ニューヨークからプロライター達がお送りする、「ここだけ」のおもしろ情報。

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「お母さん、ほら、わたしの手を触ってみてよ。震えが止まらない!」 客席の明かりが灯ってインターミッションになっても憑かれたように舞台を見つめていた少女が、隣席の母親にそう告げて小さな手を差し出した。 母親が両手で包み込んだその手の小刻みな震えは、母親越しにふと目をやったわたしにも見てとれる。 一幕目が終わっただけの芝居に興奮冷めやらぬ少女は、身体の震えを抑えようと母親にしがみつきながら、今見た物語について一心に話している。 Read more

No.21 ブロードウェイでの観劇最後のチャンス! 鉄の女サッチャーもぶっ飛ばす家族愛と多様性讃歌の『Billy Elliot the Musical』

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ロンドンのウエストエンドでスマッシュヒットを飛ばし、その後ブロードウェイに来るや2009年のベストミュージカル賞を含む10個のトニー賞を受賞した『Billy Elliot the Musical』 それがとうとう2012年1月8日に終演を迎える。

No.20 短髪厳禁! 80年代ヘアーメタルロックまみれの懐メロおバカミュージカル『Rock of Ages』

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ハムレットの苦悩が「生きるべきか、死ぬべきか」なら、その夜ブロードウェイの劇場に座るわたしの苦悩は「いっそのことノルべきか、出るべきか」だった。 ロックミュージカル『Rock of Ages』を上演する劇場に入ったとたん、そもそもそこがブロードウェイの劇場なのかという疑問が頭をもたげてきた。 劇場の中ではピチピチTシャツを着たウェイトレスが、ヘソを見せびらしながら客席を縫うように移動し、注文を聞いては酒を運んでいる。 わたしの隣に座るかつてのバイカーとその彼女風の40代後半カップルは、そんな酒をすすりつつBGMに体脂肪を揺さぶっている。 少し離れたところでは、プレイビルと一緒に渡された100円ライター型ペンライトをさっそく嬉しげに点け、腕を高らかに上げて左右に振っている観客もいる。 気のせいか、男性客の髪は他の劇場平均よりも長くてうねっているし、女性客の革ジャン率も高い。中にはスタッズ付き革ジャンのウェービーヘアーなカップルまでいる。

No.19 半ハゲモヒカンの虜になる、ロックオペラの『American Idiot』

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「Green Dayの『American Idiot』って知ってる?」 数年前のマンハッタンのとある居酒屋。 真向かいに座る眼鏡の男性が、枝豆を食べながらそう質問してきた。 Green Dayの『American Idiot』と言えば、わたしがニューヨークに移り住んだ頃に大ヒットした、パンクロックの反戦コンセプトアルバムだ。 アルバムは持ってないが、タイトルを聞いただけで、血の滴る心臓を模した手榴弾を握りしめる手の、インパクトあるイラストが目に浮かぶ。 それと同時に、タイトルソングも頭の中で流れ始める。 「知ってますよ。『なぁーんちゃらかんちゃら、アメーリカン・イディオーッ!』ってやつでしょ?」 酒の勢いと関西人特有のエンターテインメント精神とに背中を押されたわたしは、ろくに歌詞も思い出せない調子の外れた歌を、眼鏡の向こうから優しそうに微笑むその男性に披露してみせた。 「そうそう、それ! 今それを舞台ミュージカルにしようとしてるんだ!」 そう言って新しいプロジェクトについて熱く語り始めたのは、ミュージカル『Spring Awakening』で2007年のトニー賞を受賞した演出家のマイケル・メイヤーだった。

No.18 恐るべし!『The Addams Family』に君臨するブロードウェイの大スター、ネイサン・レインの妙技!

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開演前のざわつく劇場に、テレビでおなじみのあのテーマソングが流れ出す。 「ダラララン!」 すると、待ってましたとばかりに大喜びの観客達が手を叩く。 「パチン! パチン!」 本式に指を鳴らす者もいれば、音楽に合わせて歌詞を口ずさむ者もいる。 観客がこの風変わりな一家を愛していることは、どうやら間違いが無いらしい。 1938年に雑誌The New Yorkerに初めて登場したアダムス・ファミリーは、チャールズ・アダムスが創り出した一コマ漫画のキャラクター達だ。 理想のアメリカンファミリーを皮肉るように描かれた一家は、お化け屋敷のようなインテリア(たぶん)の邸宅にすむ大金持ちで、家族愛に満ち、死に関することが大好きという風変わりな趣味を持つ、少々不気味でブラックユーモアに富んだゴス一家。

