この娘、会う前から好きだった。
全米テレビ・シリーズ『ダーク・エンジェル』で主演デビューした彼女のこと。
セクシーで、可愛くて、ちょっとばかし私のイトコの舞ちゃんに似ているところが、大好きだった。
で、当のジェシカ・アルバに会ってみると……。
なんか実際はピチピチしすぎているオンナの子だなあ。
若いエネルギーが率直に発散されていて、ちょっとついていけない感じもするぞぉ。
と、勝手に、ジェシカへのイメージを脳が整理しようと働き始めたとき、彼女は語った。
「女性に必要なのは、良い女友達なのよ」
その言い方には心がこもっていた。
「私は転校ばかりしていたから友達を作るのがヘタだった。9校もの違う小学校に通ったのよ。
大きくなって友達と絆を結べてからは、その大切さを痛感してる」

(C) Universal Studios 『フラッシュ・ダンス』のヒップホップ版みたいな映画『ハニー』に主演のジェシカ・アルバ
初の主演映画『ハニー』を見たら、彼女は黒人かな、と思ってしまう。
でも白人にも見えるし、ヒスパニックにも見える。
エキゾチックな顔だなあと、その魅惑的な容姿に見入りながら、質問を続けてみた。
「真の友達」ってのは、どういう人?
そんな何気ない質問に返された彼女の答に、私はあぜんとなった。
はっきりと彼女は言い切った。
「良い友達っていうのは、批判的にならないで理解してくれる人。
まちがいを起こしても自由にさせてくれる人。
変化しても、成長しても、まちがいを犯しても、それを許してくれる人」
この言葉にガーンときたのだ。
ふと私は、ある親友のことを思った。
ティーンの頃からの友人で、家族みたいな存在だった。
誕生日やバレンタインデーやクリスマスには必ず、心のこもったプレゼントを心のこもった方法で贈ってくれた親友。
「姉妹みたいに似てる」とか言われながら、二人でよくつるんでロスアンジェルスの街を徘徊したものだ。
でも私が結婚生活に落ち着き始めようとしたとき、彼女はダンナのまわりの男たちとデートし始めたのだ。
次から次へと狭い範囲で、ダンナの仕事仲間たちが彼女と情事を持っていったら……。
いったい、どうなっちゃうのよ!
恋愛にルールはない。
好きになった人が、好きな人なんだから。
相手が誰であろうと、人を好きになることは仕方ないことなのに、私は彼女を理解しなかった。
「手当たりしだいに熱くならないでよぉー!
いつまでもティーンエージャーみたいなんだから」
と、私は怒った。
もっと大人になってほしいと腹立たしく感じたのだ。
大切な友達だからこそ、スマートに行動してほしかった。
いま気がついたけど、私は批判的だったってことだ。
性格上、私が批判的になることなんて絶対ない、って思いこんでいるくせに。
男くせが悪いとか決めつけて、彼女に冷たく接してしまった恥ずかしい自分。
彼女の行動の裏に潜む、彼女のけなげな気持ちを理解してあげなきゃいけなかったのに。
「ダンナの回りには金持ちいないから、つき合うのはよしといたほうが良いわよ。あのコは可愛いけどねぇー」
と、彼女と一緒になって楽しく騒いであげればよかったのに。
なんで、それができなかったのだろう。
彼女の気持ちは純粋だってことは、私が一番よくわかっていたことなのに。
彼女はただスキャンダルな雰囲気のある女性なのだ。
彼女の側にいたら、いろいろなハプニングが起きるから面白いったらない。
それがまた彼女の魅力でもあるのだ。
そんな彼女はまったく変わる必要なんてなかったのに、
どうして私、彼女を変えようとしてしまったんだろう。
「私は彼女の良い友達じゃなかったな」
ジェシカ・アルバが定義する「良い友達」にそぐわなかった自分を反省しはじめた。
そういえば昔、私の家に居候中だった彼女は、朝帰りの言い訳として、私にこう言ったものだ。
「怒られるんじゃないかと思って怖くて、あなたに電話できなかったの」
笑っていたけれど、いま思えば、彼女は本気で私のことを怖がっていたのかもしれない。
それも、いまになって気づいたこと。
「もー、心配させてぇー!」と、私は彼女に恩を叩き売りしていたっけ。
大きな溝ができたように思う。
それは私のせいだ。
それは、ちょっと悔しいけど認めなきゃならないことだ。
その溝を埋めなきゃと思ってるし、そんなものは私たちの仲だからすぐに埋まるだろうとも思ってる。
遠くに住んでいる彼女がいま、すごく恋しいし、次に会ったときには彼女を抱きしめて謝りたい。
それにしても、こんな大切なことを、ふと私に気づかせたジェシカ・アルバ。
ただもんでは、ありませぬ。
ただの若娘ではなかったのだ。
こんなギャルからも学べるなんて、人生、やっぱり楽しい。
©2004 Yuka Azuma