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同級生は異邦人 No.5 未来のスター!アフリカンのユセフ

On: Across the Universe(更新終了)

学校が夏休みに入って1ヶ月がたった。日々の宿題から解放されホッとしているが、クラスメイトに会えないのはちょっと寂しい。そう思っている矢先、仲良しだったクラスメイトの一人、ユセフから電話が来た。秋からは学校に戻らず、カルフォルニアに行くかもしれない、という知らせだった。

ユセフは俳優志望で、今私のいる大学の英語クラスと同時に、『TVIアクターズスタジオ』という俳優養成学校に通っている。

もっともっと演技の勉強をしたい彼は、先日、学校が提供したあるオーディションを受け、見事一次審査に合格した。引き続き二次審査に受かれば、奨学金を得られるうえ、よりハイレベルなクラスを取ることができるそうだ。ただ、その場所はカルフォルニア、ということだった。

ユセフはアフリカのエチオピアに生まれた。

ユセフという名前は、日本ではヨセフと言った方が馴染みがあるだろうが、旧約聖書の創世記に出てくるヨセフのことである。こちらで聞く発音は「ユセフ」、あるいは「ユーセフ」に近い。

その後、ユセフは両親の都合で同じアフリカのマリという国に引越した。そして、小学校のいわゆる「学芸会」で人前で演じることに快感を覚え、以来、俳優を目指し、高校は演劇専門の学校に進んだ。

しかし、高校卒業時、将来の安定した生活を考え、俳優への道からコンピュータのエンジニアへと方向転換した。その後、エンジニアとしての勉強をしばらく続けたが、やはり演技への情熱は捨てられず、両親のニューヨーク移住を機に、アメリカの地でもう一度俳優を目指すことにした。

「再び俳優になろうと決めた大きなきっかけってあった?」尋ねた私。

「うん。ジャイモン・フンスーの映画を見たとき、彼の演技にものすごく感動した。それで、いてもたってもいられなくなったんだ」とユセフ。

ジャイモン・フンスー (Djimon Hounsou) はアフリカ・ベナン出身で、『グラディエーター』『アミスタッド』などに出演、2004年には『イン・アメリカ』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされている。私も最近この『イン・アメリカ』で彼の名演技を見ていたので納得。

「俺も彼のように、アフリカンの俳優として認められたいんだ」ユセフは静かに、でも力強く私に言った。

そんな彼の授業でのプレゼンテーションは見ものだった。やはり、「演技」が入るのだ。

一度、ユセフとペアになって、ある新聞記事についてプレゼンテーションをする機会があった。スケジュールがどうしても合わず、彼はそのプレゼンの準備ができず、私がほとんど準備をした。

プレゼンの朝まで彼は記事の概要すら把握していなかった。私は一応記事を見せながら、「とにかく前に立ってりゃいいから!」と諦めた。

が、しかし。彼はその記事をささっと1回読み、なんと本番でするすると喋りだした。あたかも万全の準備と練習を重ねたように。いや、むしろ、オーバーアクションだ。

プレゼンでは、私を含め、みんなが緊張して「気をつけ」のままモゴモゴ喋るのに対し、ユセフは余裕な態度で教室内を歩き回り、必要以上にボディランゲージもつける。よく裁判モノの映画で検事や弁護士が裁判官に向かって主張する、あんな感じだ。

でも……、オイ、待て。よーく聞くと話のつじつまが合っていないぞ。そこは即興のボロが出たか!? しかし、みんな彼のアクションに気を取られて気付いていない。そう、彼の「プレゼンテーション」という演技にすっかり魅せられているのだ。

しっかり準備した私と先生だけが「???」と内容の矛盾に気付いている。でも彼はそのまま勢いでプレゼンを終わらせ、私たちは大きな拍手を得た。な、なんか喜んでいいのやら??

