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大坂なおみの複雑な涙:USオープンテニス2018年女子決勝戦で起こったこと

大坂なおみは文句なしに強かった。 が、なんとも後味の悪い試合となった。

大坂なおみが勝った。

6―2
6―4

ストレートで文句なしの強さだった。

これは私が期待した通りだ。
期待と言うよりは予想だった。

第一戦からセミファイナルまで1時間も満たない早いスピードでどんどん勝ち進んでいた大坂なおみの強さは本物だった。

テニス界においてUSオープンどころかグランドスラムで日本人が優勝したのは1968年のオープン化(Open Era:アマチュア選手だけでなくプロの選手もトーナメントに出場できるようになった)以降でもその前を含めても史上初である。

錦織圭が世界ランキングもぐんぐん上がり賞金額もがんがん稼ぎフォーブスの長者番付に載る名実共に世界のセレブの仲間入りをしてからも、なかなか手に入れることのできないタイトルだというのに、20歳の大坂なおみは数か月前からランキングが上がって来たことで注目されるようになり、その快挙をあっさりと成し遂げてしまった。

これは本当にすごいことだ。

この驚きはテニスファンに留まらず、日本人には今の時期、とても明るいニュースとなったはずだ。

トーナメントが始まってからも「セリーナとファイナルで対戦するのが夢」と公言しており、その夢にまで見たことが実現したのにも関わらず最初から自分のペースでセリーナ・ウィリアムズのサービスをブレイクした。

冷静かつ堂々としている感じ。

今迄の試合と何も変わった緊張感もなかった。

前日の男子セミファイナルでは、ナダルが途中で怪我のために試合放棄(リタイア)となるし、錦織とジャコビッチの試合は苦手意識の強いジャコビッチが相手だっただけに、錦織ファンとしてはやや物足りない感じさえした。

が、大坂なおみとセリーナ・ウィリアムズのファイナル試合は、第一セットを落としたセリーナが第二セット目からぐんぐん粘りを見せ、力強いラリーも続き、二人ともが強力なサーブを出し合い、かなり見ごたえのある試合となっていった。

それが突然、セリーナ側での雲行きが変わって来た。
観客席から見ていたコーチ、パトリック・ムラトグルーが、手で何かを指図する仕草をアンパイアーのカルロス・ラモスが警告した。

実際にテレビ中継を見ていた人ならわかるが、ムラトグルーがシグナルを送っていた時には、セリーナ・ウィリアムズはコーチの方を見ていない。

大坂なおみがサーブをしようとしていた時だし、その前方に集中している。

そこで、まずウィリアムズは、アンパイアに近づき抗議を始めたわけだ。

「勝つためなら何でもするってことしないわ。チートするなら負けた方がましよ」

「コーチから指示なんてもらってないし私は見てないわ」

と言い張るセリーナ。

最初は何やらアンパイアに文句を言ってるな、ぐらいだったが、そのようなイラつきがゲームにも表れ始めショットに乱れも生じポイントも失う。

セリーナは持っていたラケットを投げつける、という攻撃的な行為を行った。

その行為にアンパイアから再び今度は彼女自身に警告が下される。

するとセリーナは再びアンパイアの元へ歩み寄り、

「いつもここでプレイをするとこういうことになる!」

と更に凄い勢いで言い始めたわけだ。

この会話はしっかりとテレビでも放送されていたが、彼女は

「だいたいコーチングをしてないのになんでそんなこと言うの?コーチのサインを見てないし、ルール違反もしてないわ。その辺しっかりとはっきりとさせてよ。今、私は娘を持つ母親としても何が正しいかってところで戦ってるのよ。謝ってちょうだい!」

と強い言葉で攻撃的にアンパイアへ訴えたわけだ。

大坂なおみは、後のインタビューで、この時点ではなにが起こっているのかよく把握していなかった、と言っていたが、セリーナの怒りが爆発し、経験不足の大坂へ悪い影響が出るのではないか、と心配した。

しかし、集中力を落としていたのはセリーナ・ウィリアムズの方で、更にサービスをブレークされ、アンパイアにも更に暴力的な言葉を罵っていた。

「アナタとはもう同じコートに立たないわ。ウソつきで、泥棒よ! 私がポイントできたところだってできなかったわけで、私からポイントを奪ったのはアナタよ!謝りなさいよ!」

