5月15日土曜日、マンハッタンのチャイナタウンにあるコロンバスパークで、アジア系住民を中心に若いニューヨーカーが集まるフリーイベントが行われた。

折しも5月はアジアンアメリカン歴史月間なのでそれにふさわしいものだが、大きく違ったのはこれが度重なるアジア系へのヘイトクライムに立ち向かうというはっきりとした目的があったことだ。

1年前の2倍になったアジア系へのヘイトクライム

アジア系へのヘイトクライムは、2020年に前年の1.5倍、今年の第一四半期は同じ時期の2倍に増加し社会問題になっている。その原因はトランプ元大統領がコロナウイルスのことをチャイナウイルスと呼び続けたことにあると考えられていて、コロナで疲弊した経済の影響を受けたりメンタルをやられてしまった人々が、元々のゼノフォビアや人種偏見もあり、そのはけ口をアジア系に向けているとされている。アジア系への差別の歴史や現状を詳しく知りたい方は日本のメディアに2回に渡って書いているので読んで見て欲しい。(文末にリンク)

ノンプロフィット団体AsiansFightingInjusticeのリーダー、ベン・ウェイ

AAPI Day of Unity アジア太平洋系アメリカ人が連帯したイベント

AAPIはAsian American Pacific Islanders (アジア太平洋系アメリカ人)の頭文字、中国、韓国、日本、フィリピン、インドなどを全て含む言い方だ。

今回のイベントを主催したのはAsians Fighting Injustice と命名されたノンプロフィット団体で、4月にも同じ場所でイベントを行い政治家を始めかなりの動員を達成している。

今回は目立った事件が直前になかったためか控えめな動員だったが、その内容を見ると次につながるであろう大きなステップを踏んだことが感じられた。

この日のイベントは午前中がケアフェアという、ヘイトクライム犠牲者にならないための自衛クラスから、携帯用アラーム、ペッパースプレーなどの無料配布。ただくれるだけでなく10カ国語の取説がついていて、これもボランティアの手によるものだ。

ケアフェアのテントの1つドッグセラピー

ファミリーイベントということで、血圧測定や、メンタルケアのためのパピー(子犬)セラピーのテントもあった。

「被害にあったことを知られたくない」年長アジア系のトラウマ

午後はスピーチとパフォーマンスで、前半登場したリズ・カーリ(Liz Kari )さんは日本でも大きく報道されたタイムズスクエア近くで起きたヘイトクライムの犠牲者の娘さんだ。

ヘイトクライム被害者の家族として声をあげたリズ・カーリ

お母さんからの電話で事件を知らされ病院に駆けつけた彼女に、お母さんは「事件を誰にも知られたくない」と語ったという。被害者なのに泣き寝入りするのは大人しいアジア系ならではで、それが長いことアジア系住民がヘイトばかりでなく、カジュアル・レイシズムと呼ばれる差別の対象となり、アメリカで生まれているのに外国人扱いを受ける要因にもなっていた。白人はそれを「モデルマイノリティ」と呼び、物分かりの良さを他の人種と比べて人種間の分断を図って来た。その差別が特に年長アジア系にとってどれほどトラウマになっているかは計り知れない。

親世代と全く違い声を上げるZ世代

こういうことを全て理解している若いZ世代のアジア系は、親世代とは全く違ったアプローチをしようとしている。

まず結束して声を上げる。これまでは中国系、韓国系などで別れることが多かったのをアジア系として さらに他のピープル・オブ・カラーのコミュニティにもアプローチして連帯する。政治的なアプローチも行うが、それが他のコミュニティのリスクにならないようにする。これはおそらく犯罪を防ぐために警官を増員すれば、警察の過剰な暴力につながりかねないことを言っているのではないかと思う。

前出のリズ・カーリさんはこの事件をきっかけに「AAPI Belong(アジア太平洋系もアメリカ社会の一員だ)」という活動を起こし、こうした現状を変えようと取り組みを始めている。

フィリピン系アメリカ人ラッパーIzzy Man ヒップホップは世界の共通言語

相手は同じ敵、アジア系を超えた差別との戦いが始まっている

イベントに話を戻すと、パフォーマンスは伝統の音楽や踊りからヒップホップ、レゲエまでクオリティが高い。その間にボランティアがチラシを配って歩いている。その中にはアジア系移民の歴史をきちんと知ろうというものがあり、学校では教えてくれない中国系、日系アメリカ人らへの差別の歴史と共に、あらゆる差別と戦った黒人たち、フレデリック・ダグラスからキング牧師、マルコムX、さらに日系Yuri Kochiyama, 中国系Grace Lee Boggまでが紹介されている。誰よりも苦難を経験し、あらゆる人種やジェンダーのために戦った黒人の歴史をきちんとレスペクトしているだけでなく、これまでにない人種を超えた文脈を紡ぎだそうという心意気が感じられたのが嬉しかった。

「歴史は嘘をつかない」アジア系とブラック系アメリカンの連帯

そしてこうしたアジア系の若者たちの動きが、ブラックライブスマター運動に大きく触発され影響されているのは言うまでもない。

折しも5月25日でアメリカは間も無くジョージ・フロイド事件から1年を迎える。また31日にはブラックウォールストリートの虐殺事件から100年という歴史の節目を迎え、NYでは6月19日アメリカで最後の黒人奴隷が解放されたジューン・ティーンスが初めて祝日となる。LGBTQプライドマンスとも重なって、コロナから経済再開したニューヨークでは再びムーブメントが熱くなるはずだ。

国を巻き込み国境を超えるZ世代の差別反対運動

折しも連邦議会でアジア系へのヘイトクライムと戦う法案が可決され、バイデン大統領が署名成立したばかりだが、こうした国の動きにプレッシャーを与えているのも各地で行われている同様の草の根運動に他ならない。

そしてそれは今世界各地で起こっている ウイグル、ミャンマー、そしてパレスチナとイスラエルといった人種闘争と人権問題を改めて見直す動きともつながろうとしている。

世界を巻き込む潮流の1つとして、アジア系Z世代の活動はますます重要なものになってくるのは間違いないと感じさせてくれたのが今回のイベントだった。

参考記事:

「モデルマイノリティが声をあげる時〜NY在住ジャーナリストが語るアジア系差別の実態」

「優秀な人間ほど憎まれる、アジア人を露骨に攻撃するアメリカ社会の歪み」