私の住むブルックリンの小通りに「3月30日(月)撮影のため、日曜の晩より駐車禁止」というピンク色の張り紙が張り出された。
しぶしぶ近所のみんなが車を動かして広くなった通りには、早朝から撮影機材を乗せたトレイラー・トラックがとまり、撮影スタッフ用の朝食やコーヒーが並べられたテーブルが私の家の窓から見える。家の斜め前の角にできた新しいレストランが撮影現場になっていた。

スタッフに聞くと、この撮影は来年、全米で封切られる『フェア・ゲーム』という映画で、な、なんと主演はショーン・ペンだという! きゃあ!

仕事で多くの役者に会ってきたが、じつは私が誰よりもいちばん好きな役者がショーン・ペンだ。
彼が近所にいるなんて! 私は一日中、心を躍らせた。ブッシュ政権を暴露する映画になるらしい。
ああ、政治に関心のあるショーンにぴったりなテーマだわ!

悪役でもヒーローでも冴えない男でも、ショーンは本当に見事に役になりきる。
ハーヴィー・ミルクの伝記映画 『ミルク』で、ショーンはゲイにもなりきれることを証明した。
1970年代にゲイであることを公表しながら政府役職に当選した初めての人物ミルクを熱演して、ショーンは2度目のアカデミー・オスカー主演男優賞に輝いた。

第81回アカデミー賞8部門にノミネートされた伝記映画『ミルク』を主演するショーン・ペン

アカデミー授賞式でロバート・デニーロが「彼はどうやって、やってのけたのか。こんな長年どうやってストレート(ゲイでない)の役柄を演じられたのか」と、場内を笑せたほど、ショーンの扮するミルクには現実味があった。

そして世界が注目する晴れ舞台で、ショーンはゲイの結婚権利を訴えた。
「同性愛者の結婚禁止に賛成を投じた人は、深く恥じるに良い時期だ。孫からの世代に侮辱されないためにも。全人々が、平等の権利を持つべきなんだ」

ミルクの貢献を称えて、彼の誕生日である5月22日を「ハーヴィー・ミルクの日」に制定しようとする運動を率先しているのもショーンだ。

「ゲイの教師は解雇すべき」などという条例を覆していったハーヴィー・ミルクの原動力ともいうべきものを、私はショーンの中にも見つめている。
実力役者であるばかりでなく、ショーンは理性と勇気と行動力のある人間だ。そこに尊敬する。
ニューオリンズがハリケーン・カトリーナに襲われた直後には被災地へ飛び、ボートに乗り込んで家の屋根にへばりつく被害者たちを自力で救済し続けた彼である。

「あなたは常に勇敢に政治的な発言を放っているが、有名人の場合、それはリスクが伴うこと。それでも構わず発言し続ける勇気はどこからくるのか」と、私はショーンに聞いたことがある。

「僕がやってる勇敢なことなんて、他の人たちがやっていることに比べたら笑われてしまうくらいのものだよ。それにできれば、僕はみんなの前に出しゃばって発言なんてしたくないのさ。
でも、生きるってことは、何かを話したくなるほど感じる、ってことなんだ。だから僕は発言するんだ」
と、答えてくれた彼は、腰が低かった。

それにショーン・ペンは、私が今回の大統領選挙で夢中で支持したデニス・クシニッチ(記事はこちら)の支持者でもあった。
世界平和、人権、環境。それらをいちばん大切な軸とする視点に、私はひどく同感する。

だから私はショーン・ペンが大好き!
弱い立場にある人たちのために声を大にできる彼に乾杯!
ブラボー! ショーン・ペン!!

©2009 Yuka Azuma/あずまゆか