セレブの小部屋

もと幼稚園の先生、NY上陸。伊東英朗監督、核兵器実験の事実を伝える人になったわけ

人柄というものは、その人が発するバイブで、一目でわかることがある。

伊東 英朗(いとう・ひであき)監督が、第11回ニューヨーク平和映画祭(11th Annual New York Peace Film Festival)で目の前に登場したとき、なんと心の美しいイイ人だろうと、直感でわかり、題材がシリアスなだけにホッとした。

3月24日、NYマンハッタンのアップタウンに位置するオール・ソールズ・ユニタリアン教会での映画祭上映会。

今年、日本からの参加は、2作品。

基地問題にゆれる沖縄辺野古とその海に暮らすジュゴンを描いたリック・グレハン監督ドキュメンタリー『ZAN ~ジュゴンが姿を見せるとき~』

そして、伊東 英朗さんが戦後日本の闇に迫ったドキュメンタリー映画『放射能を浴びた〜X年後』の続編である『放射線を浴びた〜X年後2』が、ニューヨーク初上映されたのだ。

上映後、私はNY在住のライター、河野洋氏が執筆した伊東英朗さんに関する記事を読み、改めて感銘を受けた。
河野洋氏の記事はこちら)

この記事で、伊東さんは映画監督になる前は幼稚園の先生だった、ということを知った。

なるほど!と、私は頷いた。

控えめに、周りにいる者たちを愛のバイブで包み込むようなエネルギー。
人の人格形成に貢献する重大な幼児教育に誇りと愛を持って取り組む教師が持つような愛のバイブ。

私が映画祭で会った伊東さんには、この世を明るい未来へと導いていく博愛のバイブが漂っていたから。

「幼児教育については、僕は、天職だと思っていました。
16年間、クラスを担任し、子どもたちと生活することに生きがいを感じていました」

と、私の質問に応じてくれた伊東さん

「机に座らせて教えることは簡単にできます。しかし、遊びの中でそれぞれのレディネスを見極め、それぞれの発達の先を見極めながら、適切な手助けと見守りをすることは、非常に難しいことです。

僕は「砂場」でのレディネスの違いが象徴的だと思っていました。そこには、個が見え、社会が見えます。
しかし、その見極めは、日常的に、子どもたちの個と社会を見守っている教師でなければできません。

幼児期の子どもは、高校生レベルの数学くらいできるようになります。
しかし、幼児期に大切なことは、人間が成長するための階段を一歩一歩確実に登っていくことです。飛ばしてはいけません。

「誰よりも早く立って歩けた」と喜ぶ前に、じゃあ、ハイハイはしっかりできたのか?両足の親指で床をしっかり踏ん張って前へ体を運べていたのか?それは、体の発達だけではなく脳の発達や感性にも関係してきます」

テストの成績や偏差値、大人になってからも収入額やフォロー数など、数字で人々を評価しがちな社会。

でも数字には出ない人格形成に重きを置いて、伊東さんのように温かい目で見守ってくれる大人に接して成長した人間が増えれば、世の中はより平和になっていく、と私は思う。

すべての人間が、愛に溢れる環境で育まれていけば、この世はどう変わっていけるだろうか。
そんなことを平和を願い考える私にとって、優秀な幼稚園教師から映画監督になったという稀な人間は、希望の星。
視点というものが、映画では大切だから。

伊東さんは、見事にその彼の視点で、私たちを驚かせた。

NY平和映画祭上映で、質疑応答中の伊東英朗監督。

平和映画祭での質疑応答ではアメリカ人から「太平洋核実験がこれほどの規模で行われて想像を絶する量の放射線を生み出していたことなど全く知らなかった、知れたこの機会に感謝する」というコメントが放たれた。

南の島の水爆実験で被ばくしたマグロ、病に倒れた漁師たちは本当に酒飲みが原因で亡くなったのか。
X年後の驚く実態を暴いていった2014年上映の『放射能を浴びた〜X年後』の続編。

