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No.3 FXのスパイドラマ『The Americans』で見る、結婚と家族と日々の演技

On: アメリカのテレビ番組ガイド 観るっきゃナイト!

ケーブルテレビ局のFXで『The Americans』のシーズン2が始まった。

2013年の1月末から5月頭まで、毎週水曜日の夜10時にわたしをテレビの前に釘付けにしたスパイドラマシリーズだ。

そのシーズン2がとうとう始まり、ありとあらゆるヅラをかぶって登場するあのキャラクター達のその後をようやく知ることができるのである。

『The Americans』元CIAのジョー・ワイスバーグが作り出したドラマだ。

舞台は80年代初め。
79年のイラン革命、ソ連のアフガニスタン侵攻を経て、ロナルド・レーガンが大統領に就任した後の冷戦時代

ワシントンD.C.の郊外で暮らすエリザベス(『フェリシティの青春』のケリー・ラッセル)とフィリップ・ジェニングス(『ブラザーズ&シスターズ』のマシュー・リース)夫婦は旅行代理店を経営している。

14歳の娘ペイジと11歳の息子ヘンリーがいる平凡な夫婦だ。

だが実は、二人はソ連で生まれ育ち訓練されたスパイ
モスクワでつがいにされ、60年代にアメリカに送り込まれて以来アメリカ人夫婦として暮らしている。

子どもを作ったのも、目立たず諜報活動をするために平凡なアメリカ人家庭の隠れ蓑が必要だったからだ。

だが子ども達には本物の愛情を抱いており、偽の夫婦を長年演じているお互いにも複雑だがどうやら本物の愛情を抱いているよう。

子ども達は、両親が「普通のアメリカ人」でないなどと疑ったことなどなく、ましてや「仮想敵国」ソ連、KGBのスパイであることなど露知らない。

エリザベスとフィリップは、我が子を含め、自分たちを取り囲む全ての人間を騙しつつ、母国ソビエトのために諜報活動をしているのだ。

そんなエリザベスとフィリップの目の前に脅威が現れる。

お向かいに引っ越して来たFBIエージェント、スタン・ビーマンだ。

夫婦問題を抱えるスタンは、心機一転して新しい土地で新しい任務につき、ギクシャクした夫婦関係をなんとかしようしている。

しかし、防諜活動部門で働く彼は、自分がスパイとしてリクルートしたソ連領事館職員のニーナに強く引かれてしまう。

エリザベスとフィリップは、自分たちの素性がバレないように注意しながらそれとは知らないスタンと親しくなり、姿の見えないスパイを追いかけるスタンと追いつ追われつの騙しのゲームを繰り広げる。

このハラハラするスパイゲームに、エリザベスとフィリップの愛情のもつれや、子ども達への愛情、過去、祖国への忠誠心と義務が絡み合う。

さらにそこに、スタンの妻や家族に対する感情、ニーナのスタンに対する感情と祖国への忠誠心が絡んでくる。

このドラマが面白いのは、ハラハラさせるスパイドラマでありながら、「アメリカ=善、アメリカ式生活や価値観を脅かすもの=悪」という単純でありきたりな図式の善玉悪玉対決としていないところだろう。

自由主義・資本主義のアメリカを弱体化するのが狙いの、社会主義・共産主義のソ連のスパイたちを主人公に据え、今までなら悪玉専門だったキャラクターに観る者が感情移入するよう作ってあるのだ。

「敵」にだって家族も居れば感情もある。
悪いこともすれば善いこともする。
「味方」だって同じこと。

往々にして無視される当然のことが、このドラマでは善玉と悪玉の典型を取っ替えることにより当然のように描かれている。

また、スパイドラマの体裁をとりながら、その実描いているのが結婚、家族、そして人間の感情というところも面白い。

シーズン2のプレミアとなったエピソードで、ある映画が象徴的に登場する。

メタフィクションとして有名なジョン・ファウルズの小説をカレル・ライスが監督した1981年の映画、『フランス軍中尉の女』だ。

この映画は、ビクトリア朝時代の英国を舞台にした悲恋物語と、その物語の映画撮影中に恋愛関係になった主役を演じた俳優たちの物語が同時に描かれ、映画の中に映画があるという二重構造になっている。

劇中劇の悲恋物語は、自分の感情に忠実に行動することにより社会の掟に背いてしまった男女の物語。

生まれ落ちた境遇で一生が決まってしまい、女性が自由な生き方など選べなかった時代に、社会から「フランス軍中尉の女」と蔑まれた女性と、それでもなんとか自由に生き延びようとする彼女に婚約者が居ながら恋してしまう男性のお話だ。

そこに、それを演じる現代の俳優の恋愛をからませることにより、ある役を演じ続けることが現実に及ぼす影響についても焦点を当てている。

エリザベスとフィリップの生活は全て見せかけの上に築かれている。
スタンとニーナの関係も、スパイとして見せかけの生活を送らねばならないニーナの「演技」の上に築かれている。

毎日「フリ」を続けていれば、演技もやがて本物になるのか?
嘘で固めた土台の上に築き上げたものは、本物になり得るのか?
いつかそれが崩れやしないか?
そのとき、犠牲になるのは一体誰なのか?

