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No.5 記憶の利己的さについて考えさせるダークな新ドラマ Showtimeの『The Affair』

On: アメリカのテレビ番組ガイド 観るっきゃナイト!

10月12日にShowtimeで放映が始まった新ドラマ『The Affair』は、そのタイトルが宣言するとおり、ある男と女の情事にまつわるお話だ。

そう聞くとつい、既存の婚姻関係を障害として扱った悲恋ものとか、あるいはドロドロの愛憎劇もの、またはセックスに焦点を当てたソフトポルノチックなドラマといった、お決まりのパターンが頭に浮かぶ。

ところが、そんなありきたりのドラマを想像していたわたしを『The Affair』は第1話目から驚かせてくれた

ニューヨーク、ブルックリンにあるブラウンストーン造りの高そうな家に住む教師ノア・サロウェイ(HBO『The Wire』のドミニク・ウエスト)は、第一作目の小説を出版したばかり。妻ヘレン(『ER』のモーラ・ティアニー)の裕福で高圧的な両親から経済的援助を受けていることに不満を持ち、男としてのエゴも傷ついている。

だが、今年もまた、ロングアイランド、モントークにあるヘレンの両親の豪邸で、妻や4人の子どもと一緒に夏休みを過ごさねばならない。

家族とともに慌ただしくブルックリンを出発したノアは、途中立ち寄ったレストランでウエイトレスのアリソン(『Saving Mr. Banks(邦題:ウォルト・ディズニーの約束)』のルース・ウィルソン)と出逢う。


Dominic West, Ruth Wilson, and Maura Tierney in “The Affair”

ドラマの第一話目で描かれるのは、やがて恋に落ちる二人の出逢いだ。

ところがその第一話目の途中、その出逢いの描写は、実はある事件を捜査する刑事に対してノアが語ったものだとわかる。

どうやらノアとアリソンの情事にからんで何か事件が起こったらしい。

すると、今度はアリソンが同じ出逢いを同じ刑事に自分の視点から語り始める。

HBOの『True Detective』を思い出させる始まりだ。


Dominic West and Ruth Wilson

二人は同じ出逢いの物語を語っているにもかかわらず、話が食い違う。

まるで黒澤明の『羅生門』のように、語り手が変わると物語がガラリと変わるのだ。

どちらも、レストランでなれなれしくしてきたのは相手だと言う。

どちらも、ある非常事態が起こった時、それを解決したのは自分だと言う。

どちらも、ビーチでの2度目の出逢いで煙草を差し出したのは相手だと言い、ある言葉を口にしたのも相手だと言う。
その時着ていた服装の描写まで違う


Ruth Wilson as Alison in “The Affair”

ノアが描く自分は、小さな不満を持つものの、礼儀正しく家庭を大切にする夫であり父親で、アリソンは艶かしくセクシーで自分を誘惑する奔放な女性だ。

アリソンが描く自分は、ある哀しみを乗り越えようともがいているのに、その哀しみのせいで夫コール(“Fringe”のジョシュア・ジャクソン)との距離を感じている妻であり、ノアは幸せな家庭を持つ誠実そうな、それでいてどこか馴れ馴れしい男性だ。


Dominic West as Noah in “The Affair”

いったいどちらの話が真実に近いのか?

『羅生門』風の語りは、見ている者の頭にそんな疑問を植え付ける。

さらに、この二人が何故警察に事情聴取されているのか、いったいどんな事件が起こったのか、どうやら出逢いから数年が経ったと思われる二人は今どういう関係なのか、次から次へと疑問が涌き起こり、ついついドラマに引きつけられるのだ。

見る者の頭に植え付けられた数々の疑問に対する答えは、どうやら回を追うごとに徐々に深みを増していくキャラクター達の中に隠されているようだ。

そのキャラクターを演じるのは、現実感あふれる演技をする役者達。

ノアを演じるドミニク・ウエストは、幸せな家庭を持ちながらも、ちょっとした不満(恐らく、なりたい自分になれない自分に対しての不満)を抱える男をさらりと演じる。

アリソンを演じるルース・ウィルソンは、そんなノアの欲望の投影であるセクシーな女性と、孤独感をにじませる悲しげな女性を演じ分けつつ、語り手によって印象の異なる女性が実は一人の女性であることを見る者に難なく受け入れさせるのだから見事だ。


Maura Tierney as Helen and Dominic West as Noah in “The Affair”

裕福に育ちながらも地に足の着いたように見えるノアの妻ヘレンも、裕福さからくる傲慢のかけらをじわじわと見せるのだが、人好きのするモーラ・ティアニーが演じると、その無頓着な傲慢が階級から来る育ちの違いだから仕方無いと思えるのだから不思議だ。

ジョシュア・ジャクソンが演じるアリソンの夫コールも、第一話目の少ない登場シーンのみでノア版の話とアリソン版の話とのギャップを見る者の想像力を利用して埋めさせ、その存在感を見せる。


Joshua Jackson as Cole and Ruth Wilson as Alison in “The Affair”

少ない登場シーンで存在感を見せるのは何もメインキャラクターだけではない。

サブキャラクター達も最初の登場シーンで既にそのキャラクターの片鱗を覗かせる

第一話から登場するヘレンの両親がそれぞれに高圧的で偏った価値観の持ち主であることも、アリソンの雇い主が差別的な助平男であることも、見る者にはほんの数秒で伝わり、それらのキャラクターがじわじわと発展して行くのを見るのも楽しい。

このうちの誰が未知の事件とどうつながっていくのか?

緻密で繊細な脚本を書いたのは、US版『House of Cards』の第一シーズンを書いたサラ・トリームと、HBOの『In Treatment』の元となったイスラエルのドラマ『BeTipul』を作ったハガイ・リヴィ

情事を背景にした犯罪ものでありながら、その犯罪の概要をなかなか明らかにせず(第一シーズン全10話のうち、5話目が終了した現時点でも、ある人物が死んだこと以外、犯罪の詳細はほとんどわからない)、見る者の想像力を刺激するサスペンスたっぷりなストーリー運びは絶妙だ。

その絶妙なストーリー展開の中、浮気する人間の心理や、男と女の視点の違い、人間のコミュニケーション能力の限界や、人の記憶というものがいかに曖昧で利己的なものかにスポットライトを当てているのも面白い

結婚相手や家庭に満足しながらも、人が浮気をするのは何故か。

同じ出来事を体験しても、それをどう受け止めるか、それをどう記憶するか人によって異なるのは何故なのか。

人はなぜ伝えようとすることを100%相手に伝えられないのか。

つい先日、『The Affair』のシーズン2制作が決定したというニュースが発表されたばかり。

まだシーズン1の半分しか見ていないというのに、既にシーズン2が待ち遠しい、深くダークなドラマだ。

All Photos © Showtime

“The Affair”
(Showtimeにて日曜夜10時/中部時間夜9時に放映中)
Rating: -MA

オフィシャルサイト http://www.sho.com/sho/the-affair/home

 
トレーラー

今ならShowtimeのサイトでTV-14に編集された第一話目が無料で見られる!(但し、お住まいの地域によっては見られないかも。)
http://www.sho.com/sho/video/titles/33310/the-affair-series-premiere