広島、長崎の原爆投下からわずか10ヶ月後から繰り返される核実験で漁場も日本列島もアメリカ本土も激しく放射能汚染したという事実。汚染すると知りながら続けた行政側。それを、他に誰が語っているのか。

「太平洋の中央部の島で行われた核兵器実験は、アメリカとイギリス合わせると100回を超えます」

と、伊東さん

え? 私たちは、その事実に唖然となる。

「アメリカ大陸や日本列島から、遥か離れた島で行われた核実験ですが、アメリカ大陸や日本列島を強く放射能で汚染し続けました。
現在の日本の土壌を採取し放射能測定すると、弱まってはいますが核兵器実験による人工放射性物質が検出されます。アメリカの場合は、中部太平洋の核実験だけではなく、自国内であるネバダで多くの大気圏内核実験が行われました」

放射線を浴びた~X年後~、私たちは何を思うか。

この事実を世に伝えたいという伊東さんの情熱は、高校生のときに広島の原爆ドームを訪れ、その凄惨な状況に体が震えた体験が元にある。

「その時、僕はこう思いました。「しばらくすると、この感覚を忘れるだろう。」そう思った時、自分への強い嫌悪感を覚えました。

もし記憶が薄れでもしたら、原爆を落とした人間と同じになってしまう。
知っていても忘れてしまっては、何もしないことと同じではないか。忘れてはいけない。
だから、忘れないよう1年に1回、必ず広島を訪ねることを心に決めました。
それが僕の原点です。

たとえ知っていても何もアクションを起こさなければ、加害側と同じになってしまう。
アクションといっても大きなものでなくてもいい、生活の中でそれぞれの立場でできることでいいのだと思っています。
だから僕のアクションは、核兵器の問題を映像を通して伝えることです」

そして彼は、このアクションを起こしている、貴重な存在となった。

「ライフワークとして取り組んでいる「核兵器実験による被害」の事実を伝えたいという気持ち。
日本に暮らす人、アメリカに暮らす人のほとんどが被害を受けている事件にも関わらず、ほとんど知られていないことに強い疑問を持っているんです。これだけの大規模な事件にも関わらず、追求しているメディアや人がほとんどいないということです。
本来ならば、様々なスキルをもった人がチームを組み、調査、研究していかなければならない事件です。
ですから、一人でも動き続けることが今は必要だと思っています」

一人でも、彼は動き続けた。
福島の事故で多くの人たちが核の問題に目覚めるその前から。

伊東さんは2004年から、情熱を持って、太平洋核実験の漁船被ばく問題の取材を続けてきたのだ。
そして、いまニューヨーカーたちの前に立ち、重ねあげてきた知識を分かち合ってくれた。

みんなの幸せのために、いま私たちが決断していかなくてはならないことが多くある。

それには、まず真実を知ること。
それがなくては正しい判断も出来ない。

NY平和映画祭上映後、4月1日、ヒルズラーニングにて開催された 『放射線を浴びた~X年後~2』追加上映会で解説する伊東英朗監督。 photo by Yasuyo Tanaka

「僕は、アメリカ(人)が悪いなどというつもりはありません。
とにかく、たとえ時間がかかろうとも、広がらないとしても、アメリカの人たち一人一人に「事実」を伝えたいのです。だから、今回の渡米は、僕にとって大きくて、小さい一歩です。
これからは、この事実を受け入れられない人もいるでしょう。それでも、とにかく「事実」を伝えていきたいと思います」

と、伊東さん

伊東さんは日本へと帰途したが、また戻ってきてくれる。

この秋には『放射線を浴びた~X年後』第3弾の上映会がニューヨークでワールドプレミアされる予定だ。
彼のライフワークは終わらない。


『放射線を浴びた~X年後2』日本語公式サイト:http://x311.info/

Copyright: Yuka Azuma 2018

Featured Photo Copyright : Yomitime

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渡米は1982年。ロサンゼルスに13年在住後、ニューヨークへ。84年より映画記事を中心に雑誌等に寄稿。ハリウッド映画スターへのインタビュー歴は30年以上。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。

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