ふと笑ってしまう。気がつくと、おデブちゃんな彼からフムフムとダイエット法を学んでいる。 運動が苦手で地下鉄の駅まで歩くのもおっくうな私が、マイケル・ムーアと話したあとは「そうか、一日一万歩は歩かなきゃね」と、ニューヨークの街を踏む足取りが意味あるものに。

「何も特別なことをしたわけじゃなくて、食べるものに少し気をつけたんだ。毎日30分から1時間、散歩に出かけた。それだけで3ヶ月で30ポンド減量できた」と、マイケル・ムーア。

ロジャー・エバート(映画評論家)からもらったプリケン・ダイエットの本を参考にしたそうで、毎日35グラムの食物繊維を食べて7~8時間の睡眠をとること、と教えてくれた。
ピーナッツの代わりにお腹がいっぱいになるジャガイモを食べるのだよ、と。 彼の減量は、アメリカの保険医療制度の過酷な現実にフォーカスをあてた映画『シッコ』を製作したのがきっかけだった。

ニューヨークの記者会見に応じたマイケル・ムーア監督 photo by Romi Nakajima

「健康に関するドキュメンタリーを製作しているのに自分の健康に無頓着なのは、あまりに偽善者なのでは」と、思ったことが減量につながったという。

「製作中、多くの病人や被害者たちと出会った。
環境やライフスタイルを少し変えることで、この破滅の医療保障の被害者になることを避けられるのではないかと考え始めたんだ」と、語る目の前のマイケル・ムーア監督は、う~ん、やはり大きいが、前回『華氏911』で会ったときよりは少し細めかも。

今回の作品『シッコ』も多くの人々が知るべき事実を提示して、保険の企業アメリカを敵に回しても暴いていく度胸には脱帽だ。
その上、重いテーマを扱いながら、ちゃんとユーモアも織り込んでエンターテイメントに仕上げているムーアの器量はすごいと思う。

「政治的な運動を起こしているわけじゃない。僕は説教師でもない。僕はフィルムメーカーだ。
だから僕が一番やりたいことは、人々が金曜日の晩にワクワクしながら観に行きたくなる映画を作ることなんだ」と、言いきった。

「僕は君が行ったこともない場所へと連れて行くよ。
ボートでグアンタナモ湾を帆走している奴なんて見たことがあるかい。
僕はリチャード・ニクソンのウォーターゲートのテープを見せるんだ。
それもウォーターゲートとはまったく関係ない事柄、そもそものHMO(保険管理機構)の近代の始まりを彼が話すのを見せるんだ。
夜のニュース番組にだって出てこないものが次から次へと飛び出してくるのさ。それが僕の映画なんだよ」

お金がなければ医療も拒否されるアメリカと対比して、明るく映し出されるのが無料で医療を受けられるカナダ、フランス、キューバの人々。
それらの土地でロケ撮影が展開されるが、私は記者会見で彼に聞いた。

「なぜ日本には撮影に来なかったのですか」

マイケルは朗らかに即答した。

「理由は、飛行機の飛行時間が長いからだよ!
基本的なアメリカ人のレイジーさのせいさ。僕たちには君たち日本人が備えている勤労モラルがないんだよ。
でも、それに関して君たちは素晴らしい、幸運を祈るしかないね」

日本の保健医療制度は良いものだがレイジーで行けないんだよ、と嬉しそうに告げる彼に場内は大爆笑。素顔はとても楽しい人なのだ。

「いつかは来日したい。
『華氏911』の国外での劇場売り上げは日本が一番だった。それは正直なところ予測していなかったことだった。
イギリス、フランス、ドイツよりも、日本での売り上げが良かったんだよ」と、語ってくれた。

庶民的で優しくて頭が冴えていて、私は彼の体型も含めてマイケル・ムーアが大好き。

©2007 Yuka Azuma