セレブの小部屋

戦争まっただ中でも、アカデミー賞

本年度の第75回アカデミー・オスカー授賞式は、戦争が始まりそうな気配から、延期されるかもしれないと噂されていた。

授賞式のプレゼンターでもあったオスカー受賞女優ヒラリー・スワンクに、今週末に予定通り、授賞式が開催されると思うか、と聞いてみたのが月曜日。
すると、「どんな時代でも、人々にとってエンターテイメントは大切なものなの。だから、きっと開催されるわよ」と、返ってきた。

火曜日には、この週末3月23日に予定通り、授賞式が開催されると正式発表された。

そして、水曜日、3月19日はイラク戦の開幕。

木曜日には、プレゼンターとして予定されていた俳優ウィル・スミスが「いまの世界情勢のなか、参加することに心地良い気分になれない」と、授賞式の参加を辞退した。

「戦争は一番の選択ではなかったけれど、私は国を100パーセント、支持するわ。授賞式に参加することはウキウキすることだけど、国を支持することのほうが私にとっては重要なこと。でも、家族を戦地に送った人たちも1日中、泣いてばかりはいたくない。ほんの2時間でも逃避できるひとときを与えることも有意義なことなのよね」
と、ベトナム帰還兵を父親に持つノミネート女優クィーン・ラティファもコメントをだしていた。

スターたちは授賞式に参加すべきか、どれほどドレスを抑え気味にすべきかと、頭を悩ませたのだ。アカデミー・オスカー授賞式には、“自粛”という、なんか日本的なムードが漂っていたのだ。

が、フタを開けたら、やはり華やか、華やか。
ダイヤモンドあり、ピカピカのロングドレス、ゾロゾロ、とても抑え気味には見えない姿ばかり。
みんな、平和を意味するシンボル・マークやハトのピンを付けて参加するという話になっていたのに、そのピンをつけていないスターも多かった。
全体的に、政治から離れてエンターテイメントを提供しましょうという雰囲気になっていたようだ。

最優秀主演男優エイドリアン・ブロディと最優秀主演女優ニコール・キッドマン

反戦派のダニエル・ディ・ルイスは「スターたちが笑顔を浮かべて赤じゅうたんの上を歩いて群衆に手を振っている間、戦場で死んでいく人たちがいるかと思うと不愉快だ」とのコメントを、開戦前から放っていた。

そんな彼も『ギャング・オブ・ニューヨーク』の主演男優賞ノミネート者として、授賞式には参加した。
赤じゅうたんは会場の入り口部分だけに縮小され、キャーと歓声あげ役の群衆用バルコニーも設置されないと、事前に発表されたからか。

ニコール・キッドマンも「いまは祝うべき時期ではないという考え、そして、こんな時世だからこそエンターテイメントを提供すべきだという考え」の選択に迷っていた。
そんな彼女は華やかな姿で授賞式に参加して、『めぐりあう時間たち(原題The HOURS)』で、主演女優として、オスカー像を受け取った。

「世界が苦境のときに何故、アカデミー受賞式にやってきたのか。それは、アートが重要なものだから。私はその自分のアートに信念を持っているし、その伝統を守っていきたいから」
と、戦争中にアカデミー授賞式が開催される意義を説明する役をかった彼女。

「プレゼンターが台詞からずれて、政治的メッセージを訴えれば、私たちは怒ります。受賞者なら45秒間を好きなように使っていただいて構いませんが」と、今年はハッキリ、アカデミー協会からの宣言も出されていた。

それって、プレゼンターの女優スーザン・サランドンへのメッセージ?

