セレブの小部屋

短すぎたトラボルタ、長すぎたキャメロン監督

ほんの瞬時ではあるけれど、かなりの数の有名人に会ってきた。

「じゃあ、アル・パチーノにインタビューしたことある?」
と、友人に聞かれた。

「それが、まだなのよ! 彼、イイわよねえ。彼には絶対、会いたいわ! 一度、撮影現場で演技するところを見学したことはあるんだけれどねぇ」

と、答えて5分後。
「あっ!」と、私は声をあげた。去年、『シモーヌ』の記者会見で彼にインタビューしていたことを思い出したのだ。

「そうそう、彼ってインタビューに慣れていなくて照れたりして、すごく可愛いオジサンだった」
と、話し出した私に、パチーノ・ファンの友人は、いぶかしげな眼差しを向けた。

こんな具合で、なにしろ忘れっぽい私。

でも、いままでの取材で、最短と最長のインタビューは、と聞かれたら、記憶はすぐに蘇る。

最短のインタビューは、映画『SWORD FISH』の際。
『サタデー・ナイト・フィーバー』の頃から馴染みだった主演のジョン・トラボルタに会えることは楽しみだった。

テレビの場合、通常の番組では1分でもそのままインタビューを流すことがないくらいチョン切られるものなので、7分もあれば、要所は掴める。 私はその7分のために、かなり待たされていた。

同日に世界各国用にインタビューがなされていたので、スタジオ側は映画の宣伝写真にインタビューアーの姿をはめ込んでプレゼント、という計らいもニューヨークのホテル部屋に用意していた。
妊娠中だった私は、妊婦姿の記念になるとカメラの前で喜んでポーズをとったりして、早く家に帰りたいと焦ったりもしながらも、自分の番がくるまで待っていた。

(c) Warner Bros. Studio 『SWORD FISH』のキャストに仲間入り(?)した著者

いっぽうジョン・トラボルタはというと、突如、話題になっていたブロードウェイ劇『プロデューサー』を今晩、見たいと言い出した。

即座にチケットが手配され、劇を観るためには何時にここを出なくてはならないかとパッパッと時間が計算された結果、これからのインタビューは1人“3分”という数字がでた。いきなりインタビュー時間が削減されたのだ。

いくらテレビ用インタビューとはいえ、3分はキツイ。

「3分だから、自己紹介なしで直ちに質問したほうが良いかもよ」

と、ジョン・トラボルタが待機する部屋に入り込む私に、係員が笑ってアドバイス。
英語の場合、「ハイ」と、挨拶が1秒で終わる点、都合良い。
さあ、あとの179秒、質問攻めをご覚悟…!

で、その結果なのだが、忘れっぽい私はジョン・トラボルタに何を聞いたかも覚えていない。
ただ目がきれいな人だったな。ほんの3分、眺めただけだったけれど。

いっぽう反対に長すぎたインタビューはというと、映画『タイタニック』のアカデミー受賞監督ジェームス・キャメロン。
彼の本を出すために、私はその本の著者の通訳として、ビバリーヒルズの山奥地にあった彼の自宅を訪れた。

さすが、キャメロン監督。

頭はコンピューターだった。
正確に、欲しい回答が、詳細に渡って、がんがん溢れでてくる。なんだか図解入りマニュアル解説を、絵なしで聞いているみたいだぞ。

キャメロンの答えは訳さず、質問し続けるという形が取られたので、みっちり座って話を聞いたら、1時間で信じられないほど膨大な情報宝庫がテープに収まった。
それでも、まだ彼の家を出る時間にはなっていなかった。たしか取材約束は朝の10時から午後2時まで、とかいう時間帯だったと記憶している。

まだまだ、これでもかと、早口で注ぎ続けられる情報の数々。彼の迅速なリズムに、次々に質問をのせていくのが、これまた大変な作業だった。
映画監督の熱弁はあまりに刺激的で、あまりにテクニカルで、中身が濃い。
その話し振りから、映画の1コマ1コマに注がれた情熱がバシバシ伝わってくる感じだった。

「あのォ、私、トイレに行きたいんですけど」

だなんて、とても話の途中で、言いだせない重み。
そんな要求は場違い、という雰囲気だったけれど、私はあえてトイレを“駆け込み寺”にするしかなかった。
「ふー」とトイレで一息つけたのも、つかの間。
戻った私が落ち着いて腰をおろす前に、キャメロン監督の早口解説が再開するのだった。

賢く頑張っていた著者も、いよいよ質問がなくなってきて「えー、そのー、あのー」という時間稼ぎフレーズが増えてきた。私たちの頭はパンク状態。切り替え時間が必要になった。

「ランチを食べてから、また戻りますので」

と、お昼休みにかこつけて、彼の家を一度出ようとする私たちを止めたのはキャメロンだった。

「メイドにサンドイッチでも作らせるから、食事をしながら話を続けよう。そのほうがいっぱい話せていいだろう」

な、なんて、ご親切な…! ガ、ガーン!!

優雅に食べ物を噛んだりする場合じゃなかった。ガス欠にならないようにエネルギー補給しながら、話は続けられたのだった。

フツーの人間に必要な休憩なんて、サイボーグ頭脳キャメロンには通じない。さすが、あれほどの映画を作る人だと心から感心したし、その献身ぶりに感謝もした。
キャメロン映画は、すべてが綿密に構成されていて、まさに完璧主義者の逸品だ。こういう人だからこそ成せる業だったんだな。

淡々と続いた3時間か4時間のインタビュー。その間、私の休憩はトイレに行った5分間くらいだったことは、いまでも忘れられない。

ヘトヘトになった私たちが帰るとき、彼の家には別の来客が到着していて、これからビジネス・ミーティングだといっていた。
私たちに「バイ」と言って、次の来客に「ハロー」と言うまで、1秒の間もなかったぞ。キャメロンは、いつ一息つくんだ?
インタビューの最中も、いっときも糸の緩む瞬間がなかったし、彼はトイレにさえ行かなかったような気がする。

それは『タイタニック』や『T2』が制作される前のことだった。

「ぜひとも映画『ターミネーター』の続編を作ってください」
と、『ターミネーター』ファンの私は監督に直接、お願いできたことが嬉しかったし、このインタビューの直後、彼のアシスタントからも電話をもらった。

キャメロンが近々来日する予定だが、そのときに通訳として日本まで同行できないか、私の都合を聞くように彼に頼まれた、という内容だった。
結局、それは実現しなかったのだけど、内心、「彼との仕事は命賭けになるぞ」と、怖じけついた私だった。

©2003 Yuka Azuma

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渡米は1982年。ロサンゼルスに13年在住後、ニューヨークへ。84年より映画記事を中心に雑誌等に寄稿。ハリウッド映画スターへのインタビュー歴は30年以上。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。

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