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アートかポルノか ガーダ・アメールの個展 “Love Has No End”

On: 特出しコラム とびこみくん

「ムラカミ?」

7月初めに行ったブルックリン美術館。4月から大々的にやっている村上隆氏の展覧会が大人気なのか、入場券を買うカウンターに着くやいなやそう聞かれた。村上隆展覧会は料金が別なのだ。

「ううん、普通のチケットを。あ、学生ね。」

そう言ってチケットを手にして、エレベーターを探していると、美術館スタッフが近づいてきてまた、

「ムラカミ?」

だから、違うっつーの。

私が行ったのは、大学での夏のアートクラスの課題である女性アーティストの作品を見るため。ここの4階には、フェミニスト・アートの専用スペースがあるのだ。

がやがやと大勢が村上氏の展示場に行ったのと対照的に、私が一人ぽつんと着いたのは、エジプト人アーティスト、ガーダ・アメール (Ghada Amer) の「愛に終わりはない」(Love Has No End)という個展。

そのとき、他にたくさんの宿題を抱えていた私は、「30分くらいでパーッと見て、とっとと帰ろう」なんて思っていた。しかし、いざ見てみるとこれが強烈で面白くて2時間以上も長居してしまった。

まず、ユニークなのが、彼女はキャンバスに糸を縫い付けて絵のラインを描いていること。ペイントしている部分もあるが、メインは刺繍。ズームで見るとこんな感じ。  

そして目を奪われてしまうのが、エロティックなモチーフ。ポルノ雑誌に出てくるような挑発的なポーズの女性、そしてセックス・シーンも。それらの多くを刺繍で表現しているからすごい。

ガーダ・アメールは1963年、エジプトのカイロに生まれた。10代でフランスに移りアートを学んだ後、ニューヨークへ移住。彼女が過ごしたイスラム、ヨーロッパ、アメリカの文化はそれぞれ異なるが、アメールは社会的な先入観や途切れない家事などが女性の個性を抑えているという共通点に気づく。

以来、人々がいかに女性に対しステレオタイプなイメージを持っているかを訴え、女性自身の欲をエロティックなモデルで表現することにより、社会的な縛りから女性を解放することを目指している。

刺繍という手法を続けるのも、「縫い物=女性の仕事」というイメージの象徴として皮肉めいた意味もあるようだ。

彼女の意図をよく表しているひとつが、「アリス」という作品。白いキャンバスにディズニーの「不思議の国のアリス」のアリスが数人描かれ、どれも上から赤く ×(ばつ)がつけられている。そして、それぞれのアリスの横にはヌードの女性が清純なアリスのイメージをあざ笑うかのように縫い付けられている。

アメールは、ディズニーのような子ども向けのキャラクターが、すでに「女性は従順で、かわいらしくあるべき」という先入観・理想像を植えつけているという。だからこんな作品で対抗!

背景にいる「プリンセス」が見えるだろうか?これは刺繍作品ではないが、とても大きなキャンバスだったのでかなりの迫力。

(余談だが、こういった作品を描写したエッセイを、文法チェックのため学校のライティングインストラクター(若い男性)に見せたときはちょっと複雑だった・・・。ここの”vagina”には複数形のsが要りますか?とか聞けないって!)

こうして、女性地位向上を目指すアメールの作品はフェミニスト・アートとして注目を浴びているが、ところ変われば考えも変わる。彼女が幼少を過ごしたアラブ/イスラムの社会では、女性の裸をさらすことはタブーだ。

イスラムの人々に彼女の作品は「ただのポルノグラフィ」「イスラム文化への侮辱」とみなされ、彼女は“enfant terrible(問題児)”と呼ばれた。

しかし、アメールに自分のルーツである社会を侮辱する気など全くなく、むしろ同時多発テロで「テロリズム」という言葉が蔓延し、アラブやイスラムの人々が一斉に怪しまれたとき、”Terrorism is not indexed in Arabic dictionaries (テロリズリズムという言葉はアラビックの辞書にない)”というメッセージ入りのグッズを作って抗議した。

これは、彼女自身が学生たちと一緒に行った相当に綿密な辞書のリサーチに基づいており、「人々を煽って先入観を植えつけることの方が正に「テロリズム」であり、それは一体だれがやっているのが考えて欲しい。」と訴えている。

また、アメールの刺繍には、必ず糸の端が長く垂れ下がっており、それが裸の女性をあいまいに隠している。これは、イスラム女性が肌を隠すため身につけるベールにあたり、彼女のルーツを物語っているとよく解釈されている。アメールは、ベールは「本当の自分を隠すもの」として不自然なものと捉えているようだが・・・。

アートかポルノか、地位向上かはたまた侮辱か—。

異なる文化を自身の中に持ちながら、ガーダ・アメールは女性のあり方について本質的に探ろうとしている。彼女はキャンバスでの表現に限らず、刺繍を施したモノ・服を作ったり、ガーデン・デザイナー、パフォーマーとしても活躍中。

ガーダ・アメールの個展は今年の10月中旬まで。NY在住の方、旅行に来る方、衝撃的なアメールの作品をぜひ堪能してみて!

Ghada Amer: Love Has No End
February 16–October 19, 2008
Elizabeth A. Sackler Center for Feminist Art, 4th Floor
http://www.brooklynmuseum.org/exhibitions/ghada_amer/

Brooklyn Museum
200 Eastern Parkway, Brooklyn, New York 11238-6052

このセンターのウェブサイトでは女性アーティストによる多くの作品が見られます。のぞいてみると面白いです!
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The Museum of Modern Art, New York 2006-02-01
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