なんと、ワタシ、渡米歴21年。
映画『カッコーの巣の上で』の原作者、いまは亡きヒッピー作家ケン・ケーシーを訪ねたときのこと。
「いやあ、何年アメリカに住んでても、日本語アクセントがとれないもんなんだねえ。こりゃ驚いた」
と、言われてしまった。
率直な彼の驚きに、苦笑した私。
日本語を話せば、日本に住む人たちからは「おばあさんが話す日本語みたい」と言われてしまう。死語を平気で駆使する私。
アメリカでは外国人という殻から脱皮できないくせに、日本を訪れれば強烈なカルチャー・ショックを受けてしまうガイジンになってる。
ただ幸いなことに、私には賢く常識ある、おまけに美女で、人の好い妹がいる。東京に住む彼女に、私は時折、質問を浴びせては、呆れられながらも勉強できるのだ。
2003年9月23日、私が彼女にあてたメイルだ。
『昨日、ドリュー・バリモアとベン・スティラーの二人相手に、テレビ用のインタビューをしたの。『DUPLEX』というタイトルの映画で、1つの建物に2所帯はいっている家が舞台。

(c) Miramax Films 『Duplex』で共演のドリュー・バリモアとベン・スティラー
日本でも二世帯住宅に住んでいる人たちが多いので、その人たちへのアドバイスを聞くように頼まれていたので、聞いたところ、
「日本語では、そういう住宅を、どう呼ぶの?」
と聞かれて、
「にしょたい・じゅうたく」って、教えてあげたのよ。
二人ともテレビ・カメラの前で、何度も私から発音を教わって、ちゃんとその言葉を日本語で言ってくれたの。
で、あとで気が付いたのだけど、それって「にせたいじゅうたく」だったかなあって。
ねえ、「に・せたい・じゅうたく」のこと「に・しょたい・じゅうたく」って、呼んだりもする? それとも、これって大きなまちがい???
日本向けのテレビ・インタビューは私しかやらなかったから、もし、それで意味が通じなければ、かなりヤバイのだけど・・・おしえて・・ドキドキ。』
で、早速、妹から返事メイルがきた。
『ところで、日本語の質問だけど、マジ、お姉ちゃんヤバイよ。
生きた日本語を知らないどころか、この日本語なんて常識だよ。
答は、2世帯住宅「にせたいじゅうたく」に決まってるよ~~。
マジで「にしょたいじゅうたく」ってアリだと思ってた?
でも、大丈夫。
発音的にはよくわかんないから。
きっと「にせたいじゅうたく」に聞こえるよ。
でも、ポイントとしては、私はそんな日本語を知らない姉を持つと恥ずかしいってこと。
いちおうジャーナリストとして日本語書いてお金もらってんだったら、もうちっと本とか読んだほうがいいみたい。
かなりヤバイ。
という訳で、ドキドキの答は ”ぶーーー!”の大不正解でした。
がんばれ!』
ハアーッ。
「日本でのこの映画のタイトルは、”ニショタイ・ジュータク”にすべきだね!」
だなんて、ベン・スティラー、盛上がってくれてたのになあ。
またひとつ、お勉強をした私は、即、仕事の依頼主にお詫びのメイルをうった。
と、ところがだ。
テープを聞き直してみると、ドリュー・バリモアはちゃんと「ニセタイジュータク」 と、発音しているではないか!
な、なぜ? とりあえず、感心、感謝。
さすが『チャーリーズ・エンジェルズ』続編のプロモートで、来日を果たしたばかりとあって、デタラメ先生の上を行く。
「”ハジメマシテ、ヨロシク”って、言えるのよ」って、日本語も話してたしな。
その点、ベン・スティラーは、「ニショタイ・ジュータク」って、きっちり発音しちゃって、まだまだ修行が必要だな?
©2003 Yuka Azuma