Constance Wu in “Crazy Rich Asians.” ©Warner Bros.Pictures
先週末の全米ボックスオフィス第一位を叩き出したのが、『Crazy Rich Asians』(クレイジー・リッチ!)なんと$26,510,140 という売り上げです。
スーパーど金持ち男子と、フツー女子の恋
この作品は、ケヴィン・クワンによるベストセラー小説の映画化です。
ネットフリックスからの巨額なオファーを断って、製作チームがワーナーブラザーズでの映画化を実現したというもの。
話はいたってシンプルで、身分格差の恋のドタバタ。
NYに住むレイチェル・チューは生粋のニューヨーカーで、NY大学で経済学を教えている教授。歴史学の教授であるニック・ヤングが恋人です。
そしてニックが親友の結婚式のために、彼の故郷であるシンガポールに一緒に飛ぶのですが、なんとシンガポールのヤン家はとんでもない財閥だったと判明!
うひょー! こんなん、あり得ないクレイジー・リッチ!
クレイジー・リッチな暮らしに圧倒されるわ、彼のママからは激しく見下されるわ、御曹司のニックをがんがん狙う女子たちがいるわ、レイチェルは心ぐさぐさに。
中流階級のアメリカンな価値観で育ったレイチェルと、華僑の大富豪ヤン家の家風という、異文化の違いがカルチャーギャップを生みます。
はたして二人の恋はうまくいくのか!?
というわけで、スーパーリッチ御曹司とフツー女子。
プリンスと村娘。
そんなの百万回くらい、マンガや映画で見てますやん!
と思うのだけれど、やはり『プリティウーマン』から『美女と野獣』まで含めて、この手の話は永遠の人気テーマなんでしょうね。
驚いたことに、辛口揃いの批評家からは大絶賛!ものすごく好意的な意見を得ています。
アジアのクレイジー・リッチぶり
ハリウッド映画は時代を映し出す鏡といえますが、この映画はストーリーよりも、
「クレイジーにリッチなチャイニーズ」
「シンガポールが舞台」
というあたりが、じつに今っぽい。

© Warner Brothers
80~90年代では、1988年公開の「ダイ・ハード」や1989年公開の「ブラック・レイン」といったように日本が脚光を浴びていたわけです。
当時の日本経済はイケイケどんどんだったんですねー。
でもってハリウッド映画には民族的バイヤスがかかるわけですが、それでいうと、日本人の出番はだいたい「巨大コーポレート」か「ヤクザ」あたり。
ヤクザって世界的に通じる単語になっていて、ある意味、クール・ジャパン・ブランドですね(苦笑)
あと「女子高生」と「芸者」もあいかわらず強い!
いっぽうロシア人ならマフィアで、体中に刺青があって、少女売春とか人身売買に携わっている。だいたいプーチンみたいに無表情。
南米人だったらギャングで、間違いなくコカイン密輸に係わっている。
チャイニーズだったら同じくギャングだけど、だいたい賭博と売春。
中華レストランの後ろに、必ず隠し部屋があるよね。
これが韓国だと、同族財閥みたいな流れ。
「センス・エイト」というウォシャウスキー監督のHBOドラマシリーズでは、韓国の同族大財閥が、息子の不始末をもみ消すために、娘をスケープゴートにするという設定が「いかにも!」で、ハリウッドもよく把握してんだなー、と思った覚えがあります。
そしてアジア系のワルはなぜか絶対にカンフーで戦うよね。
銃で撃てばいいのに、ムダにカンフーするという。
ミッシェル・ヨー以外は知名度のないキャスト
で、この映画の特徴は、カンフー映画じゃないのに(笑)キャスト全員がアジア系ということ。
これって画期的なことなんですよ。
なんと『ジョイ・ラック・クラブ』以来だとか。
しかも名の知られた俳優があまり出ていない。
大スターは、ニックの母親を演じるミッシェル・ヨー。
またアメリカでは、コメディアンであるケン・チョンも知られています。
そして隠し球が、ラッパーのオークワフィナ。ヒロインの親友役で登場しています。