いつも政治や社会問題に毒舌で口をはさむ過激なサランドンだから、内心、爆弾発言が落とされるのではないかと楽しみだった私。
彼女は以前、プレゼンターとしてマイクを前にした際、エイズ患者をアメリカ入国させない措置への批判を発言して、アカデミー協会を怒らせ、何年かは授賞式から閉め出されたという前科者だ。

私が彼女に会ったときも、
「あら、私たちはアカデミー授賞式のプレゼンターになっても、それに対してお金をもらってないのよ。だから、私がなにを呼びかけようが私の自由でしょ」
と、豪快に語ってくれたのを覚えている。
「ところがプレゼンターは好きなこと言っちゃダメなんですって。でも受賞者なら良いんですってよ」
と、目を光らせていた彼女。

そういえば何年か前、
「死刑だなんていう野蛮な処置をいまでも実行している先進国なんて、アメリカくらいよ」
とも、私の目の前で語っていた。
あのォ、日本にもまだ死刑があるんですけど、とは恥ずかしくて言えなかったウブだった私。いまの私なら彼女と一緒になって、人殺し制度への批判を唱えるだろうけれど。

いやあ、もし今年、彼女が受賞者として舞台に立っていたなら、テキサス州知事のときに146人もの死刑を執行させたブッシュ大統領、「昔からの怨念、ご覚悟」って感じで、やっつけられていたかもしれないな。
でもプレゼンターである今年は、ただピース・サインを送るだけにとどめたサランドン。

代わりに、それを豪快にやってのけたのは、『ボウリング・フォー・コロンバイン』でドキュメンタリー映画部門のオスカー受賞に輝いた監督マイケル・ムーア。
ピース・マークのピンをつけた他のノミネート者たちも一緒に舞台に上げて、いやあ、堂々とやってくれましたねえ。

「偽りの理由で男たちを戦場へ送りだしたブッシュ大統領、恥を知れ!!」
と、きた。
これにはみんな、歓声とブーイング、ごっちゃまぜの反応。

それは禁句だぞォと、いう雰囲気で、会場がどよめいた瞬間だった。
いいのかや。ドキュメンタリーのフィルムメーカーだとはいえ、こんな正直に、真実を暴露しちゃって!
で、自分の作品を賞賛されるためではなく、「この戦争、大反対!」って絶叫するために舞台に上がった感じが、すごかった。
でも、これでこそ、戦争中にアカデミー授賞式をやった甲斐があったというもんだ。

もっと万人向けに、人々の心に訴えたのは、ホロコーストの戦時映画『ピアニスト』で最優秀主演男優に輝いたエイドリアン・ブロディ。

「この作品に関わってなおさら、戦争が人々にとってどんなに苦しいものかを身をもって感じた。一刻も早く平和な解決が訪れるように願っている」
という彼の言葉には、会場のみんなが総立ちで拍手を送った。

最多の13部門でノミネートされていた『シカゴ』は、最優秀作品賞を含む6部門でオスカー受賞。今年の勝利作品として、ピッタリかも。

『シカゴ』は、歌あり、踊りありのエンターテイメント。こんな時世だからこそ、娯楽作品が現実逃避として、もてはやされる。
世界恐慌の年にだって映画は制作されていたし、第2次世界大戦中だってアカデミー授賞式が開催されていたのも頷けるってもの。

『シカゴ』の舞台設定が、一昔前の1920年代というのも、いまの時世にあっている。
だって現代は、なんとも時代遅れだもの!
すでに「宇宙への旅」も始まっていて、これからは、エイリアン相手に「スター・ウォーズ」だって考慮せねばならぬ時代だっていうのに、まだ人間同士で戦争をやり続けているなんて、本当に時代遅れ。

過去の誤ちから何も学べずに同じことを繰り返して、たった1つの地球を破壊している私たち。
いまは、そんなことやっている時代じゃないはずなのに。地球温暖化とか、ゴミ問題とか、みんなで解決していく問題は他にいっぱいあるはずなのに。
いま、必要なのは戦争じゃなくて、意識の改革だ。
8億という人々が飢え死にしている世の中で、銃弾や爆弾を落とすために膨大なお金が費やされているとは、なんとも哀れなヒューマン・ドラマ。

そして、私は、アカデミー授賞式に見入っていた。

確かに、こんな世の中だからこそ、きれいな格好した業界人たちのお祭り騒ぎに、ホッと一息する自分がいた。
そして、アカデミー賞の歴史を振り返る式典で、映画がどれだけ人々を感動させてきたアートであったかということも思い知らされたのだった。

©2003 Yuka Azuma

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渡米は1982年。ロサンゼルスに13年在住後、ニューヨークへ。84年より映画記事を中心に雑誌等に寄稿。ハリウッド映画スターへのインタビュー歴は30年以上。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。

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