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No.2 この秋一番のおすすめドラマ、Showtimeの『Masters of Sex』

On: アメリカのテレビ番組ガイド 観るっきゃナイト!
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「なぜ女性はオーガズムに達したフリをする?」

セントルイスのワシントン大学で最も尊敬されている産婦人科医、ウィリアム・H・マスターズ医師が、まるで自問するかのようにつぶやくと、アシスタントの面接試験に来たヴァージニア・ジョンソンがこう答える。

「男にさっさとクライマックスに達してもらい、むしろ他にやりたかったことに早くとりかかれるように。」

こんな台詞が飛び出すShowtimeの新しいドラマ、『Masters of Sex』が実に面白い。

秋の新番組シーズンが始まり、各テレビ局が押し出す数多くのドラマの中でも群を抜く面白さで、前シーズンの『Mad Men』にがっくりした者も途端に元気になるミッド・センチュリーもの時代ドラマである。

『セックスの達人達』という意味のなんとも興味をそそるタイトルは、ジャーナリストのトーマス・マイヤーが2009年に発表した本のタイトルからとられた。

1957年から90年代まで、人間の性と喜びについて研究し、その分野で草分け的存在となったウィリアム・H・マスターズとヴァージニア・ジョンソンの伝記である。

もちろん、主役の一人であるマスターズ医師の名前ともかけたタイトルで、実在した著名な性科学者のマスターズとジョンソンの半生を借りつつ、魅力あふれるキャラクター達をめぐるドラマを描いた新番組だ。

ビル・マスターズ(『クィーン』『フロスト×ニクソン』のマイケル・シーン)は、「セックスを研究することは全ての生命の誕生について研究すること。この分野の研究で成果をあげればノーベル賞もとれる」と信じている。

大学で正式にセックスを研究できるよう学長(『ファミリー・ツリー』のボー・ブリッジス)に嘆願するが、何せ時代は1957年。

人間の性行動についての報告書、「キンゼイ・レポート」が発表されてから数年が経過しているとは言え、グレース・メタリアスのベストセラー小説『ペイトン・プレイス』と、ラナ・ターナーが主演したその映画版がセンセーションを巻き起こす時代だ。

セックスについて語ることはタブー。
それを研究するなどもってのほか。

学長はマスターズの要望を一蹴する。

マスターズは娼婦の協力を得てひっそりセックス研究を続けていたが、できることはストップウォッチとクリップボードを手にクローゼットの中に隠れ、娼婦とその客のクライマックスの時間を計ること。

娼婦がクライマックスに達したフリをしていたことすらわからない。

もっとも、それから30年以上の時を経ても、マンハッタンに住むハリーという男性は、サリーという女性とKatz’s Delicatessenでパストラミサンドを食べるまで、自分とセックスした女性は全て本当にオーガズムに達していたと信じていたのだから、マスターズが娼婦のフリに気付かなかったとしても仕方が無いだろう。

しかし、そもそも女はなぜそんなフリをするのか?

そう問われた娼婦はあきれつつ「セックスの研究を続けるなら女性のパートナーをみつけたほうがよい」とアドバイスする。

そうして面接にやってきたのが元ナイトクラブのシンガーで、2度の離婚歴が有る2人の子持ち女性、ジニー・ジョンソン(リジー・キャプラン)だ。

ワシントン大学付属病院に秘書として雇われた後、大学で一番有名なマスターズが新しい研究でアシスタントを務められる秘書を探していると聞き、そのポストに志願する。

マスターズの疑問に率直に答えたジニーは採用され、後に必ずセットで呼ばれることになるマスターズ&ジョンソンのペアがここに誕生する。

このペアを演じるマイケル・シーンとリジー・キャプランがとても素晴らしい。

特に、ジニーを演じるキャプランは、HBOの『トゥルー・ブラッド』シリーズで登場するやスーキーの兄ジェイソンを虜にしてしまったエイミーのごとく、テレビ画面に登場するや観客を魅了してシーンをかっさらう。

学位は無くとも野心と向上心があり、慣習にとらわれずに自分らしく生き、性に対しても率直で奔放なジニーという女性をキャプランは実に生き生きと演じ、知的で優雅で魅惑的な女性として見せる。しかも、ジニーの多面的な魅力をたった1エピソードで表現するのだ。

『Walking Dead』に次から次へと登場する「男に従います」タイプの原始時代的女性キャラクターにいい加減うんざりしていたちょうどその時、「自分の考えに従います」タイプのモダンで魅力的な女性ジニーに出会えて胸がすく思いだ。

そんな生き生きしたジニーとは対照的に、マスターズは感情が無いのかと思えるほど素っ気なく、利己的。

子どもがいないことをのぞくと、まるで絵に描いた「理想の妻」のようなリビー(ケイトリン・フィッツジェラルド)と結婚したのも、情熱的な愛情からではなく、世の中の信頼を得るためのよう。

なぜマイケル・シーンが演るのだろうと疑問に思うほど地味な役で、キャプランが登場するととたんにその光の陰にかくれて目立たなくなる。表情もいつも固く、味気ない。

ところが、エピソードを追うごとに、その固い表情の下には患者を何よりも大切にする医師の優しい心とぼろぼろに傷ついた心が隠されていることが明らかになってくる。

良いTVドラマの醍醐味といえば、回を重ねるごとに奥行きを見せるキャラクターの魅力だが、光り輝くキャプランの横で、芸達者なシーンはじわじわとその本領を発揮してマスターズという男の複雑さを見せてくれるのだ。

ボー・ブリッジスやアリソン・ジャニー演じる脇を固めるキャラクター達も登場するシーンが重なるにつれ深みを増す。

サブキャラクター達を通して、当時の人種差別や、ホモセクシュアルに対する社会の偏見や医学会の誤った認識、女性の地位と社会進出などが描かれていく。

すると摩訶不思議。

当初一番興味をそそられた「セックスの達人達」のセックス研究よりも、自分の興味が徐々にリアルさを増していくキャラクター達の感情の移り変わりや彼らが織りなすドラマのほうに引き寄せられていることに気付くのだ。

こうなったらもうおしまいだ。

日曜日の夜十時、テレビのチャンネルはShowtimeに釘付けで、わたしのお尻はテレビの前のソファーにはりつけ。

そしてテレビドラマの視聴者として、そのハートの高鳴りはクライマックスに達するのである。

ああ、次の日曜日が待ち遠しい!

All Photos © Showtime

“Masters of Sex”
(Showtimeにて日曜夜10時/中部時間夜9時放映)

オフィシャルサイト http://www.sho.com/sho/masters-of-sex/home
Showtimeオフィシャルサイト http://www.sho.com/sho/home
第一シーズン全12話

マンハッタンのKatz’s Delicatessenでパストラミサンドを食べるハリーとサリー