セレブの小部屋

オーランド・ブルームが見せた悟りの境地

暖房のきいたホテル部屋だった。なのに、オーランド・ブルームはマフラーをぐるぐると首にまいて、肩をすぼめて部屋の隅に座りこんだ。

「今朝から背中が痛むんだ」

細い体を直立させたまま、ゆっくり腰をおろした彼。昨日、インタビューしたときは軽々と跳ねまわるシカみたいだったのに、今日は部屋のカーテンも開けず、ドラキュラ博士のような雰囲気が・・・。

『ロード・オブ・ザ・リング』最終編「王の帰還」のインタビューに応じるためにニューヨークにやってきたオーランド。
デンマークから取材に来ていた女性取材陣たちと昨晩、飲み歩いたそうで、今日は睡眠不足気味でもあるようだ。

それでも彼は、まったくけだるい雰囲気を見せなかった。私の愚かな質問にも1つ1つ誠意を持って答えてくれる。

彼に会う前は「いきなり軌道に乗った生意気なラッキー青年」というイメージを勝手につくっていた私。 だって、確かにカッコよかったから。あの金髪をなびかせ口数少なく弓を放つ『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラス様。
だけど、いきなり成功を手にした、こういう手のカッコイイ顔の若い男性って、実際に会うと鼻が高くて、報道陣の私なんてバカにされそうで苦手なのよね。
単独インタビューできるのは嬉しいけど怖いなあ、だなんて勝手にガードを立てていた私。

ああ、ごめんなさい。まったく違ったわ、素顔の彼。

「僕は難読症なんだ。だから、いつもみんなの倍、勉強しないとクラスに追いついていけなかった。そのせいで、役者としても何度も壁にぶつかった。その上、ロンドンの演劇学校に通っていた頃、脊椎を折る大事故に遭って、医者から“もう歩けないだろう”と宣告されたこともあったから。だけど、それらの壁がいまの自分を形成していったのだから、それは良かったことなんだ」

そんな話を何気なく語ってくれるオーランド。
どんな苦労だって、プラスにしていけるパワーがあって、こりゃあ、ただラッキーだけな新進役者じゃないぞ。

「僕はただ役者になりたかったんだ。それは小さい頃からの夢だった。やりたいことが見つかったのだから、それに集中して、突き進んでいくしかない。そのために全力を尽くしていくしかないって思ってやってきた。だけど、あくまで僕は役者になりたかったんだ。有名にはなりたくなかった。その事態を消化するだけで、膨大なエネルギーが要されてしまう」

と語り、『ロード・オブ・ザ・リング』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』の大ヒットで一躍、有名になってしまったことに戸惑う彼。自分を見失わないようにしたいという思いが感じられる。
鼻が高いなんて、とんでもない。真面目で、良い子だよ、彼。

いちばん印象的だったのは『死』についての考えを聞いたときに返ってきた答えだった。
オーランドは少し黙って考えたあと、

「死は・・・、ホッとする瞬間。ハッピーなものだと思う」

と、語ったのだった。
といっても安心して。なにも彼は死を逃避として美化するようなアヤシイ宗教にハマっているわけじゃない。

「もっと若い頃、僕は死に対してヘルシーな見解を持ってなかった。軽卒に、好き放題なことをやって暮らしてた。僕は死なんてものには最初から恐れもなかったんだ。
だけど年をとるにつれて、そして脊椎を折る大事故にあって、人生がいかに貴重なものであるかってことを理解するようになった。
生きているときを大切に、感謝の念を持って生きること。そして人生のどの瞬間も、楽しんでいかなきゃならないってことを学んだんだ。
もし自分の人生を前向きに一生懸命、捧げるような精神で生きていけたら、死はハッピーなものになると思う。苦しむときは成長するときだ。いくら苦しくても成長しているんだって理解できれば、苦しくてもハッピーな人生になる。ハッピーな人生を送れたら、死もハッピーなものになるんだ」

オーランドくん。こういう考えって、30歳をすぎた人が言うことだよね。
20代の彼の口から、しんみりと放たれた言葉に、私は新鮮な驚きを覚えた。

前向きな彼だから、これからも息の長い役者として生き残っていくんだろうな。こういう姿勢の人は応援していきたいな。
だけど彼はたとえ役者業がこの先、うまくいかなくても、それに潰されてしまうような男じゃない。

「もし『ロード・オブ・ザ・リング』のあと3年、どの映画にも出てなかったら、みんな僕のことなんて忘れていたさ。でもそのときはそれで、僕はまた別の道を歩めばいいのさ」

とも言っていた。演じることを愛する青年なのに、そんな融通も効く彼。
さすが、大事故で生と死をさまよった体験のある男は強い。

「彼、イイじゃない・・・」

薄暗いホテル部屋を後にした私は、そう呟いていた。
そして、自分の死はハッピーになるかな、だなんて、まるで肩の荷が降りたような気分で考えを巡らしていた。

©2004 Yuka Azuma

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渡米は1982年。ロサンゼルスに13年在住後、ニューヨークへ。84年より映画記事を中心に雑誌等に寄稿。ハリウッド映画スターへのインタビュー歴は30年以上。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。

1 comment on “オーランド・ブルームが見せた悟りの境地

  1. Pingback: NY NicheからMain Streetの撮影秘話をお届け | オーランド・ブルームの情報を発信 : Orlando HANA

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