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No.4 同じだけど違う! 違うけど同じ! TVシリーズになっても面白いコーエン兄弟の『Fargo』

On: アメリカのテレビ番組ガイド 観るっきゃナイト!

「この物語は実話である。この映画で描かれた出来事は1987年にミネソタ州で起こった。生存者の要望により氏名は変えられている。亡くなった方へ敬意を表すため、それ以外は全て起こった通りに語られている」

“THIS IS A TRUE STORY. The events depicted in this film took place in Minnesota in 1987. At the request of the survivors, the names have been changed. Out of respect for the dead, the rest has been told exactly as it occurred.”

こんな大ボラから始まるコーエン兄弟の映画『ファーゴ』(原題『Fargo』)がテレビシリーズになった。

と言っても全十話ぽっきりのミニシリーズ。
第一話が4月15日にFXでプレミア放映され、この原稿を書いている時点で第二話まで放映が終わっている。

つまり、まだ全体の5分の1しか見ていないのだが、自信を持って断言させてもらおう。

こいつは今年度最高のテレビドラマの一つである。

1996年3月にアメリカで公開され、翌年のアカデミー賞に7部門でノミネート、主演女優賞と脚本賞を受賞した映画『ファーゴ』は、手っ取り早く言ってしまうとコーエン兄弟の傑作だ。

兄弟の出身地でもあるミネソタ州を舞台に、平凡な男が計画した狂言誘拐が、手に負えない惨事へと発展して行く様を描いた犯罪映画である。

親近感を抱かせる現実感たっぷりな普通の日常生活と、夢にも見ないようなおどろおどろしい出来事を、ユーモアを散りばめつつ実に淡々と描いたブラックコメディで、何を隠そうわたしの大好きな映画だ。

映画を見た後しばらくは、この映画でアカデミー賞を受賞したフランシス・マクドーマンド演じる警官、マージの真似をして、「おう、やーべっちゃ、やーぁ!(Oh, ya betcha, yah!)」と言うのがやめられなくなるほど。

だもんだから、その『ファーゴ』がテレビシリーズになると聞いたとき、正直言って「いったいどこの阿呆がそんな大それたことを考えついたんだ? やーぁ?」と半ばあきれた。

「あの話をどうやって引き延ばし、何話もあるテレビシリーズにするんだ?  やーぁ? それで面白いドラマが作れるんかいな? やーぁ?」

とまあこんな具合にあきれたのだ。

ところが、不当にもわたしに阿呆呼ばわりされてしまったクリエイターのノア・ホウリーは、ミネソタ訛りの真似っこに一生懸命なわたしには到底思いもつかなかった方法で『ファーゴ』を魅力的なテレビシリーズにしたのである。

ドラマは、「この物語は実話である」云々の同じ法螺から始まる。
年代が2006年にアップデートされているのを除き、一言一句映画と同じだ。

舞台も映画と同じく雪深いミネソタ州の小さな街。

雪道を走る車が画面の中でだんだんと大きくなり、静かに始まった音楽が徐々にドラマチックに盛り上がる。

そこに『Fargo』のタイトルがドーンと現れる。

映画とそっくり。

ところが、そこからテレビドラマは独自の雪道を歩み始める。

うだつの上がらない生命保険セールスマンのレスター・ナイガード(BBCの『Sherlock』や映画『Hobbit』シリーズのマーティン・フリーマン)は、口やかましい妻から「兄弟の間違った方と結婚してしまった」とバカにされている。

街で遭遇した大昔のいじめっ子がひょいと腕を上げただけで、それを避けようと反射的に身体が動いてしまうという、負け犬の習性から抜け出せないでいる。

そのレスターが偶然、謎の請負殺し屋ローン・マルボ(『Sling Blade』『Bad Santa(邦題:バッドサンタ)』『The Man Who Wasn’t There(邦題:バーバー)』のビリー・ボブ・ソーントン)に出会う。