No.17 愛の波にのまれるシアター体験!『Brief Encounter』

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小説や映画を原作にして作られた舞台を見ていると、原作に対する作り手の愛情をひしひしと感じることがある。 昨年末、ブルックリンのDUMBOにある昔のスパイス工場を改装した劇場、St. Ann’s Warehouseで見た『Brief Encounter』もその一つだ。 英国コーンウォールを本拠地とするシアターカンパニーのKneehigh Theatreが、ロンドン、サンフランシスコに続いて期間限定で上演した作品で、『Brief Encounter』というタイトルからおわかりのとおり、クラッシック映画『逢びき』を元に作られた芝居である。そして、映画『逢びき』は、1936年のノエル・カワードの一幕ものの戯曲『静物画』を映画化したもの。 Kneehigh Theatreの芸術監督を務め、本作の脚色、演出をしたエマ・ライスは、映画『逢びき』とノエル・カワードをこよなく愛しているのだろう。この作品を見ていると、彼女の愛情が波となってひたひたと足下に打ち寄せてくるのを感じる。

ブロードウェイのショウが定刻通りに始まることなどめったにないと承知しているわたしは、いつも開演予定時間の約5分前に劇場に到着する。 しかし、その日はいつもよりも遅く、アフロビートの創始者で政治活動家のフェラ・クティの半生を描いたミュージカル『Fela!』を上演している劇場にたどりついたのは、開演時間ぎりぎりだった。 万が一にそなえ早足で歩いたために切れた息を整えつつ扉をくぐる。 その途端、観客達の話し声と劇場中に溢れるビートの効いた音楽、色彩豊かな照明とアートの洪水に飲み込まれた。 舞台上では既にバンドが演奏している。 客席のノリやバンドメンバーの汗から判断すると、演奏は随分前に始まったようだ。 顔にアートペインティングをほどこした数人の女性ダンサーも、リズムに合わせて腰をくねらせている。 ダンサー達が身につけているのは、プリミティブなプリントの布を使った腰ミノのようなミニスカートや、レザーのボンデージ風ベルトでアクセントをつけたイカした衣装。 腰の動きに合わせて布やベルトが揺れ、カラフルな照明がその揺れを彩っている。 照明が照らし出すのは他にもある。 ダンサーの背後に見えるトタン板が貼りめぐらされた殺風景な壁と足場。それを縁取るコードと電球。 そして、そんな武骨なセットとは対照的に、舞台と客席とを隔てる見えない第四の壁を超えて客席にまで広がる大胆なアート。 舞台からセットがはみ出して客席に進出する美術は何度も見たことがあるが、これは今までに見たどれとも違う。客席も舞台の一部であるかのような不思議な一体感と奥行きが感じられ、ブロードウェイの劇場にいることを忘れさせるのだ。

No.15 老いも若きも中年も、ワルツを踊って相手を変える『A Little Night Music』

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キャサリン・ゼタ=ジョーンズほど美しくゴージャスで、お色気たっぷり、ウィットたっぷりの自信満々女でさえ、まだアヒルのオマルを使っていそうな18歳の小娘から男を取り戻すことができない世の中なんて! ゼタ=ジョーンズ以下の40女はいったいどうすりゃ良いというのか? 去年の12月もそろそろ終わりにさしかかった頃、ブロードウェイでオープンしたばかりのリバイバル・ミュージカル『A Little Night Music』を見ていたわたしは、心の中で小さく悪態をついた。

No.14 必見! まるで音楽の無いイタリアンオペラで「ガラスの仮面」な『A View From the Bridge』

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ひそかに「アメリカの北島マヤオ」と呼んでいる俳優がいる。 去年の夏、ヒュー・ジャックマン主演の『ウルヴァリン:X-Men Zero』でウルヴァリンの兄貴を演じたあの俳優、リーヴ・シュレイバーのことだ。 彼のことをそう呼ぶようになったのは、ブロードウェイでリバイバル上演されたデイヴィッド・マメットの『グレンギャリー・グレン・ロス』を観た2005年の夏からだ。芝居とは思えないリアルさをキャラクターに与えつつ、劇場の隅々まで到達する存在感を放つシュレイバーの力量に圧倒され、そこに北島マヤを見たのである。 2年後に観た別の芝居『トーク・ラジオ』でもシュレイバーは期待を裏切らなかった。 その彼が今ブロードウェイで、アーサー・ミラーの『橋からの眺め』でエディ・カルボーンを演じている。 これを見逃す手は無い。

No.13 『メンフィス』とソウルとミュージカル・シアター

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しっかりした物語にノリの良い音楽とダンス。 唄って踊れて演技ができる俳優陣に、時代とキャラクターにふさわしい衣装。 見栄えのする舞台装置に効果的な照明。 2009年10月にブロードウェイでオープンしたミュージカル『Memphis』には、良いミュージカルに必要なものはとりあえず全てそろっている。 仕上がりもそつがない。 それなのに、そこにあるべき大切なものを感じられず、作り物感がただよう。 そこにあるべきなのにそこにない大切なものとは、いったい何ぞや? 魂(ソウル)である。