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No.33 ダリやコクトーとコラボした偉才のデザイナー、エルザ・スキャパレッリ

On: 生にゅー! 生のNYトレンド通信
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メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートで「Schiaparelli and Prada: Impossible Conversations」(スキャパレッリとプラダ:不可能な会話)展を開催している。

5月から開催していて、いよいよ8月19日まで。


エルザ・スキャパレッリの写真
George Hoyningen-Huené (Russian, 1900–1968)
Portrait of Elsa Schiaparelli, 1932
Courtesy of Hoyningen-Huené/Vogue © Condé Nast


この展覧会は、ともに卓越したデザイナーであるエルザ・スキャパレッリ(Elsa Schiaparelli 1890~1973年)とミュウッチャ・プラダの作品を回顧したもの。

違う時代に生きながら、斬新なアイデアでファッションを革新してきた二人の女性デザイナーの類似性を、ファッションと彼女たち自身の言葉の引用から、時代を超えた対話をさせるというおもしろい試みだ。

さてこの展覧会、プラダのほうは同時代のデザイナーとしておなじみだろうが、もうひとりのエルザ・スキャパレッリとは誰なのか。

今回は欧米では非常に名高いスキャパレッリの業績にフォーカスを当ててみたい。

エルザ・スキャパレッリはイタリアの名門出身のファッションデザイナー。
その時代に先駆けるアバンギャルドなデザインで、1930~40年代にモード界の寵児として活躍した。

1890年にローマで学者の父と貴族の母の間にエルザは大学で哲学を学んだが、エロティックな詩集を出版したことが、家族に大きなショックを与え、修道院の女子校送りになったという。

ところがハンガーストライキをして抗議、結局イギリスでナニーをしながら留学するという道を勝ちとっている。
どうやら若い時から自由奔放さを発揮していたようだ。

そしてイギリスで講義を受けていた際に、神智学の講義を教えていたスイス/フランス系の伯爵(Count William de Wendt de Kerlor)と知りあって1914年に結婚、二人でNYへ移住する。

NYのエネルギッシュな空気はエルザに合っていたらしく、ダダイストの画家ピカビアの前妻であるギャビイ・ピカビアと働き始める。ギャビイはフランスの服をNYで売るブティックを経営していた。

この仕事を通じて彼女は気鋭のアーティスト、マルセル・デュシャンやマン・レイらと友人となる。

ほどなく夫とは離婚に終わるが、ひとり娘を連れて、1922年パリに移住。
有名デザイナーのポール・ポワレからも励まされて、1927年デザイナーとして仕事をスタートする。

彼女が最初に手がけたのはニットで、「トロンプ・ルイユ(騙し絵)」の技法を使ってボウタイをしたように見える黒いセーターがVOGUEに掲載されるや、ヨーロッパでもアメリカでも人気を博す。


1927年にスキャパレッリがデザインした「ボウノット・スウェター」
編み方でボウタイをしているように見えるトロンプ・ルイユの技法を使っている。
photo courtesy of Philadelphia Museum of Art: Gift of Vera White, 1952

スキャパレッリは女優のグレタ・ガルボやマレーネ・ディートリッヒ、ファッションイラストレーターのクリスチャン・ベラールらとも親しく、人気が高まっていくにつれ、1931年には店舗をヴァンドーム広場に移した。

この同時代に活躍したのが、ご存じココ・シャネル。

シャネルが装飾をそぎ落としたシンプルなエレガンスを追求したのに対して、スキャパレッリは金持ち出身らしく、遊び心とアートに溢れたスタイルを好んだ。

「私にとってファッションデザインとは服作りではなくて、アートである」

そう語る彼女はダダイズムやシュールレアリズムのアーティストたちと交遊して、ファッションとアートを融合させたスタイルを追求していく。

もっとも有名なのは、画家サルバドール・ダリとコラボレーションした「ロブスター・ドレス」や「ティアーズ・ドレス」「スケルトン・ドレス」など一連のアーティスティックな服だろう。

ダリが描いたロブスターの絵を大胆にあしらった「ロブスター・ドレス」は、今回の展覧会で見ることができる。

このドレスはウォリス・シンプソン夫人(エドワード8世と結婚して「王冠を賭けた恋」として知られる。
この結婚のため、エドワード8世は退位してウィンザー公爵となり、彼女もウィンザー公爵夫人となった)が着用して、セシル・ビートン卿が撮影した写真が同時展示されているので必見だ。


スキャパレッリがダリとコラボした名高いロブスタードレス。
ウィンザー公爵夫人となったウィリス・シンプソン夫人が着用して、
セシル・ビートン卿が写真を撮ったことでも歴史的に有名。
Photograph : the Philadelphia Museum of Art
Elsa Schiaparelli, Designed in collaboration with Salvador Dalí (1937)
Printed silk organza, synthetic horsehair

「スケルトン・ドレス」は黒いシルククレープ地に、キルティングで肋骨や背骨をかたどった立体的な装飾を施したドレスで、現代にも通じる先進的なデザインで、アレキサンダー・マックイーンの作品かと思うほど。


ダリとのコラボレーションによるエルザ・スキャパレッリの「スケルトン・ドレス」
Photograph : Victoria and Albert museum http://www.vam.ac.uk/
Skeleton Dress by Elsa Schiaparelli and Salvador Dali (1938)

