ニューヨークからプロライター達がお送りする、「ここだけ」のおもしろ情報。

ヘアスタイルと純愛と “American Hustle”

On: 夜の試写室

まだらハゲの男が鏡の前で毛髪を整えている。
いや、「無い」毛髪を創り上げていると言った方が正確か?

クリスチャン・ベイル演じる詐欺師のアーヴィンが、コロッケ大の毛たぼを使っていかにも地毛でセットしたように見えるヘアスタイルを、今まさに創り出そうとしているのだ。

「ひょっとして今、映画史上最高のヘアスタイリングシーンを見ているんじゃないか?!」

だんだん鼻息が荒くなり始めたわたしに同意するかのように、続くシーンでアーヴィンの愛人シドニーがこうのたまう。

「これはアートなんだから」

いやほんと、その通り。

ハゲた頭を、さも「あなたが見ているのは全てわたしの地毛なんです」と言わんばかりのヘアスタイルに創り上げる。それには熟練の技が必要で、その完成作品はまさに芸術

しかし、言い換えればそれは、テクニックを駆使してイリュージョンを作り上げ、人を騙すことでもある。

となると、人を騙すこともアートなのか?

今年のアカデミー賞で10部門にノミネートされたデヴィッド・O・ラッセルの『American Hustle』は、70年代の終わりという時代を背景に、騙す人間と騙される人間とを描いた純愛物語だ。

物語のベースは1978年のアブスキャム(Abscam)事件

FBIの特別捜査官が大富豪のアラブ王になりすまし、オトリ捜査を行って汚職議員を摘発。大スキャンダルとなった事件だ。

映画は、“Some of this actually happened” (このいくつかは実際にあった)という、とぼけた注意書きとともに幕を開ける。

つまり、映画の中で描かれているどの部分が実際に起こった出来事なのか、実を言うとそんなことは大して重要ではない、ということ。

重要なのは、登場するキャラクター達なのである。

マーティン・スコセッシの『グッドフェローズ』を思い起こさせる、ナルシスト的なモノローグとともにスクリーンに登場するのは、我らがハゲ男、イカサマ師アーヴィン(クリスチャン・ベイル)と、その愛人で詐欺のパートナーのシドニー(エイミー・アダムス)。

最近、自由自在に体型を変えてキャラクターを表現することが多くなったクリスチャン・ベイルは、『ファイター』で落としたぜい肉をどこかでこっそり培養していたらしい。今回はそいつを全部腹にくっつけて現れた。

ご自慢の贅肉を、時には生でたっぷりと、時には『俺たちニュースキャスター』のロン・バーガンディがヨダレを垂らして欲しがりそうなバーガンディ・ベルベットのスリーピースに包んで見せる。

そのアーヴィンとプールパーティで運命的な出逢いをし、恋に落ちるのが上昇志向ある元ストリッパー、シドニー。

二人をとりもったのはデューク・エリントンの音楽だ。

いやはや、このシドニーを演じるエイミー・アダムスのセクシーさと言ったら無い。
長く豊かな髪をくるりと巻き、弾む巻き毛の先っちょが「こちらをご覧下さい」とばかりにマリアナ海溝より深くV字に開いた胸元を指し示す。

そこからチラりと見えるのは、艶かしい肌。

それを、ご丁寧なカメラが舐めまわすようにじっくりと見せる。

見ているこちらの鼻からは、思わず鼻血がつと垂れる。

この、贅肉ハゲ男と妖艶美女の一見不釣り合いのデコボココンビが裏口ローン詐欺を働く。

シドニーが、英国の銀行にツテがあるエゲレス貴族様に成り済まし、正規のルートでは銀行ローンを組めず切羽詰まっている人たちをカモにするのだ。

融資が通るように「裏口」を紹介するとして5000ドルの手数料を取る。
だが、もちろん紹介する「裏口」などないし、ツテもない。
しばらく経たったら「やっぱりダメでした」と言って、5000ドルはポッケないないしてしまうのだ。