シーズン1で既にこのドラマがただのスパイドラマではなく、結婚や夫婦関係について描いたドラマであることを見せたが、シーズン2ではそのテーマがさらに深くなり、迫る危険も日常的に「演技」をする本人達から家族へと広がっていく。

このハラハラドラマをがっちりと支えるのが俳優陣だ。

今にも正体がバレそうな状況をギリギリのところでくぐり抜けて生き延びるスパイの日常生活を、エリザベス役のラッセルとフィリップ役のリースが毎回スリリングに見せてくれる。

スタンを演じるノア・エメリック(『トゥルーマン・ショウ』『ウォーキング・デッド』)は、感情の起伏をほとんど見せないスタンの内面を淡々とした台詞やシーンの積み重ねでじっくりと伝える。

また、スタンに弱みを握られ、否応無く情報をFBI側に渡すはめに陥ってしまったニーナを演じるアネット・マヘンドルも印象的だ。

若い頃の高峰秀子を思い起こさせるプンとした表情は、毅然としつつも憂いに満ちてセクシー。
この表情にシビレている視聴者は多いはずで、この女優が今後あちこちで引っ張りだこになることは間違いないだろう。

また、FBIの情報を入手するためにフィリップが近づくスタンの上司の秘書マーサ(『私がクマにキレた理由』(原題:The Nanny Diaries)のアリソン・ライトも、小さじ1杯分のコミカルさが隠し味に効いていて良い。

エリザベスとフィリップの上司、クラウディアを演じるマーゴ・マーティンデール(『ミリオンダラー・ベイビー』『8月の家族たち』(原題:August: Osage County))も、一見優しそうな普通のおばちゃんを装いつつ、鋭い眼光をさっと光らせては、彼女がただ者ではないことを一瞬でTVの向こうから知らせて来る

しかし忘れてはいけない重要な脇役は、何と言ってもエリザベスとフィリップが毎回とっかえひっかえかぶって登場する秀逸なヅラとアナログなスパイグッズだ。

エリザベスとフィリップはいつも「たったそれだけじゃ、バレませんかね?」と心配したくなるくらい簡単な変装で危険な任務につく。

たいていの場合、ヅラと眼鏡、そして付け髭か濃いめの化粧と衣装替えで変装完了なのだが、これがどうして、「たったそれだけ」が人の印象をガラリと変えることに感心する。

そりゃそうだろう。
旅行代理店を経営しながら二人の子どもを育て、友人付き合いやご近所付き合いもしつつ、暗号を解読し、ターゲットに自分の身体を餌に与えて落としたり、時には拉致し、暗殺しなくちゃいけないのだ。

働く父ちゃん母ちゃんはすこぶる忙しい。
変装はちゃちゃっと効率良く効果的に済ませるに限る。

それに、テレビを見ている者に「この人、誰だっけ?」と考えさせるほど別人に変身してしまっても意味がない。

しかし、彼らが使っているヅラの優秀なこと!

どんなに激しい動きをしようとも、誰と一夜を共にしようとも決してずれないヅラの秀逸さは特筆すべきだろう。

また、ラジオの短波放送で流される暗号をシコシコとメモし、それをせっせと解読したり、文書に特殊な液体をかけて隠された暗号を浮かび上がらせたり、入手したマイクロフィルムを偽物の石の中に仕込んで本部に受け渡したりするスパイ活動も見ていて楽しい。

まるで子どもの頃に近所の駄菓子屋で売っていた、「こどもスパイキット」を思い出すアナログさで、口中にじんわりラムネの味まで蘇ってくるほどだ。

なんせこのドラマのクリエイターは元CIA。
ラムネ味には「きっと本当にこんな風にやっていたのだろうな」と思わせる真実味がある。

もし文句をつけるとすれば、時折中途半端になる80年代の描き方だろうか?

特にエリザベスの化粧が現代的過ぎて、ギリギリのところで80年代を描いているプロダクションデザインに時折亀裂が入り、視聴者はその亀裂からぐいっと現代に引っぱり戻されてしまうのだ。

また、ソ連領事館内部の会話はほぼ全てロシア語で交わされるのだが(エリザベスとフィリップがロシア語をほとんど話さないのは、「彼らは『アメリカ人』として生きているからです!」という暗黙の了解があるようだ)、英語字幕の文章が長過ぎるのに表示時間が短過ぎ、領事館内部で起こっていることを全て知るには速読術を習得するか、テレビのリモコンの一時停止スイッチをこまめに押せるよう反射神経を鍛えておく必要がある。

しかし、そんな些細な欠点などすぐに忘れてしまうくらい、『The Americans』がハラハラドキドキするドラマであることは間違いが無い

なあに、完璧なプロダクションデザインと時代設定は、もうすぐAMCで最終シーズンが始まる『MAD MEN』に任せておけばいいのだ!

All Photos © FX Networks

“The Americans”
(FXにて水曜夜10時/中部時間夜9時に放映中)
Rating: -MA LSV(17歳以下の視聴は不適当、粗野な言語、セクシャルな内容、暴力を含む)
オフィシャルサイト http://www.fxnetworks.com/theamericans