米国大統領選挙を目前にした2008年10月。
私は副大統領候補のサラ・ペイリンと彼女を支援するバカ女たちへの怒りに心も休まらない日々を送っていた。
女性の敵だとしか思えない女を何故、女性が支持するのだ?

環境保護なんて全く頭にナシ。動物の絶滅など問題ではない。
中絶の権利はレイプで妊娠した女性にも与えてはならぬと信じ、その上、性教育には反対というペイリン。
市長時代には強姦に遭った被害者に事件の検査代を払わせる新システムを導入した女性が、野生動物をガンガン射撃して喜ぶ人物が国のリーダーになったらどうなるか。戦争が起こる。

でもマドンナが私の気分をスッキリさせてくれた。
私が彼女にインタビューした前日も、マドンナはマディソン・スクエア・ガーデンでのコンサートで

「サラ・ペイリンなんて、どけ! 私は彼女のお尻をケッてやるわ」

と、暴言してくれたのだ。

その模様を映し出したビデオのインターネット掲示板にはマドンナへの非難がすごい悪口で書き込まれている。
そう、大スターにとって政治的なコメントはリスクが伴うものなのだ。
でも自分が正しいと思ったことを堂々と言ってのける彼女が、私は大好き。
女性権利を無視するペイリンへの拒否を表現してくれたマドンナ、そしていまの世の中がどんな危険な方向に向かっているかを他の曲でも訴える彼女は、私のヒーローとなった。

タイトな黒のタンクトップとパンツ姿で颯爽と私の目の前に現れたマドンナ。
すごい腕だ。筋肉がしっかりしてる。見習ってエキササイズを始めたくなる。

会って尚更、彼女が好きになった。
マドンナは率直で面白い。さっぱりしていて頭がよくて自然体で、私が友達にしたいなと願うタイプの女性だった。

「スティッキー&スウィート」ツアー中のマドンナは、このツアーでバックダンサーを務める2人の日本人ダンサー・ユニット「はむつんサーブ」のためにインタビューに応じてくれたのだった。
なんと、この2人のダンサーたちを含む5人組ミュージックバンド「Big Baby」が、前日のマドンナのマディソン・スクエア・ガーデンのショーでオープニングアクトを務めたのだ!

コンサートに行った友人の話によると、照明が暗くなった途端、みんなはマドンナが出るのだと思って絶叫したらしい。
ところが出てきたのは日本の無名バンドで、それも日本語で歌いだしたのだから観客は相当びっくりしただろう。
それでも2万人の客から拍手喝采を受け、パフォーマンスは大成功。
マドンナも「はむつんサーブwith Big Baby」はユニークだ、と賞讃していた。

マドンナの新曲「フォー・ミニッツ」のプロモーション・ビデオにも「はむつんサーブ」が赤いジャージを着込んでダンサーとして登場している。
彼らはこれから「マドンナが発掘したアーチスト」としても世界的に有名になっていくのかもしれない。

10月7日、マドンナのNYマディソン・スクエア・ガーデン公演で大喝采を浴びた「はむつんサーブ」

「はむつんサーブwith Big Baby」のリーダー、リキさんはかなり面白かった。
だって2人のダンスをYouTubeで見て気に入ったマドンナが、彼らにバックダンサーとしてツアーに同行してほしいと依頼してきたとき、彼らは断ったのだ。
「半年もマドンナのツアーで時間をとられたら日本での活動ができなくなる」というのが理由だったらしいが、それにしても相手はマドンナだよ!

結局、彼らのバンド「Big Baby」をマドンナのオープニングアクトにするという条件で「はむつんサーブ」のリキさんとダーヨシさんがダンサーとしてツアーに参加することになったのだが、普通、マドンナから直々オファーがきたら、条件なしで飛びつかない?
それに「はむつんサーブwith Big Baby」は今年デビューしたばかりの新人なのだ。

「僕はバックダンサーではなく、アーチストだから」

と、語るリキさんには感心した。
そういう自分のやることに対する誇りは大切だな、と認識させられた。

マドンナも、そんなリキさんは自分と似ているところがあると思った、と語っていた。
それでマドンナはツアー中の休日の晩に「はむつんサーブwith Big Baby」のために時間を作ってくれたのだ。
それで私は幸いにもその取材のインタビュアーになった。

この日本向けのインタビューが終わり、マドンナが帰ろうとしたときだ。
いきなりアメリカ人らしき男性が「MTVのために写真を一枚!」と言って、MTVの大型ポスター2枚を抱えて滑り込んできた。
「え? 何のために?」と、戸惑うマドンナの横に立って、その男はもうカメラマンの前でポーズを決めている。

マドンナは「私、お腹すいているのよ〜。時間ないわよ」と、少しばかり文句を言ったが、その言い方が率直で可愛かった。

「それに彼、お洒落なカッコしてないじゃない!」

彼女って正直で楽しい。そんなことを言われても、Yシャツをジーンズの上に普通に着る彼はマドンナの横でニコニコとポスターを抱えて嬉しそう。私も大笑い。
カメラの前で一瞬、吠えるようなポーズをとってから「食事の時間よ。もう行くわよ」と、マドンナはさっさっと部屋から退散した。

そのあと、いつまでもその場に余韻が残った。
彼女と接した誰もがワクワク心を踊らせていた。彼女のオーラはただものじゃない。自然体なのだけど、この大スターのエネルギーは並大抵ではない。

マドンナと会ったあとの私は急にエネルギーが漲った。
サラ・ペイリンへの怒りなんかに悩まされてる場合ではない。それをエネルギーにしてでも前進していかなきゃ。

50歳になっても、常に前進し続ける彼女は素晴らしい。
私も前進しなくては!

©2008 Yuka Azuma