ニューヨークからプロライター達がお送りする、「ここだけ」のおもしろ情報。

タイマーズと『ANPO』が教えてくれるもの

On: 特出しコラム とびこみくん

覚えている人も多かろう―1989年10月13日のフジテレビ『夜のヒットスタジオ』。

この夜、覆面バンド『タイマーズ』が生放送ですごいことをしでかした。

『タイマーズ』は、忌野清志郎そっくりな?「ゼリー(Zerry)」をリーダーに、原発や政府、北朝鮮問題などの社会問題・現象を過激な歌詞にのせ、でもどこかおどけた調子で演奏していたバンド。

あるとき、ゼリーの友人である山口富士夫の曲や、反原発ソングを含んだRCサクセションのアルバム「COVERS」を、FM東京とFM仙台が放送禁止にした。

それに怒ったタイマーズ、前述の『夜ヒット』生放送で、持ち歌の歌詞をそっくり入れ替えて、FM東京を名指しで罵倒する歌に変えちゃったのだ!

しかも、リハーサルは元々の歌詞をフツーに歌い、生放送本番でいきなり変えちゃったのだからまさにゲリラ・ライブ。「FM東京くさったラジオ」、「政治家の手先」、「オ○ンコ野郎」なんて放送禁止用語もバンバン使ってるし!

いやー、これはびっくりを通り越して痛快。

このときは4曲メドレーで、歌詞を変えたのは2曲目。

3、4曲目はまた何ごともなかったように、しれっと演奏していて、そのふてぶてしさがまた面白い。

演奏直後の司会者・古館伊知郎の慌てようがこれまた見もの。
冷静にしようと努める古館氏と、一枚上手のゼリーと、何かがずれているGWINKO(今、どうしているんだろ?)の気まずい雰囲気。

ゼリーさん、生放送を逆手にとってやってくれましたよ、ほんと。

さて、今回の福島の原発問題により注目されている日本のエネルギー政策。
以前から原発推進派、反対派というのはいたが、同時に、深く考えたことのない人も地震前はた~くさんいたのではないだろうか。

石油ショックやチェルノブイリ事故の際には危機を感じたかもしれない。

でも、とりあえず自分が何の支障もなく電気が使えていれば、その危機も忘れてしまうだろう。
人は自分への直接的な影響がない限り、なかなか危機を感じないものだ。

また、世界規模での資源と、生活の中で空気のように当たり前に使っている電気は、同じ問題として意外と結び付かないかもしれない。

たとえ関心があったとしても、自分の意見を国の政策に反映させよう、とまでは思わないのではないか。

選挙のたびに、街頭インタビューなどでよく「誰が総理になっても同じ」と聞くように、政府や制度に対してすでに諦めがある。

自分の声は届かない→意見を持つ意味がない→考えることをやめてしまう、というサイクルは、当然っちゃあ当然の流れだ。

じゃあ、いつ、誰が日本を「国民の意見が反映する社会」にしてくれるんだろう?

それってやっぱり、自分たち国民以外いないのではないだろうか。

意見は勝手に反映などしてくれない。ましてや政府がやってくれるわけでもない。自分の声が「届かない」と嘆くのでなく、「届かせる」ように行動しない限り、「国民の意見が反映する社会」はやってこないんだと思う。

ここで話は、以前ニューヨークニッチで古市なつさんによって紹介された、ドキュメンタリー『ANPO』(2010年、監督:リンダ・ホーグランド)に飛ぶ。


「ANPO」より

この映画は、1960年の安保闘争で、アメリカに寄りかかろうとする政府の政策に人々がどのように抵抗していたかを、当時のアートを通して教えてくれる。

映画の中に映し出された人々は、自分達の意見を政府に届けようと必死に行動していた。

日本が会社員に自営業、芸術家、学生、主婦などが一丸となって、これほどまでに激しく政府に対抗したのは、ここ3,40年の間あっただろうか?

