイト・ビルが血のように真っ赤にライティングされた。
その週末にマットと会った私は、それがイルカ猟の終止符への願いをこめての点灯であることを、彼におしえた。
「ああ、だからか。昨晩、赤く点灯するエンパイヤー・ステイト・ビルを見た。映画『コーヴ』の影響力はすごいね」と、彼は言った。
「私はイルカ猟に反対しています」と、伝えると、「本当?」と、少し驚いて私を見つめる。でも、イルカ猟は酷いとか、誰かを傷つけるようなコメントはしない。彼の人柄からいって、攻撃するよりも、解決法を考えるタイプの人なのだと感じた。
そんなマット・デイモンが、私は大好き。

今年6月・日本公開の新作『幸せへのキセキ』©20th Century Fox
今年6月・日本公開の新作『幸せへのキセキ/We bought a zoo』では、動物園を購入した実在の人物を演じている。
「あなたにとって、パーフェクトな動物園とは?」
という問いに、彼は恥ずかしそうな笑顔を浮かべて即答した。
「政治家達が檻の中にはいっている動物園」
激しく同意しながら、私は笑いこけた。
そして、政治に関心がある彼に、NYウォール街発祥のオキュパイ運動をどう思うか、と聞いてみる。
「ファンタスティックだと思う。この先、この運動がどこへ進んでいくのか、とてもワクワクしている。
人々のいくつもの要求が声になった。そこから多くのパワーが生まれていくと思う」
国民99%を代表するオキュパイ活動家たちは、ブッシュ政権時代に導入された富豪層に対する減税措置を問題視しているが、マットもその優遇税制に異議を唱える。
「ぼくは、自分がもっと税金を払うことを受けいれる」
と、富豪層1%に属するマットは断言した。
声を持たない生き物や弱い者、そして庶民の気持ちまで察することのできる人だと感じさせる。そのうえ、家庭を守りぬける愛の人。なんて素敵な、信頼おける男性。こういう人が最高!
この先、彼を忘れることはないだろう。
Copyright: Yuka Azuma 2012
https://www.youtube.com/watch?v=STXvAhrVP0U&w=450&h=259