エゲレスの御貴族様ともあろうものが、股間まで見えそうな際どい服を着るとは思えず、冷静な目で見ればシドニーには元ストリッパー的要素が見え隠れする。

だが、実はこれこそ元ストリッパーの熟練の技。
どのタイミングでどれくらい肌を露出すれば相手をコントロールできるかを熟知しているからこそできる、アートなのだ。

シドニーの熟練の技と偽英国アクセントと欲に目をくらまされたカモ達が、ネギをしょって押し寄せ、おかげで二人の裏口詐欺ビジネスは大繁盛。

そこに登場するのがこの2人を取っ捕まえてオトリ捜査に利用しようとするFBI特別捜査官のリッチーだ。

リッチーは、この2人を使ってより大きな魚である汚職政治家を釣ってやろうという魂胆。
狙われたのは市民からカリスマ的人気を得る、やたらと人の良い市長カーマイン。

このリッチーを演じるブラッドリー・クーパーと、カーマインを演じるジェレミー・レナーが、これまた目を見張るルックスで観客を楽しませてくれる。

リッチーはパンチパーマがどんな仏像よりもよく似合い、おもわずお賽銭を投げて拝みたくなるほど。

おまけにピンク色のパーマロットを付けた姿まで神々しく(シーンの状況から判断すると、このFBIエージェントは自分でパーマのロットを巻けるらしい。後頭部のロットの巻き具合は実にお見事!)、サタデーナイトフィーバーまでしてくれる。

カーマインは、額の上に大きく突き出した庇のようなポンパドールスタイルで、まるでエルビス・プレスリーのそっくりさん大会出場者のよう。

彼の袖の下に隠されているのは賄賂ではなく、フリンジに違いないと確信するほどだ。

また、予測不可能な言動と行動で回りを掻き回すアーヴィンの妻、ロザリン(ジェニファー・ローレンス)も、ヤドカリ型ヘアスタイルでご登場。

このヤドカリ、ただものではない。
スクリーンに現れるたびに空手チョップのようにガツンと効く台詞を発し、シーンをかっさらっていく。

特に、背中を向けて「どういたしまして」と言い放つシーンは、劇場の座席から転げ落ちそうになるおかしさだ。

エイミー・アダムスに引けを取らないセクシーさと言い、コメディエンヌっぷりと言い、ここでのローレンスはまるで往年のハリウッド女優のような貫禄で、見ていて爽快。

アンサンブルキャストの競演が心地よい『American Hustle』を見ていると、ラッセル監督の温かい視線を感じる。

それと同時に、特にマーティン・スコセッシとクェンティン・タランティーノの映画に対する愛情を感じる。

ラッセル監督は、スコセッシ風のナレーションで自らを語るキャラクターたちの暗部を、まるでスコセッシのようにあぶり出そうとする。だが、70年代の衣装で着飾られた彼らは、どこかタランティーノ映画のようにマンガチックでコミカル、そして人間味にあふれて温かい。

その温かい視線はメインキャストだけでなく、小さな役にも注がれている。

リッチーの上司を演じるルイス・CKしかり、アラブの富豪になりすますメキシカンのFBIエージェントしかり、カメオ出演するロバート・デ・ニーロの某キャラクターしかり。

芸達者な役者達に命を吹き込まれたキャラクターたちの感情は、誇張された外見とは反比例して徐々にリアルになり、風刺が効いてくる。

人間誰しも、意識的あるいは無意識的かは別として、自分を相手にどう見せるか日々考えて生きている。
つまり、日々ある種の「騙し」を続けながら生きているということ。

この映画は、騙すことをアートの域まで高めた人間達の物語。
騙す人間と騙される人間とを描いた純愛物語だ。

そう、ラッセル監督の、キャラクターに対する、そして映画に対する純愛物語なのである。


All photos © 2013 Sony Pictures Digital Productions Inc.ll rights reserved

“American Hustle” (邦題『アメリカン・ハッスル』)
MPAA Rating: R
上映時間 2時間9分
監督:デヴィッド・O・ラッセル
脚本:デヴィッド・O・ラッセル、エリック・ウォーレン・シンガー
出演:エイミー・アダムス、クリスチャン・ベイル、ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ジェレミー・レナー

2013年12月13日米限定公開開始、12月25日全米公開
オフィシャルウェブサイト http://www.americanhustle-movie.com/site/

2014年1月31日日本公開
日本版オフィシャルウェブサイト http://american-hustle.jp