しかし、安保反対の盛り上がりは、政府が安保条約を通過させてから急速に翳った。
また基地問題も、基地が近くにない本土の人たちが、基地付近に住んでいる人たちと同じ問題意識を持っているかというと、それは疑問だ。

これは、311地震が起こる前、原発の運転がもはや日常となり、原発の近くにいない人が、電気が生まれる元のことを考えずに日々過ごしていた状況にそっくりではないか。

そう、この映画『ANPO』を今観ると、米軍基地問題と原発問題がまさにかぶり、

「自分は社会問題にどれだけ意識を向けているだろう?」
「自分の国のことを、人任せにするのはおかしいのでは?」
「豊かで自由で安全な生活って何だろう?」

という疑問に行き着く。

自分の考えは完全でなくてもいいし、人と同じでなくていいし、情報を得て途中で変わったっていい。

大事なのは、問題の背景を学び、自分の意思は何か考え、時には抵抗しなくてはならないことを、この映画は感じさせてくれるのだ。

逆に、無関心を決め込むなら、それは政府や関係機関に判断を委ねることと同じで、文句は言えない。

ニューヨークのコロンビア大学やニューヨーク大学で教鞭をとった、エーリヒ・フロム(Erich Fromm)というドイツ出身の社会心理学者がいる。彼のエッセイの数々は、アメリカの多くの大学で使われている。

私も、彼が心理的・道徳的見地から服従や抵抗、自由について書いたエッセイ、『Disobedience as a Psychological and Moral Problem』(※)を大学時代に読み、今でも心に残っている。

「人はどうして、組織や権威あるものに従いやすいのか?」

フロムによると、それは、一人になるのはとても勇気がいることであり、権威に従っていれば、安全で守られていると感じるから。

また、おうおうにして、権威に従うことは「良いこと」で、抵抗することは「悪いこと」と人々の間で認識されているから。

とはいえ、彼は、抵抗することを煽っているわけではない。

自分と組織の考えが相違する場合、組織に従えば、自分に抵抗することになるし、自分に従えば組織に抵抗することになる、と、社会と個人の関係を客観的に説明している。

そして、フロムはエッセイの中で、「自由とは、抵抗できる余地がある」こと」「自由と抵抗は切っても切れない関係」と述べている。

自分で考えたり判断したりすることをやめるのは、ある意味楽なのかもしれない。
でもそうなると、もはや自分に「自由」はないということだ。

人類の始めての抵抗として「アダムとイブ」の話から始まり、最後は組織への服従の例として、冷徹にユダヤ人を迫害したナチスの親衛隊の一人、アドルフ・アイヒマンの紹介で終わるこのエッセイ。

今の日本の政府や映画『ANPO』で描かれた人々を考えたとき、また私の頭に蘇ってきた。

(※興味のある方は一読を。英語。Erich Fromm『Disobedience as a Psychological and Moral Problem』

1989年発売のタイマーズのアルバム『ザ・タイマーズ』は、福島原発問題により、また注目を浴びているとのことだが、反核・反原発色が濃いのはRCサクセションの『COVERS』の方で、『ザ・タイマーズ』は、総理大臣(愛人問題で辞任した宇野元総理)や議員、天皇など、さまざまな日本の体制をブラックユーモアで歌い飛ばしている。

タイマーズが指摘していることは、アルバム発売から20年以上たった今も、もしかしたらひとつも解決していないかもしれない。

でも、地震を機に、私たちは今度こそ変わらないといけないと思う。

日本の報道で時々うんざりするのが、批判や文句、あげ足取り、あら捜し、派閥争いについてのニュースが多いこと。

それよりも、前向きなアイデア、代替案をどんどん出したらいいのに。

そういうメディアの風潮も含め、今こそ政府や社会の構造について、国民が声をあげて見直し、おかしいと思うことには抵抗する機会なのだと思う。

宿題だけ残してこの世を去ったゼリーさん、今頃天国で私たちがどう行動するか、見守っていてくれることでしょう。

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文中で紹介した映画『ANPO』が、この夏グッゲンハイム美術館で毎週金曜日に上映されます!
アートを通した日本の抵抗の歴史を、311地震の後の今観ることをぜひお勧めします。

映画中に登場する迫力のアートの数々は、これまで一般に公開されず、数十年間眠っていたものばかり。
この機会をお見逃しなく!

エキシビジョン:
ANPO: Art X War, 2010
7月1日(金)–9月23日(金)の毎週金曜日、午後1時と3時の2回
※ただし、7月15日(金)をのぞく
http://www.guggenheim.org/new-york/education/adult-and-academic-programs/film

場所:
グッゲンハイム美術館
1071 5th Avenue (at 89th Street)

入場料:
大人 $18
学生・シニア (65歳以上、要ID) $15
12歳未満 無料
美術館メンバー 無料

ANPO 映画情報:
公式サイト:
英語: http://www.anpomovie.com/
日本語: http://www.uplink.co.jp/anpo/
監督・プロデューサー:リンダ・ホーグランド
撮影:山崎裕
編集:スコット・バージェス
:武石聡、永井晶子

Sally, ブログも書いています! 
NY日記COLORS http://nycolors.exblog.jp