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No.7 轟くロック魂!「Spring Awakening(春の目覚め)」

On: かぶりつき!ブロードウェイ観劇レポート

昔、ちみがまだハナ垂れ小僧だった頃、父ちゃんと母ちゃんに「赤ちゃんってどこから来るの?」って聞いてみたことはあるか?

ん? ワタスは無い。

で、もしそう尋ねてみて、父ちゃん母ちゃんが「コウノトリが運んで来る」なんてスットコドッコイな答えを返してきたらどうする?

いや、ワタスならグレるね。

だって、日通のペリカン便も、クロネコヤマトの宅急便も、本当は人間が運んでることくらい5歳児でも知っている。なのに、赤ん坊を運ぶ謎のコウノトリ軍団を信じろだって?
そんな無理難題を言われた日にゃ、もうグレるしかないのである。

しかしでござる。
2007年トニー賞8部門を受賞(注1)したミュージカル「Spring Awakening(春の目覚め)」に登場する少年少女達が、大人どもからそんな嘘っぱちを聞かされ、「ちっ!」と思った時にはどうするか、知ってるか?

なんと、おもむろに胸のポッケからマイクを取り出し、椅子の上に乗っかってロックンロールしだすのだ。

そう、ロックだぜ、あはん、あはん!

この少年少女の皆さん、大人に対する不信や不満や疑問といった胸の内は、ポップでロックな音楽に乗せて観客にゲローッと吐き出してくれるのである。

えーと、ちょっとここで解説を入れておこう。
このミュージカル、1891年にドイツで出版されたフランク・ヴェデキントの同名の戯曲を原作にしている。
ミュージカルの舞台も原作と同じく1891年のドイツで、厳格なキリスト教的宗教観が支配し、性教育なんてもんは存在しない時代の話だ。
つまり、パリス・ヒルトンのセックスビデオも無ければ、ノーパン&ミニスカート姿でパパラッチに大事なところを御開帳するイカれたセレブもおらず、男子は女子の生足首をチラ見しただけで鼻血ブーしちまうって頃なのだ。

その時代に、「男女七歳にして席を同じうせず」で育てられた少年少女諸君は、身体の変化や異性(時には同性)に対する興味がなぜフツフツと沸き起こるのか理解できずにいる。

しかし、「日本野鳥の会」メンバー並みの自然観察眼を持ち、頭脳明晰で男前の少年メルキオ君はちょいと違う。
大人が決して教えてくれない生命誕生の秘密と、女性がセックスによって得る肉体的な喜びの存在を自ら導き出し、毎夜の性夢に悩んで落ちこぼれていく親友モーリッツ君に「スケベな夢を見るのは普通のことだから悩むことはない」と教えてやるのだ。

一方で「赤ん坊を運ぶ謎のコウノトリ」の話をどうも信じられなくなってきた美少女ヴェンドラちゃんは、本当のところ赤ん坊がどこから来るのかさっぱりわからないまま。
ある日、お友達が父親から虐待を受けていると聞いてかなりおののき、子供の 頃以来久し振りに会話を交わしたメルキオ君に悩みを打ち明けて、二人はどんどん親密になって行く。

そして、この3人の少年少女の運命はその夏を境に大きく変わってしまうのである。ジャジャジャジャーン!

ま、という具合に、こいつは14~15歳の思春期の少年少女の性の目覚めと知識への渇望、ほんでもってそいつをシカトして芽を摘み取ろうとする大人社会への反抗といったおなじみのテーマを、同性愛、虐待、マスターベーション、セックス、妊娠、堕胎、自殺と盛りだくさんに詰め込んで描いた、原作の意図をかなり忠実に表現したミュージカルなのである。

原作の戯曲のほうは、あまりにもセンセーショナルな内容だというので長い間検閲無しに上演することができなかった問題作なんだそうだが、現代じゃこの手の青春白書モノは映画やテレビで既に語り尽くされているので、センセーショナルでもなければ目新しくもなんともないというのが事実だ。

ところがどっこい、よくある青春白書モノも、効果的な演出に耳からなかなか離れない曲、美しい歌詞に衣装、イカした照明とモダンな振付けが渾然一体となったミュージカルに仕上げられると、それはそれはフレッシュになるのである。

例えば演出だ。
このミュージカルでは教師や親といった大人の役を男と女各一名の俳優に全て演じさせている。
だもんだから、大人はなんだか顔の見えない人間に見え、自我が目覚め始めた悩める少年少女が、適切な助言や指導を与えられずに悲劇の道を進んで行く姿がよりドラマチックに浮き彫りになるという仕組みになっているのだ。

おまけに、劇中で歌われる曲は全て少年少女の胸の内という設定なので、レトロな衣装を着たピッチピチに若い(注2)彼らが「胸の内」から取り出したハンドマイクでもって、ザ・スミス風ありーの、エルビス・コステロ風ありーの、キャロル・キング風ありーののロックでフォークで今風な曲を観客にダイレクトに歌いかけてくるもんだから、観客の心はあっと言う間に少年少女の心と同調して一体感はもうひとしお!

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