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6月30日、ニューヨークでは「プライドパレード」が開催された。
今年はNYが「ワールドプライド」をホストして、「ストーンウォール」50周を祝して、参加者が15万人、700団体がパレードするという世界最大の規模になった。総動員数は300万人ともいわれている。
「ストーンウォールの反乱」とは「ストーンウォール・イン」という酒場で、1969年、警察による踏み込み捜査を受けた際、同性愛者らが初めて警官に真っ向から立ち向かった抵抗運動を指す。
今年は「東京レインボープライド」が日本から参加して、約200名以上のグループとしてマーチを行った。

前列左が杉山さん、その右隣が山縣さん。 Photo@t810sable
NYでパレードに参加する意義について、「東京レインボープライド」の共同代表理事である山縣真矢さんと、杉山文野さんに、尋ねてみた。
「ストーンウォールの反乱から50年というシンボリックな年に参加することの意義があること、そして日本から参加することで、日本にもこういうプライドシーンの活動が起こっているという現実を見せたいです」と山縣共同代表は語る。
「日本では同性婚ができないということで、日本を出た人たちもいるかと思いますが、日本にも未來があるのだというのを示したい」
日本でのLGBTQにおいての課題については「法の整備」が挙げられた。
杉山共同代表は「結婚できるという基本的人権を持つことは、自己肯定感につながります」と語る。
杉山さんはフェンシング元女子日本代表。性同一性障害と診断を受けた自身の体験を織り交ぜた『ダブルハッピネス』を講談社より出版しており、またトランスファーザーでもある。
しかしながら日本の法律では手術をしていないと戸籍の性は変えられず、また同性婚が認められていないのでパートナーとは婚姻関係にはない状態だ。
「日本の社会では、表だった差別はないんです。黙ってさえいれば、暴力にあったり、はっきりと差別されたりすることはない。だから、ずっと黙ってきました。
でもカミングアウトしてから、自分がどれだけ精神的ストレスを持っていたか、わかったんです。常に黙っていることに、心苦しい思いがあったのだとわかりました。黙っていることは、個人にストレスを与えるんです」(杉山共同代表)
キリスト教社会であるアメリカでは、長い間、同性愛はタブーとされてきたもので、今でもLGBTQの青少年がリンチにあったり、あげくは殺されたりする事件が起こっている。
私自身がNYに来た90年代半ばにショックを受けたのが、クラブの入り口で、バウンサー(入場者を選ぶボディガード)に殴られた女性が地面に倒れていた光景だった。
鼻血を流していた彼女はドラァグクイーンだった。アメリカではこういう暴力があるのか、と慄然としたものだ。
アメリカ社会では、LGBTQの権利は彼らが声をあげて勝ちとってきた権利なのだ。
一方、日本では黙っているかぎりは波風たてないでいられるのだからと、カミングアウトをためらう人がいるのもよくわかる。
マツコ・デラックスは好きだけれどもテレビの世界にいる存在とみなして、ごくふつうにLGBTQが同じ会社や学校やコミュニティにいるものだという認識が、まだまだ浸透していないようだ。
今回のパレードには「一般社団法人Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に」そして「LGBT支援法律家ネットワーク」のメンバーたち、11名も参加した。

「結婚の自由をすべての人に」訴訟を起こした弁護士たちと、アライとして参加した阿部知代さん
「Marriage For All Japan」は、今年2月に、同性婚を認めないのは憲法違反であるとして全国主要4都市で提訴した「結婚の自由をすべての人に」訴訟を起こした弁護団たちだ。
理事である加藤丈晴弁護士は、参加の意図をこう語る。
「ストーンウォールの反乱50周年を、LGBTQコミュニティの一員として祝いたいという思いと、これまでアメリカのLGBTQコミュニティが辿ってきた歴史を、裁判所や政府機関などを訪れて学び、今後の日本での活動に活かしたいという気持ちから参加しました」
パレードでは『Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に』の横断幕をかかげて行進することも目標とした。
加藤弁護士は過去にもパレードに参加した経験があるが、「今年は街中がレインボーに埋め尽くされていて、ニューヨークの街全体が盛り上がっているという印象を強く持ちました」という。
アメリカでは多くのブランドが6月にレインボー商品を打ち出し、LGBTQ関連商品の売上げは、年間917億ドルに達するとされ、業界では「ピンクダラー」とも呼ばれている。
NYのパレードでいえば、スポンサー企業によるフロートが急増したのは、2016年くらいから。アメリカにおいて2015年の同性婚の合法化も大きいだろう。
企業ではLGBTQ差別をなくすように変革し、「ヒューマンライツ・キャンペーン」による「LGBTQの平等性」インデックスでは、2019年は527社が100%の条件を満たしている。アップルやウォルマートのような大企業はスコアが100だ。
企業側にとっても、今やLTBTQの平等性を取りいれることは「人材を確保できる」「不平等に対する訴訟裁判をおこされない」というベネフィットがある。
「インクルーシヴ」を求めるジェネレーションZ世代がこれから社会人になっていく時代、インクルーシヴがない企業は、もはや生き残れない。
実際にパレードに参加してみて、NYと東京の一番の違いは「沿道の人たちの反応」だと加藤弁護士は語る。
「ニューヨークでは、沿道の人たちも絶叫し、手を振り、笛を吹くなど、パレード参加者と一緒になって盛り上がっていましたが、東京では、一部の当事者やアライ(LGBTQ支援者)の人たちを除いては、見て見ぬ振りという感じでした。
変な人たちが何かやってるわ、といった感じの冷ややかな目で見る人も多く、こういった反応からも、社会の一員として受け入れられていない現実を思い知らされます」

「Marriage for All Japan」の横断幕を持ってパレードする加藤弁護士(中央) Photo: @t810sable
ニューヨークでは街全体が盛りあがるパレードになっているが、今回ほどの規模のものはかつてなく、レディーガガをはじめとする大物アーティストたちも多くコンサートに参加した。
「やはりまだまだ日本では、LGBTQ当事者がどこにでもいる存在であると認知されていない、いないものとして扱われているということだと思います。同調圧力の強い日本社会でカミングアウトするのはたいへんですが、当事者の可視化をいかに図るかが最大の課題だと思います」(加藤弁護士)
日本の企業もレインボー支援が当たり前にならないと、これからの時代は生き残れないだろう。東京が街をあげてレインボーになる日も、遠くないかもしれない。
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