今年第90回アカデミー賞授賞式でいちばん驚いたのは、最優秀外国映画賞『ナチュラルウーマン』の受賞を伝えるプレゼンターとして、壇上に立った86歳の女優リタ・モレノの美しい姿だった。

リタが登場すると、ハリウッドの著名映画人たちは彼女の功績に敬意を示し拍手喝采を浴びさせた。

すごい!なんて若いんだ!と、私は驚いた。

©A.M.P.A.S.

それも1961年の名作『ウエスト・サイド物語』アカデミー助演女優賞オスカーを授賞したときと同じドレスを纏って現れたのだ!

「箱にもしまってなくて、いつもクロゼットにかかっていたドレスよ」

と、リタはレッドカーペットで語っていた。

つまり、56年間ずっとタンスの隅に置かれていた洋服が世界中の人々の目の前で蘇ったのだ。やはり1962年のアカデミー授賞式でオスカー像を握った手に着用していた黒のロンググローブと共に。
それも86歳となったいまになって、ドレスは若娘が着そうなオフショルダーにリメイクして。

なんて、ルックスも気持ちも行動も若い女性なんだ!

第90回アカデミー賞授賞式に娘と共に参加したリタ・モレノ
©A.M.P.A.S.

じつはそれは、私が昔、彼女にインタビューしたときに受けた驚きと、同じだった。

25年前、私は新聞社の通訳として『ウエストサイド物語』の出演者や監督ロバート・ワイズらに取材する機会に恵まれたのだ。

アカデミー賞で11部門ノミネート、作品賞、監督賞を含む10部門でオスカー受賞に輝いた振付け師ジェローム・ロビンズが共同監督を務めた名作について、改めて取材したのだった。

celeb102_3

『ウエストサイド物語』のリタ・モレノ

このニューヨークの街が舞台になったミュージカル映画『ウエスト・サイド物語』が製作されたのは私が生まれる前だ。

ナタリー・ウッドが主演したマリアの親友アニータ役のリタも、もう61歳だと聞いて、若娘だった私はイキのいいおばあちゃんが目の前に現れるのを想像していた。ところが、目の前に現れたリタ・モレノは確かにイキは良かったが、”おばあちゃん”ではなかったのだ。

当時61歳だったリタ・モレノと著者

美しく、元気いっぱい。
当時でさえ、すでに封切りから32年も経っていた出演作なのに、細かく思い出話を聞かせてくれた。

そして、インタビューの途中で席を立って踊りだしたりと、とにかく若々しいことに驚かされたのだった。

「あれからもずっと、踊りも歌も現役で続けているのよ。この仕事のおかげで素晴らしい体験をしてきたわ。いまでも大忙し。
だって、歌とダンスができるだけでホワイトハウスからも招待されて、大統領の前でショーを披露したりもできるんですもの」

と、楽しそうに語っていた。

やはり25年前、アニタの恋人ベルナルドを演じて助演男優賞オスカーに輝いたジョージ・チャキリスにも驚かされた。

目の前に現れたのがあまりに素敵で若々しい男性だったのだ。
颯爽としていて、動作が軽やかで、うっとりした。

celeb102_5

『紳士は金髪がお好き』でもダンサーとして登場したジョージ・チャキリス(右端)。

ジョージマリリン・モンロー『紳士は金髪がお好き』にもダンサーとして登場した踊りの達人。

ダンサーというのは年をとらないものなのか、と驚いたが、やはりそうなのだろう。
最近、ダンスは若さの秘訣だという科学的な研究結果を示す記事を読んだときには頷いた。

『ウエストサイド物語』のジョージ・チャキリス

現在80代でも若々しいジョージ・チャキリス

そして、やはり、自分の好きなことに時間を費やして生きてる人たちは、イキイキしているのだ。

だから、私は進路を考えている我が子たちに言う。
「どれだけのお金が稼げる職だから、という理由で職業は選ばないこと。そうじゃなくて、自分がやりたいことを職にするのよ」

だって、自分がやりたいことを仕事にして生きている人たちは、お金のために働いている人たちよりも幸せだから。

軽やかにレッドカーペットを歩き堂々と舞台に立ったリタ・モレノが生き生きしているのも、それだと思う。
歌もダンスもできる女優は、それが楽しくて仕方ないのだ。

好きなことを貫いた結果、リタアカデミー賞トニー賞グラミー賞エミー賞を全て受賞した珍しいマルチ才能のスーパーウーマンとなった。

作品製作から長い月日が流れたあとでも、監督や役者たちはまるでそれが昨日の出来事のように鮮明に覚えていて、「こんなことがあったのよ」と、またそれを再現して楽しめる。

映画は、彼らにとっても決して枯れることのない宝物。世界中の多くの人たちと分かち合える宝物を持つ彼らを羨ましく感じた。

celeb102_8

リタ・モレノとジョージ・チャキリスがそれぞれ助演女優賞と助演男優賞でオスカーに輝いた1962年のアカデミー授賞式。
© GettyImages

そしていま、スティーブン・スピルバーグ『ウエスト・サイド物語』のリメイクを新しく製作することになり、現在キャスティングが行われている。

プエルトリコ人の役柄には実際にスペイン語を話せるラテン系役者が募られているので、人種は信ぴょう性あるものなりそうだ。

『ウエスト・サイド物語』
と同年に製作された『ティファニーで朝食を』では、オードリー・ペップバーン演じるホリーと同じアパートビルに住む日本人男性の役を白人のミッキー・ルーニーが演じた。

そんな時代だったから、ジョージ、そしてプエルトリコ人であるリタでさえ顔を黒塗りにして『ウエスト・サイド物語』を撮影したという。
そんな変わりゆく時代の歴史の中で、ずっと踊りながらサバイバルしてきたリタジョージ

やっぱり、自分の好きな道を貫いて生きてきた人たちは眩しい。

copyright: Yuka Azuma 2018

Featured Photo Copyright : VALERIE MACON/AFP/Getty Images