またシューズの形をそのまま帽子にした型破りの発想の「シュー・ハット」は、今であればレディー・ガガやケイティ・ペリーが被っていそうなもの。

「ティアーズ・ドレス」はベール付きのイブニング・ドレスで、ダリが描いた涙がプリントされており、ベールにはピンクとマゼンダ色のカットアウトが施されている。

「動物の引き裂かれた肉」をモチーフにしているという衝撃的なコンセプトだが、実物はドレスとしてたいへんきれいな仕上がりだ。


ダリとのコラボレーションによるスキャパレッリのティアーズ・ドレス
Photograph : Victoria and Albert museum http://www.vam.ac.uk/
The Tears Dress 1938 Circus Collection
Viscose-rayon and silk blend fabric printed with trompe l’oeil print

いっぽうジャン・コクトーとのコラボでは「だまし絵」の技法で、背中に女性の横顔を刺繍したジャケットを作っており、この作品も今回の展覧会で見ることができる。


ジャン・コクトーとのコラボレーションによるジャケットで、
背中に造花のアップリケと女性の横顔が刺繍されている。
Photograph : Victoria and Albert museum http://www.vam.ac.uk/
Elsa Schiaparelli Jacket, designed in collaboration with Jean Cocteau (1937)
Silk jersey, with gold thread and silk embroidery and applied decoration in silk

さらにスキャパレッリは香水のボトルに、ダリやレオノール・フィニのデザインを使ったり、ザ・ザ・ガボールが主演した映画「ムーラン・ルージュ」やメイ・ウエストの主演作のコスチュームを手がけたりするなど、今で言うマルチなタレントを発揮して時代の寵児として名を轟かせる。

そんなスキャパレッリのことを、シャネルは「あの服を作るイタリアのアーティスト」といっていたらしい。

いっぽうスキャパレッリのほうはシャネルを「婦人小間物屋」とみなしていたらしいから、女同士のライバルは互いに手きびしい。

スキャパレッリ独特のあでやかなピンクは「スキャパレッリ・ピンク」と呼ばれ、その華やかでアバンギャルドな発想は、アメリカの裕福層に好まれた。

なかでもデイジー・フェローズ(Daisy Fellowes:シンガー・ミシンの創始者の娘にして大富豪であり、当時の社交界の花)やウォリス・シンプソン夫人、ダイアナ・ヴリーランド(Diana Vreeland:ハーパーズバザーやヴォーグで活躍したファッションエディターであり、メトロポリタン美術館のコスチューム・インスティテュートの基礎を築き、もっともスタイリッシュな女性のひとりとして名高い)らが愛用したことで名高い。

第二次大戦中にパリがドイツによって陥落したことから彼女はニューヨークに渡り、アメリカのハイソサエティで活躍したが、戦後は45年にパリに戻ってメゾンを再開。

しかし既にファッション界にはディオールの「ニュールック」の時代に移っており、スキャパレッリの人気が戻ることはなかった。

54年にメゾンを閉店。
スキャパレリの元からは、のちのピエール・カルダンやジバンシィらが輩出している。


スキャパレッリのシューズの形をした帽子は、ダリとのコラボーレションによる作品で、
ガラ・ダリ夫人やダイアナ・ブリーランド、デイジー・フェローズが着用した。
Elsa Schiaparelli, L’Officiel, October 1937
Photograph by George Saad Copyright Les Editions Jalou, L’Officiel

余談ながら、エルザが離婚した伯爵との間になした娘と、アメリカ人外交官の間に生まれたのが女優のマリサ・ベレンソンである。

「ベニスに死す」や「バリー・リンドン」で知られるマリサ・ベレンソンはエルザ・スキャパレッリの孫にあたり、画面で見せた気品も当然のこと、もともと貴族の血筋なのだ。

30~40年代はシャネルとスキャパレッリという二人の才能ある女性が現代女性のためのファッションを築きあげていった時代だった。

そしてココがシャネル・スーツという記号を生みだして、メゾンを未来に残すことに成功したのに対して、エルザはアーティストであったために、他の誰にも代替えできず、ブランドとしては存続できなかったことを考えると、デザイナーと芸術家の気質の違いが感じられて感慨深い。

しかしそのアーティスティックな姿勢には、今でもファッションデザイナーたちの間ではファンが多く、ここに来てスキャパレッリ再評価の気運が高まっている。

2012年7月にはパリのヴァンドーム広場には、スキャパレッリが再オープンして、ジャンポール・ゴルチェやシャロン・ストーンらがオープニングに出席した。


パリのヴァンドーム広場に再オープンしたスキャパレッリのクチュールブティック。
Photograph via WWD

ブランドのアンバサダーには元スーパーモデルのファリーダ・ケルフ(Farida Khelfa)が就任し、新デザイナーはまだ発表されていないが、2013年1月にクチュール・コレクションを発表する予定となっている。


Schiaparelli
http://www.schiaparelli.com/
21 Place Vendôme Paris

今回のメトロポリタンの展覧会はあまり点数が多くなくて見応えには欠けるのだが、のちのファッションに大きなインスピレーションを与えたスキャパレッリの貴重な作品が観られるのは、稀少な機会だ。

夏休みに美術館を訪れる時には、ぜひ実物を目にして欲しい。
会期は8月19日まで。

Schiaparelli and Prada: Impossible Conversations
メトロポリタン美術館
1000 Fifth Avenue (at 82nd Street)New York, NY 10028

電話: 212-535-7710
開館時間:火曜日〜木曜日9:30 a.m.–5:30 p.m.
金曜土曜: 9:30 a.m.–9:00 p.m.
日曜: 9:30 a.m.–5:30 p.m.
月曜休館

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Featured Photo Credit: C-Monster via photopin cc