セレブの小部屋

マトリックス旋風、キアヌ・リーヴスの稼ぎはどこへ吹かれ

「えっ、この人、なんでぇ・・・ マジ?
人に会いに来てるのに、な、なぜ? こんなに汚いのぉ!」

それが、私のキアヌ・リーヴスの第一印象だった。

13年くらい前のことで、じつは私は彼の名前さえ覚えてなかった。
映画『ビルとテッドの地獄旅行』の取材に、特別、何も期待せずに出向いたら、目の前に現れたテッド役の彼の姿に唖然となったのだ。
キアヌという名前と一緒に、しっかりと彼の印象は私の脳裏に焼きついた。

サンドイッチに食らいつきながら報道陣が構えるロスアンジェルスのホテル部屋に入ってきた彼。
その手で食べ物、持って大丈夫かい、と心配になってしまったほど汚れた手。爪は驚くほど真っ黒だった。
ボサボサの髪は最低、1週間半は洗っていないであろう。ベットリと不気味なツヤを放っている。ヨレヨレの服も、履き古した靴も、彼自身の汚さには負けてるよ。すごい、ここまでくるものか。
シャワー設備に恵まれない人以外で、これほど身だしなみに気をつかわない人には、正直言って、私は会ったことがなかった。

「ビルとテッドはいくら人から悪い仕打ちを受けても、決して他人の悪口を言わないんだ。彼らは相手が誰であろうと、みんなが大好きなんだ」

と、彼が語っていたことを覚えている。
ああ、確かにそうだと、キアヌが演じた憎めないキャラクターの魅力を再認識した私だった。

そして素顔のキアヌも、そのキャラクター、テッドみたいだった。彼は陰口なんて、たたくタイプじゃない。
それにキアヌの悪口も、誰も言いたがらないだろう。

いくら不潔でも、まったく嫌悪感を感じさせない不思議な人だった。
それどころか“素朴”とか“純真無垢”とかいう言葉がほんのり浮かんできて、うーん、いいねぇと、彼を目の前に、なんだかイイ気分になってしまったのだ。

普段こんなでも役者業はこなせるものかと、新鮮な驚きも受けた。

それ以来、私はずっとキアヌに驚かされ続けている。
私にとって、彼ほど不思議な役者はいない。

頭は悪くても人は良いテッド。
そんな『ビルとテッドの大冒険』『ビルとテッドの地獄旅行』のキャラクターはキアヌの地かなと、その後、何度も思わされた。
でもすぐに、それは無意識のうちに、彼の謙遜さが彼にさせるフリであろうと考え直してしまう。
じつは彼、とってもとっても頭の良い人なのでは? だけど自分がズバ抜けた頭脳の持ち主だということを世間の人々に知らせたくないのじゃないかな。

その後、映画『ハートブルー(POINT BREAK)』で観た彼の姿にも唖然とさせられた。
な、なんて、美しい…。
そのキラキラ輝く美男子姿に、いやあ、シャワーを浴びさせて磨いたら、こうなるものかと驚いたものだ。

その作品のプレミア試写会で見かけた彼は、爪まではチェックできなかったけれど、こぎれいにしていた。相変わらず髪はボサボサ。でも、ちゃんと2日前には洗ったような感じだった。
それ以外にも2回くらいMTVかなんかの受賞パーティとかで彼を見かけたが、汚い姿ではなかった。

でも「やっぱりキアヌだな」と思ったのは、私が最初に会ったときと同じジャケットをいつも着こんでいたこと。肩の部分だけが汚れで黒色になっている茶色のスエード・ジャケットだった。

その頃、来日も果たしたキアヌ。スタッフたちは彼が汚い身なりで日本人報道陣の前に出るのではないかと心配して、彼にスーツを買い与えたという噂を聞いた。
それが、あの淡いオリーブ色のスーツなのかな?
その後1年以上、ハリウッド・パーティに出かける度、いつも同じスーツを着込んで現れていた彼なのだ。

