セレブの小部屋

やみつきのドラッグと私の相棒とロバート・ダウニー・ジュニア

「ぅうー。恋人同士だったなんて、思い出しただけでも気持ち悪い」
と、お互いにオエーッとなるほど、その後、兄弟のような関係に発展した彼氏がいた。

同じベッドで寝てもなにも起きないし、なんでも相談できる一番の親友だった。
長年、気がつけば私の横にいた相棒だったのに、私がロスアンジェルスからニューヨークに引っ越して会えなくなった。

イラン出身の彼は、政治的亡命者としてアメリカ永住民になった。ところが刑務所入りしてしまっため、出所後に強制送還されそうだという連絡を最後に、音信不通になった。イランに帰国すれば殺されると言っていた彼だ。

恋しいな、私の相棒。
家族みたいに理屈抜きで愛してる。
もう2度と、こんなに心から打ち解けられる男友達なんて、できないだろう。

彼の話を聞くと、私はぬるま湯につかって育ったとしか思えなかった。
それはそれは支離滅裂、波瀾万丈な人生を歩んできた彼。
13歳で命からがら家族のもとを去り、一人でトルコを放浪後、難民船で英語も喋れず渡米した。離ればなれになってしまった母親とは一生、会えないかもしれないと、クリスマスにはいつも落ち込んでいたっけ。
真上からいつ爆弾が落とされても不思議でないような運を持つ人だった。バイク事故で2週間の意識不明になったり、ケンカでお腹を刺されたり、いつ何が起きるか、わかったもんじゃなかった相棒。

ホームレスだったときには、私のボーイフレンドが「なんだ、この男は?」と、うちにはびこる害虫のような相棒を発見して興醒めすることもあった。それでも、彼は家族の一員みたいなもんだったから、シャワーを浴びにくるヘンな友達として認めてもらうしかなかった。

失恋したときとか、車が故障して路頭に迷ったときとか、何かあったときには一番に救済に来てくれる頼りになる奴だったし、心優しいところも、心寂しいところもあった。
片腕のないミュージシャンとか、耳の不自由な青年とか、男みたいなレズビアンとか、合気道一筋のオヤジとか、いろんな人種のいろんな友達がいた彼。

一緒にナイトクラブに出かけると、まわりには自然に人が集まってきて、彼が「今晩はあの娘と寝るぞ」と言うと、必ずそうなった。
彼には人を寄せつける不思議な魅力があった。それは何かを訴えるような純粋な瞳の輝きに表れていた。

ある日、ロスアンジェルスのナイトクラブに出かけた相棒が「昨日の晩、誰と遊びまわってたと思う?」と、興奮して報告してきた。

「ロバート・ダウニー・ジュニアと一晩中、一緒だったんだ!」

よく話を聞いてみると、彼はダウニーからドラッグの買い出しも頼まれて、ホイホイやってのけたらしい。
へええ、と思っていたら、その後、本当にダウニーがドラッグ所持の罪で逮捕されたというニュースが入ってきたのだ。

その後もドラッグを止められず、何度も逮捕され続けたロバード・ダウニー・ジュニア。1年まるまる刑務所で過ごし、5年の刑になるかもしれないと懸念された時もあった。

なぜダウニーは、そこまで犯罪者扱いされるんだろう。

スターだから、みんなへの見せしめとして厳しい刑が言い渡されているのかな。
中毒者には刑罰でなく、救済が必要なのに。
他人を傷つけたわけでもドラッグ・ディーラーでもないダウニーを、ドラッグ所持だけで刑務所に放り込んでどうする?
彼のような非暴力のドラッグ常習者の囚人数が膨大に膨れ上がり、そのために凶暴な犯罪者を刑務所に収容できなくなっている状態なのだ。

そもそも黒人とヒッピーを内心、恐れていた多数派の支持を得るための手法として、ニクソン大統領が、マリワナやヘロインといった、まったく性質も危険度も違うドラッグをいっしょクタにして全ての常習者たちを敵にしたことから、こういう社会システムになってしまったのだ。

平和を唱える若者たちが邪魔になってきた1960年代後半。ベトナム戦争反対のヒッピーたちはマリワナやLSD常用者が多いことに目をつけ、彼らを刑務所に押しこめれば反戦運動を阻止できるという政治的な理由で、ニクソン大統領は“ドラッグ戦争“なるものを宣言し、ドラッグ所持者を逮捕しだした。

いまも、子供たちの教育費は大幅にカットされる時代なのに、このドラッグ戦争とやらには依然と、さらに膨大な予算がかけられているアメリカなのだ。

タバコの煙でまわりに迷惑さえかけなければ、どれだけタバコを吸おうと自由。
他人に迷惑かけてなきゃ、どれだけドラッグやろうと個人の自由でしょ、と自由の国アメリカに住む私は言いたい。
彼らを罰する前に、彼らをリハビリする方法を提供し、子供たちが将来、それらの中毒に苦しまないように導いていく政策に予算をかけるべきだと思うのだけど。

