セレブの小部屋

アイ・ラブ・クィーン・ラティファ!

ハタと気が付くと、私は彼女の手を両手で握りしめながら「アイ・ラブ・ユー!」と告白しているではないか。

会う前は、彼女に特別な思い入れがあったわけじゃない。ほんの数分、彼女と過ごしただけなのに、そのほんのひとときで、私をこんなに舞い上がらせるとは。

彼女を目の前にした途端、なんだか嬉しくなってニタニタし始めていた私ではあった。それも目の前の彼女は怒っていたのにだ。彼女は椅子から立ち上がって狭い部屋をノソノソと、まるでオリに閉じ込められた虎のように歩き回っていたのだ。

私がこのテレビのインタビュー用にセットアップされたホテル部屋に入り込んだのは、彼女がちょうどイタリアのテレビ番組のインタビューを終えたときだった。インタビューアーが
「アンタら黒人にとっては、踊る、歌うは、生まれつきのもんでしょ」
と、いまどき何を聞きたいのか、なんとも失礼な口調で質問を投げかけ彼女の機嫌を損ねたところだったのだ。

「まあ、ヤツはイタリア男だからね。イタリアンになにが分かるもんか」
と、全身を動かせながら文句を放っているのに、そこに居合わせたカメラマンたちは、そんな彼女の一言一言にクスクスと笑っている。

彼女の名は、クィーン・ラティファ。

このラティファ・ワールドの王女(?)サマには、お仕えしたくなる雰囲気いっぱい。
ドカーンと構えていて、怒っていても怒り方までユニークで、さっぱりしていて、なんかおかしい。好きだなー。こういう楽しい人。それに笑顔がチャーミングな大型美女だ。

グラミー賞受賞のラッパーとして名高いミュージシャンであり、本を執筆したり、トークショー・ホストやレコード・レーベルの社長も務め、 テレビや映画の女優としても大活躍の彼女。

本年度のアカデミー・オスカー賞で最多の13部門でノミネートされた傑作ミュージカル『シカゴ』で、刑務所の看守役を好演して、彼女自身もアカデミー賞、そしてゴールデン・グローブ賞の助演女優部門にノミネートされたところだ。

今年1月19日に開催されたゴールデン・グローブ授賞式。
栄冠は『Adaptation』のメリル・ストリープが獲得して受賞を逃したラティファだったが
「でもアカデミー賞では受賞できるかもね。ハッ、ハッ、ハッ」
と、そのときはアカデミー賞ノミネート発表前で、彼女はノミネートさえ、されるかどうか怪しいところだったのに、そんなふうに明るく冗談を交わせる人柄なのだ。

ノミネート女優として参加した、2003年ゴールデン・グローブ授賞式にて

「この映画の撮影中は、私のおばあちゃんが亡くなって悲しいときでもあったのだけど、でもそんなとき、共演者のレニー・ゼルウィガーがこんな小さな(小指くらいの大きさをゼスチャーしながら)チキン(!?)をくれて力づけてくれたのよ。でも、なんで、チキンなんだ? それも、こんなちっぽけな」と、ラティファ。
そんなコメントに大笑い。彼女の話し方がおかしいのだ。雑誌でなくテレビ用のインタビューで良かった。

それでも、この彼女のプラス・エネルギーの波長、ブラウン官を通してしまっては届くかな。

映画『シカゴ』では囚人女たちに「ママ」と呼ばれて頼りにされる役どころ。わかるなァ。彼女をつい「ママ」って呼びたくなってしまう心境。胸がドーンと大きくて、乳児でなくても、ついそこに顔をうずめたくなってしまうような包容パワー。まあ、実際の彼女は映画で見るより小柄な感じなんだけど。

もともと、この看守役はキャシー・ベーツがほしがっていた役柄だった。いやあ、べーツでなくて、よかった、よかった。彼女は名女優だけど、これはクィーン・ラティファでなきゃ作品の魅力半減だったよォ、とホッとする思い。

でも普通、女優さんというのはそんなことは質問されても「他に誰が候補にあがっていたかは知らない」と、ノーコメントをとおすものなのだ。知っていても、他の候補者たちについて語るのは危ないトピック、という暗黙の掟がある。自分が受けたオーデションについては堂々と話すけれど、自分が受かったせいで落ちてしまった同業役者のことは名前さえ出せないほどタブーな話題。

でも、ラティファ王女には恐いものナシ。

「いやあ、キャシー・ベーツにはワルイなーと思っているのよね。彼女でもママになれただろうけれど、でも私がやったママとは違ったものになっていただろうねえ。いやあ、申し訳ない。いつか彼女には何かで恩返ししたいって願っているのよね」
と、堂々と心の内を語ってくれた。

そんな彼女の明るさに元気を与えてもらってニタニタしているうちに、突然のパニックが訪れた。時間切れだ。

日本のテレビ局のディレクターから「日本へのメッセージは必ずもらうように」と念を押されていたのに、係員は「あ、それはもうナシにして。これでインタビュー終わり。申し訳ないけれど、いま即カットしてもらいます」と、首をチョン切るゼスチャーを冷たく繰り返しながらの強攻中止令が出た。
もう次のインタビューアーがドアの向こう側まで押し迫ってきて、数秒の余裕さえ与えてもらえない、厳しきベルトコンベア方式テレビ・インタビューの世界!

これは、やばい、と青くなりかけたとき、ラティファ王女サマのお告げが鳴り響いた。

「ちょっと待った! 彼女は“お願い”って、言ってるじゃない。“お願い”って頼まれちゃあ、ノーとは言えないわ。良いわよ。どんなメッセージを言ったら良い? 日本語を教えて!」

時間厳守の係員を無視しながら、ラティファは大声で「ミテクダシャーイ!」と、出演作『シカゴ』の宣伝を日本語で放ってくれたのだ。

それで別れ際、私の愛の告白でしめくくりとなったわけだ。
「アイ・ラブ・ユー」だなんて。
ダンナにも、もうこの4、5年、言っていないセリフだ。

(c)2003 Yuka Azuma

 

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渡米は1982年。ロサンゼルスに13年在住後、ニューヨークへ。84年より映画記事を中心に雑誌等に寄稿。ハリウッド映画スターへのインタビュー歴は30年以上。訳書にマーク・デヴィッドジアク『刑事コロンボ』(角川書店)、同『刑事コロンボの秘密』(風雅書房)、フランク・サネロ『ジュリア・ロバーツ 恋する女神』(講談社)『ヴィダル・サスーン自伝』(髪書房)がある。

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