東京では記者会見に出向こうとホテル部屋を出たキアヌを、共演者パトリック・スエイゼが止めて
「人前に出るには、もうちょっとキレイにしてからでないとヤバイんじゃないか」
と、彼をホテル部屋に送り返したという話も耳にした。
いやあ、本当に彼はほっておくと、とことんまで身なり構わずになってしまうのだろうな。

そして私は再び、キアヌに『リトル・ブッダ』でインタビューした。そのときの彼は、もうまったく不潔な感じがなくて驚いた。
ジーパンは両膝に大きな穴があいていたけれど、ちゃんと洗濯された清潔な服装。顔もピカピカ。
でもふと下を見ると、彼の古靴はドロで汚れていて、「おー、やっぱりキアヌだぁ」と、なぜかホッとしたりしたものだ。

「この作品に関わるまで、僕は仏教について何も知らなかった。だから心の窓を開けて、なんでも受け入れようと決心したんだ。
僕には先生がいなかったから本から学んだ。スーツケースに本だけいっぱい詰めこんで、カトマンズやブータンへと撮影に出かけ、90日間、仏教に没頭したんだ」

と、語っていた彼。
彼のスーツケースには本当に本以外には何も、着替えも洗面道具も入ってなかったんだろうなぁと、ミョーに彼の言葉には納得させられた私だった。

その分、内面に詰めこまれたものは多かったのだろうと推測して、その作品『リトル・ブッダ』の体験から得たものは何だったのかと聞いてみた。
するとキアヌは15秒以上、沈黙して考えこんだ。
そして、頬を少し赤く染めながら、彼が学んだことをいろいろ話してくれた。

「あまり物とか、物以外のものにも愛着を持たないように心がけ、それでいて愛着するものとの関係を保つことの大切さについて考えさせられた。僕にはもともと物質欲はなかったけれど、さらにそんな物欲はなくなった」

と、誠実な態度で語ってくれた彼。
でもキミからこれ以上、物欲をとって、どうするんだ。
ウーン、不思議だ。彼、映画スターだよ。

映画のサクセスで得た大金はどこにいってるんだろう?

『マトリックス』続編シリーズでは3千万ドルのギャラを貰った彼、どこにそのお金ばらまいているのかな。バイクとか音楽活動の費用だけじゃあ、使いきれない膨大な金額。
きっと誰かにあげたりしているはずなんだけど、それをペラペラ喋るような人じゃないから、ミステリー。

『マトリックス』で得た収益の一部をコスチュームと特殊効果の担当スタッフたちに回したとか、『マトリックス リローデッド』のスタントマン12人にハーレー・ダビッドソンをプレゼントしたとか、『リプレイスメント』ではジーン・ハックマンを雇う予算を作るために自分の出演料を削ったとか、そういう部分的なことは耳に入ってくるんだけど。

『リプレイスメント』で彼にインタビューしたときは、見解ある30代の男性という感じに落ち着いてしまっていて、インタビューの内容はちょっと面白味に欠けるような気もした。
キアヌには自己主張もないので、まったく角がたたなくて、なんか空気にインタビューしているみたいだった。

キアヌというのはハワイの言葉で“涼しいそよ風“という意味らしい。その名前通り、さらりと通り抜けて爽快、でも存在感なし、という感じ。
浮き世離れで、つかみどころなし。

でもじつは、他のハリウッドの誰よりも、彼はしっかりと地に足をつけている人なのだとも思う。
しっかり仕事をして、プライベートな生活もしっかり守って、私生活を暴露することなく謳歌できる彼なのだから。
彼ほどのスターでありながら、それができること自体、驚きだ。
ああ、不思議。

また、彼の不思議な風に吹かれてみたいな。
まだまだいっぱい、彼には聞きたいことがある。

©2003 Yuka Azuma

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渡米は1982年。ロサンゼルスに13年在住後、ニューヨークへ。84年より映画記事を中心に雑誌等に寄稿。ハリウッド映画スターへのインタビュー歴は30年以上。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。

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