そのような激しいやり取りは美しいスポーツであるはずのテニスでは稀だ。

しかし、セリーナは過去のUSオープンでも似たようなケースで同じようにペナルティーを食らっている。

反逆児と言われたジョン・マッケンローを思い出す。

観客席の方から、2人のトーナメントレフリーの姿が現れたが、セリーナは、

「It’s because I’m a woman.
This is not right.
This is not fair.」

と涙を流しながら続けていた。

ここで、セリーナ・ウィリアムズが訴えていることをしっかりとしておこうと思ったが、つまり、セリーナが訴えていたことは2点ある。

一つは「コーチングを受けていない」ということであり、それについて「濡れ衣を晴らしてほしい」ということ。

それに対して攻撃的な自らの態度を指摘されて、それは「自分が女性だからである」ことを強調した。こういうことが男子の選手だったらこんなに大きなことにはならない、ということだ。

コーチングについてもパム・シュライバーの観客席インタビューでコーチ自身がコーチングをしていたと認めているわけで(でもセリーナはそれに気が付いてない)、そのこと自体もラケットを壊したことも大した問題にならないはずだと言っている。

試合中の感情をむき出しにすることだって、選手としては当たり前であり、誰でもするしその権利は当然ある、ということ。

それなのに、今回はこんなにペナルティーを食らったわけで、それが(女性であり黒人であるセリーナだからなのか?)納得がいかないとコーチもはっきりと言っている。

そのように感情的になっているセリーナの姿を黙って見守る大坂なおみ。

コーチが席からシグナルを送るのはテニスの「コーチングヴァイオレーション」として扱われるルールとなっているが、それに対して甘いアンパイアーもいるし、この日のカルロス・ラモスというチーフアンパイアーについても他の選手でコーチがコーチングしていても、ペナルティーにしない時の方が多い、と云うことらしい。

暴れん坊のジョン・マッケンローは数々のペナルティーを受けていたと記憶するが、彼以外にも男子選手で、ポイントが取れなかったりミスを繰り返した場合に攻撃的な態度を示す選手たちも多いはず。

今までも、激しい言葉を放ったり、ラケットを蹴っ飛ばしたりする選手は数多く見ているが、そのことが原因でここまでアンパイアと言い争いになる選手はいなかったようにも思う。

コーチが指示を出したというルール違反、コート上での不適切な行い(ラケットをたたき壊した)と、そしてアンパイアーに対する暴力的な言葉に対するペナルティーで、セリーナの周りではますます嫌な空気が流れ始めた。

なんとか気持ちを取り戻して試合に戻って大坂のサーブを待っている間も、観客自体もセリーナを応援する側が彼女に対するペナルティーに腹を立ててブーイングの嵐だったようだ。
 

 
しかし、そんなコートの動揺にも負けずに、大坂なおみはこの後も素晴らしいプレイで、あっさりとセリーナを破ったわけだ。
 

 
直ぐ観客のコーチや家族がいるところに駆けつける大阪なおみ。

コーチはイケメンで有名なサーシャ・ベイジンだが、セリーナ・ウィリアムズのコーチもしていたコーチとしては一流の人。

昨年末に彼がコーチに就任してから大坂なおみのランキングも68位から22位に上昇したわけだ。

コーチとの厳しいトレーニングを乗り越えてのこのUSオープンの優勝獲得だ。
 

 
お母さんは、本当だ。噂通り、日本人(w)。

自分の子どもが夢を叶えた瞬間を祝う優しい母親の顔をしている。

そして、トロフィーセレモニーの場面になったわけだが、ここで私が知る限りでこんなブーイングと共に始まった式典は初めてではないかと思う。
 


 
堂々と試合をして優勝したのにブーイングを浴びて心が痛みいたたまれなくなったのか、大坂なおみは被っていたサンバイザーで目を隠して泣き始めた。

そして、それに気が付いたセリーナがお姉さんのように大坂なおみを抱き寄せるという気遣いも見られたが、どちらのファンでもある私も複雑な気持ちになった。

大坂のこの涙は嬉しさよりも悲しい気持ちの方が大きいのではないだろうか?と感じられたことがなんとも残念だ。

この後のセリーナの言葉は

「もうブーイングなんてやめて、もっとポジティブに受け取りましょう。ナオミは素晴らしかったし、本当におめでとう!」
 

 
と大坂のためにもこの場を前向きに持っていこうと感じられたが、それでもなんとも後味の悪い結果となってしまったわけだ。

勿論、セリーナの言い分もわかるし、女性として、そして黒人として今迄きっと彼女は幾度となく「彼女だから」受けると思われる「不公平」な判断を受けて来たのかもしれない。