©Warner Bros.Pictures
この映画の役柄だと、なんだか吉本の芸人みたいに見えますが、クイーンズ出身のオークワフィナは、なんと『オーシャンズ8』にも抜擢された、旬のアジアン・コメディエンヌなのです。
しかし残りは、「どこのどなたさんで?」と思うほど、知らない俳優ばかり。
ヒロインのコンスタンス・ウーはコメディドラマ『Fresh Off the Boat』に出ていて認知度はあるものの、かつてのルーシー・リューのように売れているわけじゃない。
ヒーローのヘンリー・ゴールディングはアメリカではまるっきり無名。
さほど名前が売れている俳優を使わないで、大ヒットしたのが、またすごい。
アジアなのに、ロマコメ
そしてロマコメだというのも、画期的。
もちろん香港映画でも日本映画でも、こんな設定のラブコメ、いくらでもあるはず。
でもハリウッドで知られるアジア映画となると、話は別。
昔、『ジョイ・ラック・クラブ』を観に行った時、一緒に行ったチャイニーズ・アメリカンの女の子が、
「なんかチャイニーズの話になると、お涙ちょうだいなのが苦手なのよねー」
と感想をもらして、「いえる!」と思った覚えがあります。
アジア系映画は昔から「泣き」のエンターテイメントなんですよね。
『さゆり』でも『ラスト・サムライ』でも、なにか悲劇感、苦労感がハンパない。
それがここに来て、ラブコメ!
ラブコメというのはデートムービーに強いから、だいたいサタデーナイトライブで人気が出た男性コメディアンと、明るいキャピ感がある白人女優みたいな組み合わせじゃないですか。
マイナーなアジア系キャストだけで成りたったのは、すごい!

© Warner Brothers
アジア男性がモテ対象になったのは画期的!
そしてアジア系男性が「セクシー」というのも、今までになかったこと。
もちろんアジア系女優であれば、ルーシー・リューでもチェン・ツィイーでもセクシーといわれてきたわけです。
でも男優がなぜかセクシャルなイメージを持つことはゼロ。
アジア系男性といえば、
「大病院モノとか宇宙モノで、人種格差がないように投入されるキャスト」
「脇役」
「マジメだけれど毒がない、控えめ、有能」
「たいてい眼鏡をかけた役柄、おたく」
みたいなイメージ。
渡辺謙や真田広之はハリウッドでも顔が売れているし、二枚目路線ですが、だからって恋愛シーンはからんでこない。だいたい刀を振ってますよね。
ジャッキー・チェンもハリウッド映画のなかでキスをしたことは皆無。
これはジャッキーが、アジアに映画が配給された時に、自己イメージを守りたいから、という理由が大きいのかもしれません。
そして同時に、映画テレビ業界にも「アジア系男性に恋愛の役割は求めていませんから」というキャスティングがあったように思えるのですよ。
それが今回は、ハンサムで、肉体もムキムキで、スーパーリッチ、モテモテで、なおかつ中身も「ああ、こんな男性ってどこにいるの?」と思わせるほど、魅力的な主人公ニックの登場。
「モテるアジア系男性」
というのは、じつはハリウッドにおいて画期的なのです。
90パーセント以上の観客が満足!
異文化の結婚映画ものといえば、「マイ・ファット・グリーク・ウエディング」がありますが、あれもスターが出ない映画でありながら、大ヒットしました。
異文化の二人が結ばれるというのは、やはり人が共感できる普遍的なストーリーといえますねー。
この『クレイジー・リッチ・アジアンズ』も共感を呼ぶストーリーで、「最後に泣いた」人が続出。お金で幸せが買えるものではないのだ、という気持ちになります。
そしてアメリカでも、
「あり得ないくらいリッチなアジアン」
「イケイケなシンガポール」
というのが、「あり得る」感じになっているのが、今の時代を感じさせます。
ロットン・トマトのトマト・メーターは93%
観客スコアは93%
めっちゃ評価高しです。
この映画がヒットすれば、アジア系映画がもっと作られるようになる、アジア系役者の活躍の場が増えるとあって、公開時にはアジア系ビジネスピープルの支援も多かったそう。
アジア系のサポートにもなる映画。
在米の方で、「今週末どの映画に行こうかな−」と迷っている方は、ぜひ『クレイジー・リッチ・アジアンズ』 を!