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ニッチな視点から見た「米国大統領選挙と企業メディア」

今年11月4日に実施される次期米国大統領選挙に向けてアメリカは騒然となっている。

今年11月4日に実施される次期米国大統領選挙に向けてアメリカは騒然となっている。

ヒラリー・クリントンとバラク・オバマの民主党予備選での白熱の接戦は、まるでフットボールの試合を見ているようだ。私の回りでも多くのニューヨーカーたちがその結果に一喜一憂している。
46歳という若さの黒人男性オバマとアメリカのファーストレディとして親しまれてきた女性ヒラリーの戦いという面白いネタに、アメリカのメディアもお祭り騒ぎのように湧いている。

ロバート・デニーロやウィル・スミスやスカーレット・ジョハンソンやジョージ・クルーニーが支持するオバマか。

スティーブン・スピルバーグやロン・ハワードやキャンディス・バーゲンやジャック・ニコルソンが支持するヒラリーか。

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民主党・大統領候補者たち/左よりバラク・オバマ、ジョン・エドワーズ、
デニス・クシニッチ、ヒラリー・クリントン。

現在、この中で大統領レースに残っているのはオバマとヒラリーのみ

とにかく、アーノルド・シュワルツェネッガー支持の共和党員ジョン・マケインだけはご免だ!
「ヒラリーかオバマか」という民主党予備選が、本選挙だったならどんなに気が楽だったことか。

この7年間のブッシュ政権で、アメリカは世界を敵に回してしまった。
虚栄で戦争を起こし、環境を汚染し、大企業や一部の大富豪にとって好都合な社会を築き続けたブッシュ。
そんな政権がやっと終わるというのに、マケインが大統領になればブッシュ政権の続きである。

世論調査による分析ではヒラリーよりもオバマのほうがマケインに勝つ確率が多いという結果が出たので、オバマに投票するという市民もかなりいる。
私も違う理由でオバマを心から希望しているが、私が夢見た大統領はオハイオ州の下院議員だった。

ショーン・ペン、ヴィゴ・モーテンセン、エドワード・ノートン。
この俳優たちが大統領候補として支持したのが、そのデニス・クシニッチである。
「アメリカ憲法を支持するのなら、デニスを支持しろと言いたい」と、普段から政治に関心のあるショーン・ペンは会合で語った。

ガンディー平和賞にも称えられた平和主義者デニス・クシニッチは、イラク戦争と戦争継続の資金拠出に反対投票し、即座の米軍撤退を希望する民主党大統領候補者だった。
環境保護や人権に基づく決断を実行してきた政治家で、核兵器廃止、死刑廃止、同性愛者の結婚、幼稚園/大学費用の教育援助などに賛成するリベラル派だ。
いまでこそ市民の自由を奪う恐れのある法案として問題になっている愛国者法にも、 雄一 、当初から反対した候補者。
そして彼は全国民が医療を受けられる「非営利医療保険制度」HR676を提案する雄一の大統領候補者だった。

今年アカデミー賞にノミネートされたドキュメンタリー映画『シッコ』で、医療保障に悩むアメリカ人を浮き彫りにしたマイケル・ムーア監督も、デニスの考案策を推薦している。
保険があっても保険会社の支払い拒否で莫大な医療費に悩まされ、健康保険料を払えない市民も4700万人いるというアメリカ。
そんな状況で最も必要とされる医療保障政策は大衆の耳にまで届かなかった。

以前、医療制度を改革しようとしたヒラリーでさえ、今回は保険会社から多額の選挙キャンペーン費を献金されているのだ。
「ユニバーサル・ヘルスケア」という聞こえの良い言葉を口にしながらも、彼らが提案するのは保険会社の膨大な利益を考慮した政策だ。
製薬/保険会社など大企業に献金されている候補者たちは、デニスが提案する非営利医療なんてものには賛同できない立場にあるのだ。

おまけに多くのテレビ番組は製薬/保険会社がスポンサーになっているため、そんな政策を持つ候補者はテレビに出してもらえない。

国民の約6割が大統領を選ぶ道具としている「大統領候補者のテレビ討論会」からも閉め出されたため、多くの一般人はデニス・クシニッチという候補者の名前さえ知らない。

1/15日に全米テレビ放映されたネバタ州での民主党討論会では、候補者トップ4がテレビ出演する予定だった。
ところがデニスがトップ4になった途端、NBCテレビ局は彼の出演を拒否。
デニスは裁判に持ち込み、討論会の前日、ネバタ州裁判官から「彼を出演させなければ我が州での討論会は取りやめだ」と、出演判決が下された。

ところが当日になってもNBCは食い下がらない。
優秀な弁護士を引き連れて、デニス・クシニッチのテレビ出演阻止を緊急ケースとして最高裁判にまで持っていったのだ。
「私営テレビ局には出演者を強制できない」という判決が、討論会の1時間前に最高裁判から下りて、デニスは大衆に政策を訴える機会を失った。
トップ4の討論会は、ヒラリーとオバマと現在撤退のジョン・エドワーズの3人のテレビ出演番組へと変更されたのだ。

