シューゴくんは、とても無口だ。
だけど、その静かな外面の中には、それはいろんな思考や感情が埋まっている。
それに気づいたのは彼の音楽を聴いたときだった。
彼に初めて会ったのは、彼がまだ中学生くらいの子供だったとき。
そのときも無口だった。そのときのイメージがずっと続いた。
そんな彼が青年になり、自宅で音楽を録音した。
そのCDを手にしたときには本当に驚いた。
私も訪れたことがある彼の実家の2階にある小さな部屋が目に浮かんだ。
あの部屋で曲を書いて歌って、ギターや弦楽器、ノコギリ、オモチャ(?)などいろんなものを楽器にして演奏して、なにもかも自分で手作りした彼の音楽は、すっと私の胸に入り込んできた。
それはまるで懐かしい香りのある、でもまだ触れたことのない優しい風にでも吹かれるような感触だった。
「なんて素敵な声!」
思えば、シューゴくんは私の前ではいつも無口だったため、 私は彼の声をあまり耳にしたことがなかった。こんな清らかな声で歌える子だったなんて!
無口な小さな少年は、知らないうちに成長していた。
彼のライブをはじめて渋谷のクラブで観た私はぶっ飛んだ。
独創的な音楽はさることながら、彼の喋りがまるでコメディアンのように面白かったのだ。
口ベタな部分さえ、それを自分の人間的な魅力にして押し出していた。そのトークで人々を笑わせ、彼は観客をハッピーな気分にさせてしまう。
2008年の夏、私は新潟の野外ロックフェスティバル「フジロック」に出演した彼のステージを見た。
そこで大勢の観客を相手する彼は、堂々とした大人のミュージシャンだった。
そして去年は彼のニューヨークでの初公演もあった。
夜11時からNYの「マーキュリー・ラウンジ」でライブがあると聞き、1時間も早めにライブハウスに到着したのに、すでに外には長い列。
当日チケットを買えば良いと思っていた私は大間違いだった。前売り券のない人は入れないと言われてしまったのだ。
え、だって、シューゴくん、日本語で歌う日本在住のソングライターだよ。
な、なぜ、ニューヨークのライブハウスで売り切れ?
NYで日々、活動している西洋人ミュージシャンでさえ、「マーキュリー・ラウンジ」を満杯にするのは難しいことなのに。
係員にキャンセル待ちしたいなら11時に戻っておいでと言われた。
私たち以外に10人くらいのアメリカ人らが外でキャンセル待ちをあてに戻ってきていたが、みんなやはりダメだと言われて退散するはめに。
その1ヶ月後、シューゴくんの計らいで無事に彼の演奏をCMJのイベントで観ることができた。
600人くらい収容できるというバウリー・ボールルームは満杯。
日本語で歌う彼にアメリカ人たちが総立ちで熱い眼差しを注ぎ、大喝采。
少年は大人として世界に羽ばたいた。
私は親のような気持ちになって目頭が熱くなった。

シューゴ・トクマル@Bowery Ballroom Photo : Tammy Lo
その後、シューゴくんはNYタイムズ紙の日曜版にも、彼の音楽を絶賛する記事が写真付きで掲載された。
今年の夏にはイギリス、アイスランド、デンマーク、スペインでの公演も控えている。
日本の小さな部屋で手作りされた小さなサウンドは大きく世界へと発信されていく。
©2009 Yuka Azuma/あずまゆか
シューゴ・トクマルのウェブサイト:http://www.shugotokumaru.com/