ローンは、良心は持ち合わせないが、独特の意地の悪いユーモアのセンスと人を難なく説得してしまう妙な力を持ち合わせている。

その意地の悪さと説得力で、まるでエデンの園の蛇のように出会う人間たちに良からぬことをそそのかす。

レスターもそそのかされた一人。

ローンと会話するうち、つい冗談で言った言葉(と口にしなかった言葉)があっと言う間に雪だるまとなって坂道を転がり始めた。

それがあれよあれよと言う間に大きくなり、とてつもない惨事になるのだ。

このTVシリーズのクリエイターであるホウリーは、小説家であり、映画の脚本家であり、映画やテレビのプロデューサーとして活躍する多才な人物

その彼が『ファーゴ』をTVシリーズにするに当たって取った方法とは、映画の単なるリメイクでもなければ、続編や前日譚でもなく、映画のキャラクターを使って別の物語を語らせるという手法でもない。

映画が持つ独特のエッセンスを抽出し、それを新しいキャラクターと新しい犯罪に注入して、映画の雰囲気と香りをそっくりそのまま持ち合わせた全く新しいドラマを作り上げてしまうことだった。

映画に登場したキャラクターたちは全てDNAレベルにまで分解され、テレビ版の新しいキャラクターのあちこちに埋め込まれる。

そのDNAが時折ひょっこり顔を出し、匂い立つ香りを放出してまた隠れる。

映画版で狂言誘拐を計画する車のセールスマン、ジェリー(ウィリアム・H・メイシー)のネズミっぽい情けなさは、永遠のいじめられっ子、レスターに現れる。

『Sherlock』のワトソン役では決然とした男前さを見せ、『Hobbit』のビルボ役では暢気な勇気を見せたマーティン・フリーマンが、ここではその片鱗をみじんも見せずに雪野原を逃げ回る小さな野ネズミのようにおどおどしている。

また、スティーブ・ブシェミ(『Boardwalk Empire(邦題:ボードウォーク・エンパイア 欲望の街)』)とピーター・ストーメア(『Prison Break(邦題:プリズン・ブレイク)』)のコンビが映画の中で醸し出していた不気味さとコミカルさは、殺し屋ローンや、アダム・ゴールドバーグとラッセル・ハーバード演じる別の殺し屋コンビにも現れる。

特にソーントン演じるローンのキャラクターの不気味さとコミカルさにはひときわ興味をそそられる。

そのパッツン前髪は、同じく印象的な髪型で登場したコーエン兄弟の映画『No Country for Old Men(邦題:ノーカントリー)』の気味の悪い殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)を思い起こさせるが、ソーントンが醸し出すユーモアのせいでなぜか不思議な親しみを感じてしまう。

今後ローンがどんなことをしでかすのか(そしてどんなユーモアを見せるのか)気になって仕方が無い。

ほとんど臨月ってなお腹で犯罪捜査する映画のマージの特徴も別々のキャラクターの中に姿を現すが、そのほとんどは保安官代理のモリーに現れる。

そのモリーを演じるのはどこからともなく彗星のごとく現れたアリソン・トールマンだ。

この女優、まるでゴムのようにくにょくにょ動く顔の表情筋を駆使して、微妙な感情をささっと表現する。

はにかみがちな大きな目玉も、少々デカめの身体を「どっこらせ」と動かす仕草もなんだか目に心地よく、「この人のことは良く知ってる」という安心感をサブリミナルに植え付けるのだ。

今後の活躍が見逃せない女優である。

他にも、ローンと特別な出逢い方をする警察官グリムリーを演じるコリン・ハンクスや、脅迫状を受け取るスーパーマーケット王を演じるオリバー・プラット、ちっとも喪に服していない未亡人を演じるケイト・ウォルシュや、元警官のレストラン経営者でモリーの父を演じるキース・キャラディーンなどなど、芸達者な役者達の演技も見ていて楽しい。

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血みどろだった映画同様、TV版の『Fargo』でも、おどろおどろしい暴力と血みどろのその結果が見るものが予期せぬすばしっこさで画面に現れてくる。(ついでに「ぷっ」っと吹き出すブラックユーモアも、すばしっこく登場する。)

だもんだから、スプラッターや暴力表現が苦手の方には残念ながらお勧めできないドラマだ。

しかし、そんなのへっちゃらな諸君。
こいつはこの春必見のドラマだぞ!

おう、やーべっちゃ、やーぁ!

All Photos © FX Networks

“Fargo”
(FXにて火曜夜10時/中部時間夜9時に放映中)
Rating: -MA LSV(17歳以下の視聴は不適当、粗野な言語、セクシャルな内容、暴力を含む)
オフィシャルサイト http://www.fxnetworks.com/fargo

FXの新シリーズ『Fargo』 最初の7分の動画