彼女はまだ子供だった。
家族を皆殺しにされ、殺し屋の中年男を慕う女子になるなんて、12歳だった少女にはかなりきついことだったと思う。

『レオン』のマチルダ役で衝撃のデビューを飾ったナタリー・ポートマン。

私はこの映画に感動し、レオンを演じたジャン・レノと、大きな瞳に哀愁を光らせたボブカットの少女のファンになった。
それでも、私なら自分の幼い娘にはこんな過酷な役はやらせなかっただろう。

PHOTO : Leon/Natalieportman.com 『レオン』でマチルダを演じるナタリー・ポートマン

世間の注目を受けて育った子役スターの多くがマセすぎてグレたり、幸せを感じられない大人になってしまいがち。

ところが、ナタリー・ポートマンの場合は、ジョディ・フォスターのように地に足をつけた賢い女性へと成長した。
美貌と知性を備えた気品ある優しい女性だと、ナタリーに会う度、私は感心してしまう。

ナタリーは、自分は「遅咲き」だったと認めている。
高校時代、同年代の男女が行くパーティには一度も行かぬまま、最優秀の成績で卒業。大学生になるまで酒に酔ったこともなかった。

大学の夏休みに『スター・ウォーズ』のアミダラ王女を演じながらも、ハーバード大学で心理学の学士号を取得した才女である。
彼女の父親は医者だ。ナタリーも心理学者として活躍する日がくるかもしれない。

若い女の子たちのロールモデルになりたいという気持ちもあって、学業をおろそかにしないことは彼女が意識的に決めたことだ。
『スター・ウォーズ/エピソード1』のプレミアも、高校の試験勉強のために行けなかった。

「映画スターになるより、賢くなるほうがいい」と、コメントしたこともある彼女。

私は彼女に聞いた。
子役として早くデビューしたことを後悔することはあるのかと。

すると彼女は、
「後悔しないように努めている。
だって、後悔したって、どうにもならないでしょ」
と言って、クスクスと笑った。

「でも確かに、奇妙な感じではあるわね。私の友達はみんな、女優になってから友達になった人ばかりだから」

そういえば、デビュー作『レオン』を撮影していた7年生のとき、彼女は毎日のように泣いていたという逸話もある。
学校の友達から「映画に出て自分はクールだと思っているようね」と反応されて、友達が友達でなくなってしまった辛い時期だったという。

「人生経験が演技に影響するように、役柄も私が自分の生活で感じることに大きく影響するの。
14歳のとき、私は『ヒート』で死ぬ女の子を演じた。 その1年後、私は母親と大喧嘩をして、一度だけ自傷してしまった。
映画で手首に血を滲ませたことが、私の精神面にも影響したのよ」
と、彼女はLAタイムズ紙に告白した。

子供の頃から人生の破局を垣間見るような役を演じ、回りから特別な目で見られてきた女性が、真っすぐ自分というものを築くのは並大抵の努力じゃないと思う。

ナタリーにインタビューすると、彼女がよく自分から母親のことを話してくることに気づく。
母親からの影響は計り知れない。
それが彼女の人生に良い影響を与えていることは、母親のことを話すときのナタリーの嬉しそうな表情や口ぶりで分かる。

「母から言われて、必ずやっていることがあるの。
飛行機に乗るときは、私は必ず新しい靴下を飛行機に持ち込むのよ。それは無事な旅へのおまじない。
母が言ったことだから、私はそれを信じているの」
と、教えてくれた。

そんなナタリーも、現在28歳。彼女自身が、母親を演じるようになった。
2010年早春/日本公開の『ブラザーズ』が、ナタリーの新作映画だ。

いまNYの街角でこの映画『ブラザーズ』のポスターが目につく。

「この役柄ができたのは素晴らしかった。撮影当時26歳の私が、6歳と8歳の子供の母親になれると信頼されたんですもの。
それに私には、私の母という素晴らしいロールモデルがいたの。
とても母親らしくて暖かい母がね。だから自然に母親になれたの」
と、米兵の妻グレースを演じるナタリー は、やはり母のことを語った。

トビー・マグワイア演じる夫と、ジェイク・ギレンホール演じる夫の弟。
その二人に挟まれるナタリーの映画ポスターは素敵。
夫がアフガニスタンの戦地へと送られ、グレースと子供たちの側には服役を終えたばかりのワイルドな弟が残るという設定だ。

「真面目な兄とワルの弟、そのどちらが私のタイプ?
そうね。私自身は多分、ワルな男のほうが好みね」
と、笑うナタリーは可愛かった。

映画『ブラザーズ』では、グレースに会った誰もが「ワォ、彼女、すごくきれい」と影で呟いてしまうのが、とてもリアルな描写に感じられた。
実際、彼女が現実の生活に現れたら、誰もがそう反応してしまうことだろう。

彼女がタイプだという男性は、私の回りにもかなり存在する。
だが、男性諸君! 彼女は“妻”にするには高嶺の花だ。

「私は一夫一婦制を信じている。でも、結婚には興味ないの。
ゲイの人たちが結婚できないという法律がある限り、私も結婚しないわ」

そんなことを、淡々と語ってくれるナタリーなのだ。

Copyright: 2009 Yuka Azuma / あずまゆか

2009年11月、ニューヨークで私たち報道陣とのインタビューを終えたあと、ナタリーはこのドレスに着替えて『ブラザーズ』のプレミアに出かけた。