「だって、なんか顔が怖かったんだもん」

と私の親友は、彼からの誘いにのれなかった理由を呟いた。

ニコラス・ケイジだ。
な、なんというもったいないことを。相手はあのアカデミー・オスカー受賞俳優だよ。

エルヴィス・プレスリーの娘リサ・マリーと離婚したあとで独身だった彼。
いまではレストランのウェイトレスをしていた韓国人女性と結婚して、10月にカル・エルという男の子が生まれたばかりだ。
あーあ!

でも、彼の顔を見て、後ずさりしてしまう気持ちは分からないでもないような気がする。

じつは私が初めてニコラス・ケイジにテレビの取材で会ったとき、思わず本人に言ってしまったのだ。

「あなたの顔って“ニコラス・ケイジー!”って感じ!」

ふつう映画スターって、映画で見るよりも小作りな顔だったり、アクが少なめに見えたりするものなのだけど、ニコラス・ケイジの場合、スクリーンで見るアップの顔がそのまま実物大、という感じなので、びっくりしてしまったのだ。

「よくそう言われるんだよ」

と、ニコラス・ケイジが反応してくれたときには、えー、やっぱり、と笑ってしまった私だ。
それでも彼の俳優としての実力と、その打ち込みかたには、ただただ脱帽してしまう私だ。

「ゴキブリだって食べたし、自分の歯だって抜いた」

と、いつかの取材で語っていたニコラス。
な、なんのために?

「役柄のために」

それって、あまりにもケナゲというか、病的というか。

訴えるような少し哀れな輝きを持つ瞳には不思議な魅力があって、いかに彼が演技に真剣に取り組む真面目な役者であるかということ知れば知るほど、愛おしくなってしまう。

「若い頃は自分がやっていることを把握していなかったんだ」

と、いまでは特殊メイクなどを使う映画技法を受け入れられるようになり、自分の健康を損なうことは避けるようになったと語る彼にホッとした。

「演技を通して、なにかこの世のためになることをしたいんだ」

と、語るニコラスの願いは、彼の新作『ロード・オブ・ウォー』で叶ったと思う。
その作品で彼が演じたのは、アフリカの貧しい国を統裁する凶暴な独裁者らに武器を流し込んで大金を稼ぐ武器商人だ。彼のビジネスは結果として、多くの罪ない人々の命を奪い取る。

「彼をチャーミングな悪魔にしたかった」

と、彼はこの主演キャラクターについて語った。
それは悪に脚光をあてるためではなく、ただ単に彼はセールスマンであると判断して、セールスで成功するのは人好きのする男であるはずだと、彼が役作りに真剣に取り組んだ結論だった。

それは成功した。私たちは好感の持てる男だからこそ、彼の語るストーリーに耳を傾けたのだ。

そして私たちはそんな武器商人がこの世に実際に存在するということを、そしてアメリカやイギリスやフランスやロシアや中国が武器販売で大儲けをしているディーラーにすぎない、ということを衝撃として知る結果になった。

私はこの新作を見て、しばらく考えさせられた。
こんな世の中をベターにするために自分には何ができるだろうかと。

濃厚なニコラスの顔の下には、とてつもない一生懸命さと、優しい心が詰まっていて、私はいつでも彼を応援したくなる。

©2005 Yuka Azuma