何故、テレビ局は必死にデニス・クシニッチの出演を阻止したのか。

NBCテレビの親会社はゼネラル・エレクトリック(GE)なのだ。
GE社は11カ国に91もの原子力発電所を持つ世界一の核製造社である。
核兵器や核エネルギーに反対で、地球を汚染しないクリーン・エネルギー政策を訴えるデニスを国民の前で討論させるわけにはいかないのだ。
それにGEは軍事ビジネスで2005年には政府から22億ドルの契約金を得ている軍兵器の製造社だ。すぐに戦争を撤退されては収入が減るのだ。

そんな似通った企業理由でデニスはニューハンプシャー州でのABC局のテレビ討論会からも閉め出しをくらった。
大衆にアピールする機会を奪われた彼は1/24日、40日後に控える下院議員選挙に集中するため、やむなく大統領選から撤退してしまった。

彼のように企業やロビイストからの献金を一切、受けつけない庶民の味方や「戦争反対」を訴える候補者はなかなか表に出られないシステム。
自由の国であるはずのアメリカはどこへ暴走するのか。
軍事産業を必要とする政治家や富豪たち。彼らは反対者の声を閉じ込めて、国民に“戦争の悲惨さ“さえも伝えないように動いている。

トークショー司会者モンテル・ウィリアムズは「イラク戦争の実態ニュースが報じられていない」というメディアへの疑問を、共和党寄りのフォックス局番組に投げかけた。
1/30日、ヒース・レジャーの突然死を話題にする予定のニュース・トークショーだったが、モンテルはその生番組 で「一人の俳優の死にこれだけニュースが流れるのに、今年になって亡くなった28人の米兵についてのニュースが全く報じられないのはおかしい。戦死者の名前さえ公表されていないことに疑問を感じる」と、訴えたのだった。

コマーシャルの後、モンテルはブラウン管には戻らなかった。
4日後、17年間も続いた彼のCBS局のトークショー番組「モンテル・ウィリアムズShow」は、フォックス経営テレビ局が番組の更新契約から手をひいたという理由でキャンセルされた。
イラク戦争で使われている潜水艦原子炉を製造するのがCBS局の関連企業である。

“企業メディア”は大衆が耳にする発言までコントロールしようとしているのだ。

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モンテル・ウィリアムズのトークショーはキャンセル!「警告:主流メディアに言論の自由はなし」

一方、そんな“企業メディア”から支持される共和党員マケインは当然のごとく大統領候補としてかなり前から話題に取り上げられ、テレビ出演も多い。

Viacom社のCBS局の買収は「大企業による報道操作から市民を守るための法律」に違反する行為だった。
ところがマケインが、この法律改正を提案したために買収が成功したのだ。
もちろんのこと彼はViacom社より資金調達されていて、同社が持つ39のテレビ局と185のラジオ局という報道網を大統領選への道具に使っている。

CNN局の親会社であるタイム・ワーナー社など、メジャーな電子通信会社からも膨大な献金を受ける上院議員ジョン・マケインの裏は?
中立状態にあるインターネットをハイスピードのサービスに料金を発生させるような法案へとサポートするのがマケインなのだ。
彼らは一般人のブロードバンドの自由を奪って企業の利益にしようと企てている。

テレビ局やラジオ局や出版社の親元は、そんな儲けさせてくれる政治家を押し続けスポットライトを浴びさせる。
それに戦争賛成のマケインは大企業にとって好都合なのだ。

デニス・クシニッチと同じく、テレビ討論会から閉め出された「戦争反対」の声。
戦死の悲惨さを訴え続けている民主党員マイケル・グラベルは、まだ大統領レースに残っているのに1秒たりとも報道の話題にのぼらない。

共和党員では珍しくイラク戦争反対の議員ロン・ポールもインターネット上では大人気だが、投票率はかなりの差で最低値を記録。

近年、環境への関心が高まっていても、アメリカ緑の党の候補者はなかなか脚光を浴びられない。

テレビ出演ができないと、大衆の心をつかむことができないのだろうか。

その点ではアメリカも日本と同じなのかもしれない。
テレビのブラウン管を通して見る人が「自分の利益のためでなく人々のために良い社会」を築こうとする政治家であるかどうか、それを見極められる人々がどれだけいるか。
大衆が無知になればなるほど、金持ちはさらに金持ちに、弱いものは犠牲者になる社会が待ち受けている。

大統領選を前に、私はそれが心配で仕方がない。

Copyright: 2008 Yuka Azuma

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渡米は1982年。ロサンゼルスに13年在住後、ニューヨークへ。84年より映画記事を中心に雑誌等に寄稿。ハリウッド映画スターへのインタビュー歴は30年以上。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。

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