ニューヨークからプロライター達がお送りする、「ここだけ」のおもしろ情報。

No.70 サンドラ・ブロックを泣かせた私

On: セレブの小部屋

2011年3-11を生きた日本人の心に響く映画なのかもしれない。
突然、訪れた悲惨のあと、人々はどう再生していくのか。


『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』日本公開は2/18/12。
© 2011 Warner Bros. Entertainment Inc.

アメリカでクリスマスに封切られた『Extremely Loud and Incredibly Close/ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』。

主人公は、9-11の同時多発テロ事件で父親(トム・ハンクス)を亡くしたNYの少年オスカーだ。
父親のクローゼットから謎の鍵を見つけた彼は、それが父親からのメッセージだと信じてニューヨーク中、探求の旅に出るというストーリー。

2005年に発表され絶賛を受けたジョナサン・サフラン・フォアの小説の映画化だ。


映画『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』の
サンドラ・ブロックとトーマス・ホーン
© 2011 Warner Bros. Entertainment Inc.

試写では、泣きそうになったが、涙が頬を伝わらないように抑えた。

そして、ひとり無言で家に帰る途中、NYの地下鉄の駅で、いきなりお腹の中が掻き回わされたような感触に襲われた。

おへその下あたりからグワッと何かが生まれて、渦巻きができて、くるくるお腹の中を上へ上へと舞い上がり、それが私の体から涙となって湧き出てしまいそうになったのだ。やばい、めちゃめちゃ涙もろくなっている。

この映画にすごく感動した、というのとは違う。この作品に感情を掻き回された、というほうが近い。


『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』NYプレミア
© 2011 Warner Bros. Entertainment Inc.

翌日、この新作『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のキャストとスティーブン・ダルドリー監督のインタビューがあった。

オスカーを演じた少年トーマス・ホーンは、なんと心が清い礼儀正しい男の子か!
誠実な態度で、大人顔負けの受け答え。

彼を目の前に、なんてかわいいの、と母性本能が体に灯る。
やばい、目がウルウルになりそう。


© 2011 Warner Bros. Entertainment Inc.

そして、少年オスカーの母親を演じたサンドラ・ブロック。
彼女は3-11の震災後、だれよりも早く日本に100万ドルの義援金を寄付してくれた女優だ。

記者会見で、そのことを質問している最中に、ことは起きた。

3-11や9-11のことを思ったら、あの感触がいきなり戻ってきた。
お腹の底からグワッと感情が竜巻のように巻き上がった。

そして、それがついに涙となって湧きでてしまった!

私から3メートルくらいしか離れていないところに並んで座っている監督やキャストたちを目の前に、なんということだ。
脚本家エリック・ロス(『フォレスト・ガンプ』『ベンジャミン・バトン数奇な人生』)が、体をのりだして私を驚いて見つめている。

いかん、とまれ、とまれ、涙よ!

それも、自分の雑誌記事の執筆のために参加しているならまだしも、この記者会見は某有名ライターさんの通訳として参加していたので、こんな失態は許されないのに‥‥。

「あ~! 彼女が私を泣かせるわ‥‥」
と、記者会見に臨むサンドラの目に涙が浮かんだ。

「日本の癒しへの希望。それに向けてのヘルプをありがとう」
と、伝えたときに私がやったゼスチャー、 手を胸に押さえる感動の動作をサンドラも真似てやり、彼女は涙目で私を見つめて心温まるコメントを返してくれた。

記者会見が終わったあと、「泣いちゃうなんて、恥ずかしい」と赤面する私に、某有名ライターさんも優しく「恥ずかしくないよ。人間なんだから」と言ってくれたことが嬉しかった。


『しあわせの隠れ場所』でアカデミー・オスカー受賞の主演女優となった
サンドラ・ブロック © A.M.P.A.S.

このあと、私にはまだテレビ用のインタビューも残っていた。
また、サンドラに3-11のことを聞かなくてはならない。

彼女が待機しているホテル部屋に入っていくと、サンドラは私を見るなり「あ、また、あなた! もう泣かないわよ!!」と、叫んだ。

いつでも、ふと油断すると、お腹の中に眠る渦巻きが回転して体から抜け出そうとする状態ではあったけれど、少しばかりその感情を外に出したあとだけに、私はもう大丈夫。

スティーブン・ダルドリー監督には「さっき私が泣いたのは、あなたがこの映画を作ったせいよ」だなんて、図太いことを言ってきたばかりだ。

笑いながら「ごめんなさい。インタビュー中に泣くなんて、いままでなかったことです」と、言うと、サンドラも微笑む。

「私もあんなことは初めてよ。あなたが来たから、またあの感情が戻ってくる」と、サンドラ。
テレビの前では涙目にならないようにと、自分に言い聞かせるように語る彼女。

「でも、あやまらないで。この映画はそういう感情を巻き起こすのよ。
それはじつに良いことなのよ。だから、あやまらないで。
そして、もうおしまい! 泣くのは止めましょう」

知らずに、泣いてアイム・ソーリーと、あやまり続けていた私。

そして、今度はアイム・ソーリーと言い続けてしまって「アイム・ソーリー」と、言っている。
あれ、ごめんなさいが、とまらない。

こんな情けない私を温かく包んでくれる彼女に、ますます感謝の意が湧いてくる。

「だけど、あなたがやってくれたことが嬉しくて‥‥」と、漏らすと、
またもや目の前のサンドラの目がみるみるうちに赤く染まっていった。
彼女は本当に優しい。

そして、こんなことを語ってくれる。

「日本に行く度に、穏やかな平和を感じるの。そして人の親切を感じるの。
どうしてかしら。日本という土地に降り立った瞬間に、いつもそれを感じるのよ」

サンドラ、ありがとう。
彼女も日本の震災を知って大泣きしたと語っていた。

帰途につく私は考える。
試写のあと、大声でエーンと泣かなかったから感情が自分の体の中でうずくまっていたのだ。

でも、取材で泣いたあとの私は清々しい気分になっていた。

そう、涙は魂を洗浄してくれるのだ。
津波や洪水さえ、地球の浄化作用だと受けとめている私だ。泣きながらでも、すべてを受け入れて進んでいこうと私は心に誓う。

©2012 Yuka Azuma