“I’m really impressed with the Japanese people’s respect and understanding of living with nature.”
—- Harrison Ford
『スターウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』シリーズを観ながら育った世代にとって最大のアクション・スター。
シリアスな演技派であることも披露し、アメリカン・ヒーローを絵に書いたような大俳優。
気難しい人、という噂があったかも。
そうなのかなあ、と思っていたけれど、とんでもない。実際に会った彼は、普通の男性だった。
なんとも気難しいニュース・キャスターを演じた新作『恋とニュースのつくり方』。
「このキャラクターは、ぼくとはまったく共通点がない。これこそ、演技だ」と、コメントした。

報道陣用の部屋には、映画タイトル入りのカップケーキも陳列されていた。
NY記者会見の日、報道陣は大部屋で食事をした。普通、タレントは個室で食事するので、バイキングの食事が並ぶ報道陣用の部屋にはやって来ない。
ところがそこにハリソンがやってきて、静かにみんなに混じって朝食をとったという。
なんとも安上がり。こういう大スターはめずらしい。
合同記者会見では、ハリソンに質問が集中してしまいがちだが、彼は「まあ、ぼくのことは、これくらいにして」と、他のキャストたちの話せる場を促す腰の低い人だった。
それに、何に関してもしっかりした意見を持つ、じつに知的な人。

『恋とニュースのつくり方』でアンカー役を務める ハリソン・フォードとダイアン・キートン。 日本公開は2011年2月25日。 Copyright: Paramount Pictures
私はハリソン・フォードに単独インタビューする機会にも恵まれた。テレビ取材を終えたあと、帰り際に、前から言いたかったことを伝える。
「環境のためにいろいろ努めてくれて、ありがとう」
ハリソン・フォードは環境活動家でもあるのだ。
人類が自然と共存できる世界、生物多様性を目指す環境作りに力をいれる保護団体コンサベーション・インターナショナルに1億ドルを寄付。いまや、その団体の副会長も務める。
熱帯雨林の伐採に伴う危機を伝えるため、熱帯雨林を彷彿させる(?)自らの胸毛を脱毛(!)する姿を撮影するほどの熱の入れようだ。
(その模様はこちらで)
私のひとことに急に目を輝かせ、ハリソンはこっくり頷くと「いや、きみにありがとう!」と、言ってきた。
あまりに“ユー!(きみ)”を強く発音されたものだから、え、私、なんか彼に感謝されることした?と、自分が感謝されているような錯覚を起こす。
彼は一歩、近寄り「日本人は環境につくしてくれている。本当にありがたい」
と、誠実こめた口調で話しだした。
「でも充分ではありません。もっと、わたしたちが多くできるといいのにと願います」と、言いながら、私は彼のもとを去った。

『恋とニュースのつくり方』のNYプレミアで質問攻めにあうハリソン・フォード。 筆者撮影。
その翌日、『恋とニュースのつくり方』のプレミア試写がNYで開かれた。ハリソン・フォードも、ビジネスマンっぽいスーツの装いで黒のレッドカーペットを歩いた。
共演者ダイアン・キートンは、嬉しそうな満面の笑顔で愛想よく印象よく、だがサササーッと一秒も報道陣の目前に止まらず、滑るように消えていった。
もし前日、ハリソンと会っていなければ、彼も私たちのカメラの前にとまってくれないかも、と心配していたことだろう。
でも思った通り、彼は真面目な顔でマスコミに応じながら歩いてくる。
「ハロー!」と、マイクを向けると
「ナイス・トゥ・シー・ユー・アゲイン(また会えて良かった)」
と、ハリソンは私を覚えており、口元にわずかに“微笑みらしきもの”を浮かべながら挨拶してくれた!
そして「来日したときのいちばん楽しかった思い出は?」と聞くと、なぜか話は、また環境へと突進。それも熱意をこめて、シリアスに!
「ぼくは日本人の“自然と共存して生きる”ということへの敬意と理解に対して、心から感心してしまった。
その率先はとても意欲的で、人と自然との関係を理解するに役立つものだ」
と、賑やかなプレミア会場を背景にハリソンは語る。
「生態系を保全するための途上国支援として、日本がこれからの3年間に20億ドル(約1620億円)の資金を拠出すると宣言してくれたことに、ぼくは心から感謝しているのです」
なるほど。それで前日、私に「サンキュー」と、熱くお礼を言ってくれたのか。
こういうとき、日本人でいることは悪くないものだ。
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