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オペラ歌手の白熱教室、巨匠リチャード・ボニング「ジュリアード・マスタークラス」

On: イボンヌの部屋
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秋の夜、とんでもなくブラボーな音楽の夕べに感動した!

きっかけは、友人から届いた「宇宙君のナンダカ良く分からないけど、巨匠さんが指導するマスターコースのイベントあるらしいけど、行く?」というメール。

タイトルは「リチャード・ボニングのマスタークラス」
マスタークラスとは一流音楽家が優秀な生徒を指導する上級特別クラス。


リチャード・ボニング
PHOTO from : http://www.juilliard.edu/

リチャード・ボニングは指揮者にしてオペラ界のレジェンド。
つまり、巨匠による公開レッスンなのでした。

ジュリアード音楽院のPeter J Sharp Theatreの外にはコンサートなみの長い行列ができておりました。
音楽院だけでなくニューヨークでも初めての試みでほぼ満席。

ビッグネームによるマスタークラスへの注目度は絶大だったようです。

そしてこれに参加の栄誉を得た「宇宙君」とは新進気鋭のバリトン歌手・大西宇宙(たかおき)さん


大西宇宙さん

ジュリアード音楽院大学院を卒業後に最難関とされるジュリアード・アーティスト・ディプロマ(Artist Diploma in Opera Study)に進む期待の星
宇宙と書くそのお名前のように、天まで届くような朗々とした歌声。

当日ご一緒した方によれば、彼がジュリアードに入って間もない頃「将来性のある若いバリトンの人がいるわよ」と早々に目を付けていたそうです。

ジュリアード音楽院のマスタークラスは選抜で、毎年度初めに声楽科全体をオーディションし、期待の生徒にマスタークラスを割り振っているそうです。
この日、選ばれたのは、ソプラノとメゾソプラノの女性4人、男性はバリトンの大西宇宙さん1人。

ステージの中央上手に座った巨匠の前で、ピアノ伴奏に会わせて公開レッスンが始まりました。


Richard Bonynge with mezzo-soprano Virginie Verrez (Hiroyuki Ito)
PHOTO from : http://www.wqxr.org/

歌い始めると巨匠がボソボソっとコメントをします。歌の途中でストップもかけます。
軽く指揮をしながら「はい、もう一回」「そこをこうして、そこはもっとああして」みたいなことをおっしゃるわけです。

口調は優しくても、巨匠はバッサバッサと大鉈を振るいます。
厳しい指摘なんでしょうね。ステージ上の緊張感が伝わってきます。

ところが、巨匠のひとことでたちまち変わるのです。歴然と違いがわかる。

すごい!
「なるほどねー」と素人ながら納得!

大西宇宙さんには「声がビューティフル」と巨匠からお褒めの言葉。

後日、彼にお聞きしたところ、正直、マスタークラスというのは、受ける側にとって実はあまり心地がいいものではないそうです。

これまでに数百人のとびっきり素晴らしい歌手たちと共演してきた巨匠の前で、歌い、そして悪いところを指摘されるわけで、ただ、その分とても勉強になり、そういった経験を持つマエストロのエッセンスを学び取れる、非常に実りある貴重な機会であるとおっしゃっていました。

歌手仲間全体としても素晴らしいチャンスで、他人が受けるマスタークラスにも積極的に参加して、無駄になったことは一度もないそうです。

日頃の研鑽を披露する本番とは全く逆で、練習風景を聴衆の前にさらすのは勇気のいることに思えます。
自分の能力と才能を冷静に判断でき、かつ強い精神力も必要でしょう。

だからプロなんですよね。

今回のマスタークラスを観られたことは、一般部外者の我々にとって滅多にないことで、相当に貴重な体験でした。

夏のドイツの武者修行から帰って、一回り大きくなって磨きがかかったバリトン歌手の将来がますます楽しみになりました。
ニューヨーク熟女応援団のハートもがっちり掴んでいます。

そして、選ばれし才能が集積するニューヨークという街の素晴らしさを再認識した夜でした。