プレゼンの後、「ナイス、ハッタリ!」と皮肉を込めてお礼を言ったら、「これはコールドリーディングと同じだ。」なんて言っていた。

「コールドリーディング」とは、その場で俳優に台本を渡し、充分に覚える時間がないまま演技をさせ、どこまで演じることができるかを見るという、オーディションやトレーニングでよく使われる方法らしい。彼はこれをアクターズスタジオでしょちゅうやっている。

「だからってさー、話の内容が違っていたら意味ないじゃん!ハラハラしたよう。」と愚痴る私。

「ハハハ、でも誰も気付いていないんじゃない?」すっかりお見通しの彼である。私と違って人前で話す緊張などこれっぽちもない。さすが役者は度胸が違う。

そんな彼でも、とても苦労していることがある。それは話すときの「アクセント」だ。

母国語がフランス語の彼にとって、いくら練習してもフランス語のアクセントが残り、ネイティブの英語に近づけない。出身がアメリカでない俳優たちは、みなこれで苦労するという。ユセフもアクターズスタジオで発音矯正クラスを取っている。でも「まだまだ時間がかかるだろう」と、肩をすくめていた。

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勉強するアフリカのマツイ

それから、ユセフはなんと、大の日本ファン。
父親が一時、電気技師として日本に住んでいたことがあり、ユセフは行ったことはないが、父から聞く遠いアジアの国にいつも胸をときめかせていた。俳優でなく、エンジニアの道に進んでいたら、日本に留学するつもりでいたらしい。

大好きなニューヨーク・ヤンキースの中でも、松井秀喜選手は大のお気に入り。学校によく松井の背番号55のユニフォームを着てくる。

そんな日、クラスメイトたちは、「ヘイ、マツイ!元気かい?」「昨日のホームラン、最高だったね!」なーんて声をかける。授業中は先生までも、「じゃ、マツイ、次のページ読んでみて」などと調子に乗る。ユセフはそんな時とても嬉しそうに笑う。

このように日本好きのユセフ。
いつか『ラスト・サムライ』のトム・クルーズのように、日本に関する映画に出ることや、撮影で日本を訪れることも、彼の夢のひとつだそうだ。

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この顔を覚えて損ナシ!? 1979/2/4生 マリ出身、未来のビッグ・スター、 ユセフ・ディアロ(Youssouf Diallo)「Hello! 日本の皆さん!」

5月に学校行事でワシントンD.C.に行ったときのこと。

『フォレスト・ガンプ』や『ナショナル・トレジャー』など、多くの映画のシーンで使われているリンカーン・メモリアルの前で、ユセフはこんなことを言っていた。

「自分がまだマリにいた頃、映画の中で初めてこの場所を見た。映画大国・アメリカの地に憧れながら……。そして今日は自分の足でここに立っている。なんて素晴らしいんだ!そして、次に来るときは、俳優として、映画の中でここに立ちたい……!」

笑顔がとても素敵なユセフ。そして大志を抱くユセフ。彼はもし二次審査に受からず、ニューヨークに残ったとしても、大学は辞めて演技の勉強に専念するかもしれない、と言っていた。

彼と離れることは寂しいけれど、彼が夢に一歩近づけるのならもちろん応援したい。

私はいつかスクリーンの中にいる彼と再会することを信じている。

☆ ユセフの国 : マリ共和国 (Republic of Mali)
アフリカ大陸の北西に位置、日本の約3.3倍の面積を持つ。1920年仏領となるが、1960年独立。
1991年にクーデターが起こるも、現在はトウーレ大統領のもと、政情は安定している。
人口は約1,341万人、首都バマコ。綿や金を産する。公用語は仏語で主な宗教はイスラム教だが、多種の民族が住む分、それぞれの言語が存在し、伝統的宗教も残る。ニューヨークでは、マンハッタン・ハーレムにアフリカン・アメリカンが多く住む。ユセフとその家族もハーレム在住。

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Sally, ブログも書いています! 
NY日記COLORS http://nycolors.exblog.jp