今回は長期休暇の過ごし方について、お話しします。

パーソンズのAASの授業は主に秋と春の2セメスターで行われます。

夏にもセメスターがありますが、先生方の多くは夏休み中なので受けられるクラスは限られます。また五週間ほどの短期間で、通常4ヶ月ほどかけて行われる授業が詰め込まれます。

そのため多くのパーソンズ生(AASのみ、以下同)は夏を充電期間にあてます。

セメスター中の混み具合が幻だったかのような閑散とした夏期休暇中の作業スペース。 旧キャンパスにて

よって長期休暇は、冬休み(12月中旬~1月下旬)と夏休み(5月下旬~8月下旬)に大きく分けられます。

約4ヶ月間、一年の3分の1が休暇になり、これは日本の一般的な大学のそれと大差ないと思います。

ちなみにアメリカには日本ほど多くの祝日はありません。ですから、友人達の長期休暇にかける情熱は興味深いです。

パーソンズのファッションデザイン学部生の多くは次のように長期休暇を過ごします。

帰省する。
ファーストクラスでシャンパンが注がれたグラス片手にポーズ、といった写真がFacebookやInstagramにアップされることは珍しくありません。いずれは自分も優雅な旅を、という静かな闘志をかき立てられます。

アメリカ国内外を旅行する。
南国のビーチでのんびり、というのが一番人気です。とくに、マイナス10℃を切ることが頻繁にあるNYの厳しい冬の寒さを逃れるべく、冬休みになった途端に、渡り鳥のようにパーソンズ生は南下します。

インターン(基本的に無給)をする。
アメリカでは一般的な研修制度です。NYのファッション産業界でのインターンの多くが無給です。休暇中に限らずセメスター中も多くの学生が行っています。ちなみにパリから来ている友人の話だと、フランスでは有給だそうです。

仕事(有給)に集中する。
AASには学業と仕事を両立させているアメリカ人の友人が多くいます。自分のブランドを展示会に出展し受注をもらうことでビジネスを軌道に乗せている友人もいます。

この期間中に婚約する、挙式する、といったパーソンズの中でも平均年齢の高いAAS生ならではのイベントもFacebookにアップされます。

これらは僕の周囲、パーソンズに通う約100人の友人達の過ごし方を簡単にまとめたものです。

セメスター中は課題でほとんど休む時間がないパーソンズ生ですので、長期休暇に思い思いに過ごして次のセメスターに向けて英気を養います。


次に僕自身の長期休暇の過ごし方についてお話しします。

僕は服作りとヨーロッパへの旅行にその時間の大半を費やします。

AASでは多くの生徒が3セメスターで卒業します。
僕も同様です。

ただし僕の場合はパーソンズ入学前にESLで1セメスター学んでいたため、NYに来てからこれまでに冬休み2回、夏休み1回を経験しています。

パーソンズ生としていられるのはほんの僅かな期間です。

セメスター中だけでなく、休暇の過ごし方も自分の将来に大きな影響を与える、と僕は考えて動いています。

僕は技術と感性のインプットとアウトプットの時期と捉えて長期休暇を過ごしてきました。

具体的には服作りと旅行にこれまでの休暇をあててきました。


まずは服作りについて。

パーソンズ生としての最初の休暇中には自分用のシャツを作りました。

生まれて初めて作ったシャツ

僕が受講した1stセメスターの授業ではごく基本的なシャツの縫製技術について学びました。

しかし、シャツには様々なディテールの要素が含まれており、パーソンズのAASの授業時間数ではとてもカバーしきれません

ブランドや百貨店などで扱われているクウォリティの高いシャツの縫製をリサーチし、それを自分のデザインにいかしました。

外から見ても作り方が分からなかった場合は、自分の持っている貴重なシャツをバラしてそれを観察しました。(もちろん後で縫い直しています)

行程のほとんどが初めての経験だったため、当然トライ・アンド・エラーの連続です。
結局、最初のシャツを仕上げるのに3週間近くかかりました。

出来上がったシャツは、自分の体に合わせて作っているので着心地が良いですし、手塩にかけて作ったのでとても可愛がって大切に着ています。


次に旅行についてお話しします。

予めお話ししますと、前職中にためていた貯金などを崩しながらの旅です。

ファーストクラスに高級ホテルといった優雅な旅ではなく、自分の将来に対する投資を目的とした旅です。

これまで僕はヨーロッパに絞って旅をしてきました。

街全体の雰囲気が好きですし、何よりも将来はヨーロッパのテイストを持った服をデザインしていきたいと思っているからです。

ヨーロッパならではの光の雰囲気と、品のあるディスプレイ

これまで、フィレンツェ、ミラノ、バルセロナ、パリ、ロンドンを巡ってきました。


フィレンツェには去年と今年の冬休みの2回、行っています。

ともに大きな目的は世界的に有名なメンズウェアの展示会、PITTI IMMAGINE UOMOの視察です。

展示会場内のブースを巡ってトレンドの動向を見ることも大切な目的ですが、僕にとっては来場される方々のファッションを観察することも大切な目的です。

PITTI IMMAGINE UOMOより、2014年1月9日撮影

デザイナーなどの出展者の方々、百貨店やセレクトショップのバイヤーの方々、ファッション誌のエディターの方々が世界中から大勢いらっしゃいます。

トレンドへ対する感度の高い、そして何よりもファッションの基本をしっかり押さえた上でコーディネイトをされる方々です。

PITTI IMMAGINE UOMOより、2014年1月9日撮影

学ぶべきことは数えきれないほど多くあります。

僕の場合、自分が得意とするカメラ撮影、スナップを通してトレンドの今と今後を感覚として捉える努力をしています。

PITTI IMMAGINE UOMOより、2014年1月9日撮影

前職ではトレンドカラーに関する予測や分析を専門的に行っていました。その視点からお話しすると、次のように言い切ることが出来ます。

「トレンドは人々の心と密接な関係がある」

社会情勢など様々な要因が人々の心に影響し、それがトレンドという形で表面化してきます。

これは経年変化を追わずして見出すことは出来ません。

僕にとって重要なのはトレンドのその底流にある人々の心の動きを捉えることです。

そして、人の心は実際にその場にいなければ感じることは出来ません。少なくとも僕はそうです。

PITTI IMMAGINE UOMOより、2014年1月9日撮影

現代のデザイナーはビジネスとクリエイションのバランスを取ることが求められています。

人々の心を満たすことが重要で、自分の心を満たすのは二の次です。

だからこそ、僕はPITTI IMMAGINE UOMOに足を運んでいます。

旅の最中には現地の美術館で素晴らしい絵画などを鑑賞することで感性を磨く努力もしています。

これも自分の感覚をフル稼働させて行います。

書籍ではなく実際に自分がその作品の前に立つことによってしか感じられないことが多数あります。

実際の作品の大きさから得られるその印象、美術館の佇まい、美術館内に漂う油絵などの香り、肌に触れるその場の湿度、そのような全ての要素が感性を養ってくれます。

僕にとってパリで最も美しい美術館、Musée de la Vie romantique

大胆なリノベーションを得意とするロンドン、大英博物館にて

これは僕の休暇の過ごし方の目的の一つ、インプットにあたります。

それを次のセメスターやもっと先の将来にデザインとしてアウトプットしていきます。

もう一つ僕にとって大切なインプットが人脈作りです。

これまでの僕の経験上、人々の支えなしでは自分の望むものを得るのは難しいと思います。

言い換えると、良い人脈は自分をそこに近づけてくれる大きな力となります。

それをこの冬に行ったミラノとパリで、改めて強く実感しました。

今回はパリでの実体験をもとにお話しします。

ファッションの都、パリ

前職では東京ファッションウィークをカメラマンとして数年間追い続けていました。

その頃からいつかミラノやパリのコレクションでもカメラマンとしてショーを撮影したいと想い続けていました。

しかし、ヨーロッパのコレクションは正式なカメラマンとしてショーに入ることは非常に難しいのが現状です。

それがひょんなことからこの冬に実現しました。

パリは昨年夏の休暇に続き2回目の滞在でした。

その夏の滞在時にファッションフォトグラファーさんのお家に泊めて頂きました。

その時に初めて知ったのですが、その方はクリスチャン・ラクロワ氏、ジャン・ポール・ゴルティエ氏、高田賢三氏など蒼々たる方々と親交の深い方だったんです。

その方に自分がそれまで撮影して来た写真を数枚見て頂いた所、とても気に入って頂き、真剣な表情でこのように力強く仰って頂きました。

「マサ、今後はファッションデザイナーだけでなくフォトグラファーとしても活動して行きなさい」

この夏の出会いがこの冬の夢の実現に繋がることになりました。

この冬休みのパリ滞在はパリ・メンズコレクションのシーズンに合わせていました。

パリへの出発前、このフォトグラファーさんに彼のアシスタントカメラマンとしてショーを撮影させて欲しい、とお願いしたところ、パリに入ってから快諾の返事をもらいました。

ISSEY MIYAKE MEN, 2014FWより

JULIUS, 2014FWより

ファッションショーで一番の特等席はカメラマンのエリアでしょう。
あの場所が一番時間をかけて一つのデザインを細部にわたって見ることが出来る場所だと僕は思います。

ショー会場周辺でのスナップも醍醐味の一つ。若干18歳にしてこの雰囲気はさすがフランス人

ショーでの活躍が目覚ましいモデルさんの一人

今回パリコレで撮影した写真の一部は、フランスのあるウェブサイトに掲載して頂けるそうなので、デザイナーとしてよりも先にフォトグラファーとしてフランスデビューを果たすことになりそうです。

日本を離れて感じるのは、自分が何を得意とするのかを相手に伝えることが重要だということです。それが良い人脈につながり、夢を実現させる力になります。

さて、この原稿を書いている現時点で、明日から僕のパーソンズでのラストセメスターが始まります。

これまでに長期休暇を利用してインプットしてきたことが、今後どのような形でアウトプットされていくのか、僕自身とても楽しみです。