それについては、これからも社会を変える戦う代表として声を大にしてもらいたいのだが、やはり初のグランドスラムで日本にトロフィーをもたらした快挙を、しかも自分が憧れていた相手の強い抗議で試合そのものにもケチがつけられた感じがする。

日本語があまりしゃべれないし、見かけもあまり日本人に見られないことから、「日本人選手」と名乗れるかどうか?と疑問視されているようだが、彼女の頭を下げるジェスチャーやインタビューを聞いている限りは、とっても日本人っぽい。

「みんなセリーナを応援していたの知っているけど、こういう終わり方になってしまってごめんなさい。でも、試合を見に来てくれてどうもありがとう」

と言ったのだから、あまりにも見ていて痛々しい感じさえした。

謝る必要なんて大坂には何もない。

勝ったのだからもっと堂々としていたらいいのに、しかも彼女のせいでないのに謝るなんて、絶対にしなくてもいい。

勝ったことさえ自分が悪いとセリーナファンに謝る大坂と、「ブーイング」状態を明確に言語化して自分にスポットを当てしまっているようにも見えるセリーナ。

日本とアメリカの文化の違いでもあるなと感じたのだが、あまりにも大坂なおみが気の毒であり、日本人としては納得が行かない次第だ。

You won the title and you deserve it!
Don’t be sorry, Naomi!

見ている方としてはむしろこの状態に腹立たしくなってしまったが、これらの一連の大坂の姿を見ているアメリカの観衆は、どうやらこのとても日本人っぽい可愛らしい謙虚な大坂に、心を奪われている様子だ。

試合後、かなり時間が経ってからUSオープンテニスの公式ツイッターではこんなツイートがあった。
 

 
結局、改めて何が起こったかの説明だったようだが、アンパイアーの判断は絶対的なもので変えられないというもの。

他のコメントを読んでも、試合が終わって3時間も経つのにこのようなステートメントは何の意味があるのか、よくわからない。

もしかしたら、オンコートコーチングに関して、コーチが認めたものセリーナは「見ていない」という部分をセリーナが訴えていたように正式にしたかったのかもしれない。

正式文書を出すのであれば、大坂なおみの初優勝に100%喜べない事情が出来てしまったことに対する責任を取って、全米テニス協会は大坂なおみへ謝罪するべきである、という意見が多い。
 

 
試合後の大坂なおみのインタビューでのこの一コマは、夢に見たUSオープンテニスのファイナルで憧れのセリーナに勝って喜ぶはずの大坂の複雑な心境を語っている。

「セリーナはまたここで24度目のグランドスラムのタイトルが欲しかったの私も知ってるし、みんなも知ってる通りそういうコマーシャルとかもたくさんやってて…

でも、コートに入ったら私は一プレイヤーであり、セリーナファンでもなんでもなくなるのよ。コートでは向こう側に立ってるプレイヤーとテニスをするだけ。

でも終わってセリーナとハグした時には、(セリーナに憧れてた)子どもの頃に戻った感じ」

声を震わせ涙を流し最後のセリーナへの思いを放つ大坂の、なんとも胸が熱くなるようなコメントだ。

大坂なおみはUSオープンテニスの女子シングルスのチャンピオンとして、みんなの心をとらえたと思う。

おめでとう!
大坂なおみ!

彼女が最強のテニスチャンピオンとして世界中から受け入れられる時が来るのは近いと感じた。

2018年USオープンテニス女子シングルスファイナルのおさらい(ハイライト)

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3 comments on “大坂なおみの複雑な涙:USオープンテニス2018年女子決勝戦で起こったこと

  1. Pingback: 大坂なおみの複雑な涙:USオープンテニス2018年女子決勝戦で起こったこと — New York Niche・ニューヨークニッチ – you

  2. 言いたいこと、私も感じたこと、全部書いてくれた気分です。
    全然英語わからないけど、観ていて感じていました。
    セリーナも大変だったけど、
    できれば2人の本当のゲームを見たかったです。

    Like

  3. Pingback: たかがテニス、されどテニス – New York Niche・ニューヨークニッチ

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