中毒依存性の傾向は、おいたちとか生まれつきの性質によるところが大きいようだ。
アルコールやギャンブルや宗教とかに、まるまる頭ごと、結果、体ごとハマってしまいやすいタイプっている。
幸い私はそういう依存性の少ない性格だから人生気楽なもんだが、病みつきになりやすい性質の人にとっては、人生は命がけ。真剣に取り組まなくてはならない大問題。

飲み出すと止められないからと一切お酒を口にしないアルコール中毒患者がアメリカにはたくさんいる。日本人からは「酒を飲まないのに、なぜアル中って呼ばれるんだ?」って不思議がられる種族たち。
彼らは自分たちが中毒になりやすい性格だと認め、それを正面から見つめて闘っている人達だ。つまり、かなり真面目だったりするのだ。

ロバート・ダウニー・ジュニアも、とっても真面目な人だ。私は彼が悪い奴だともダメな奴だとも思わない。ただ、そういう弱みのある人なのだと。

エリザベス・テイラーしかり、デニス・ホッパーしかり、ドラッグ中毒から立ち治った人達には祝福を与えるハリウッドだけれど、中毒中の人間にはかなり冷たい。
それでもダウニーは近年も、仕事にあぶれることなく映画やテレビ出演をこなしてきた。それは彼が実力ある俳優であるのと同時に、彼が見放せない気持ちにさせる哀愁を秘める人だからじゃないかな。

あの彼の、何かを訴えるような奥深い情感ある瞳がなんともいえない。
そう、私の相棒を思い出させるのだ。彼らは同じ目をしている。
そして、ふたりとも、病みつきになりやすい性格に悩まされている。

私は2回、ダウニーにインタビューしたことがある。
相棒が彼とナイトクラブで意気投合する前で、ダウニーのドラッグ問題が明るみになる前だったけれど、彼は映画『チャーリー』で演じたチャーリー・チャップリンの役柄中毒になっていた。

その熱演でアカデミー賞の最優秀主演男優にノミネートされた彼だが、どっぷりとその実在人物にハマっていたのだ。

「撮影が終わったあと、気が狂いそうになった」

と、彼は真面目な表情で語りだした。

「僕の全てをチャップリンに捧げたのに、撮影終了後のセットには、もう誰もいない。僕は全スタッフがたち去ったあとも、最後までセットに取り残されていた。
たまらなくなって、どこかへ消えてしまいたくなった。誰とも連絡をとらずにヨーロッパを放浪したんだ。一人で考える時間が必要だったんだ。
この作品を完成するために学んだことは、仕事が終わったあと、あまりにも重すぎた。全力投球したから、力尽きてしまったのさ。
僕の人生の大切な部分が終わってしまったんだ。人生って、なんて空しいんだろう」

ハァーッ。
なんて真面目な人なんだろうと、そんなことを語る彼をため息まじりに見つめてしまった私。
そんな病みつきの真面目さで、彼は今日もドラッグと向き合っているはずだ。

父親からドラッグをもらい、8歳で中毒になったという彼。15歳のときから克服しようと試み始めて失敗を繰り返してきたのだ。
幼いときからの癖として、精神的にも肉体的にもドラッグに弱みを握られてしまったのだから、そりゃあ辛いだろう。

役にハマったあとにも必ず終わりがくる役者業を続ける彼。
よりどころのない空しさから現実逃避したくなる気持ち、わかるような気がするな。
でも、彼は頑張っている。
だから、これからもそんな彼を見守っていきたい。

「人間は誰もが“リトル・トランプ”なんだ。誰もがチャップリンのキャラクターのように、ホームレスなんだ」

と、ダウニーがあの瞳で、淡々と語っていたのを思い出すと、なおさら相棒への哀愁もこみあげてくる私だ。

©2003 Yuka Azuma

Advertisements

渡米は1982年。ロサンゼルスに13年在住後、ニューヨークへ。84年より映画記事を中心に雑誌等に寄稿。ハリウッド映画スターへのインタビュー歴は30年以上。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。

0 comments on “やみつきのドラッグと私の相棒とロバート・ダウニー・ジュニア

Leave a Reply

Fill in your details below or click an icon to log in:

WordPress.com Logo

You are commenting using your WordPress.com account. Log Out /  Change )

Google+ photo

You are commenting using your Google+ account. Log Out /  Change )

Twitter picture

You are commenting using your Twitter account. Log Out /  Change )

Facebook photo

You are commenting using your Facebook account. Log Out /  Change )

Connecting to %s

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.

%d bloggers like this: