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No.3 NC番外編:全米を熱狂させるレース・NASCAR(ナスカー)唯一の日本人ドライバー・尾形明紀

On: 本気で働くNY 好きな仕事でGO-GETTER!

「NASCAR」とは、日本人にとってあまり馴染みのない言葉だと思う。

ノースキャロライナ州にただ一人「NASCAR」に参戦している日本人ドライバーがいる、と聞いたのは、私がニューヨークからこの土地へ来て間もなくだった。

日本人ドライバー?

「レーサー」という部分には反応しても、「NASCAR」という言葉には、はっきり言って全くピンと来なかった。

しかし、その「NASCAR」というカーレース、アメリカ人にとっては、ナショナルフットボールリーグ(NFL)に次ぐ人気を誇る最大のモータースポーツであるという事実を、その2年後、実際に「尾形明紀」という人物に出会って、実感することになる。

アメリカ南部が発祥の地と言われる「NASCAR」は、ウィキペディアによると「禁酒法時代に取り締まる警察車両から逃れるために速い車を必要とした当時の “ならず者” に行き着くという説もある」と出ている。

元々は、アメリカ南部の地元のレッドネックたちが、その広い土地を持て余し、仕事の合間に楽しんでいたアマチュアカーレースだったらしい。

レッドネックとは、文字通り「首の後ろが真っ赤」に日焼けした典型的な白人の肉体労働者たちのこと。

人はいいかもしれないが、ビール片手に(その腕は勿論タトゥー入り)、ピックアップトラックを乗り廻わす、非常にラフなアメリカ人たちなのだ。

F1が、ヨーロッパの有力者や文化人などを含めるセレブリティたちの洗練された道楽(社交場)ならば、アメリカの「NASCAR」は、庶民のバックヤードでの草レースから始まった、もっと泥臭いものなのだ。

でも、それだけに

「アメリカの生活に密着していて、汗臭い人間味溢れるドラマがある」

と彼は言う。

そんなアメリカを代表するカルチャーとも言える世界へ、日本人の尾形明紀は無謀にも飛び込んだのである。


尾形明紀選手。カーナンバー「83」が、今までの彼のトレードマーク。

日本とアメリカを行き来しながら、2003年より「NASCAR」レース参戦は続けていたが、2010年、イチローや松井と同様、実績を認められたスポーツ選手のみに発行されると言われるPヴィザを取得。

日本に家族を残したまま「NASCARの聖地」と言われるノースキャロライナ州シャーロットへと単身、移住してきた。

その2ヶ月程前に、尾形から一通のメールをもらった。
ノースキャロライナ州トライアングルエリア日本語情報誌の編集長ということで、私のところにも知らせが来たのだ。

「今までに無い不安な状況での渡米になりますが、覚悟を決めていきます」

「今後ともよろしくお願いします」

と言われたのをいい事に、彼に自分のレース活動内容告知を含めて、早速その地元情報誌に記事を書いてもらうようお願いした。

そして、メールでのやり取りが数回あった後、彼から

「片道飛行機チケットを取りました」

と報告された。

一番最後に「追伸2」として書かれたこの一文に、何だか相当の重みを感じたのを覚えている。

レーサーなのに(というと語弊があるが)、なかなかの文章を書く。
というか、飾り気のないストレートで正直な文章には、好感が持てる。

自分としっかりと向き合っているんだなという印象を受けた。

でもどうして「NASCAR」なのか?という問いには、

「車の事がわからなくても、誰でも楽しめる車の枠を越えたエンターテイメントであること。
レースが好きで、最初からNASCARにしか興味がなかった」

と答える尾形。

確かにアメリカの「NASCAR」は、小さな子どもから高齢者まで、そのファン層の幅は広い。

最近は、佐藤琢磨がアメリカのINDYに移ったりと、他にも有名かつ優秀F1ドライバーが「NASCAR」などのアメリカのレースに移籍して来るケースが多くなってきているらしい。

しかし、少し参戦し、元の鞘に帰っていくドライバーも多いと聞く。

特に「NASCAR」は腰掛け程度の気持ちで結果が残せる程、甘くはないのだそうだ。

「その場で発揮できる実力というのは、その場で培う経験があってこそ発揮されるものだと僕は考えます。
「NASCAR」は、オーバルトラックでグルグル回る単純なレースなはずなのに、皆が苦戦します。

それ程、簡単ではないという事です。

ここ「NASCAR」レースで通用するスキルは「NASCAR」レースでなければ習得できないんですよね。
バスケットボール選手がサッカーの練習しても仕方が無いというのと同じくらい、F1、INDY、NASCARなど、全然違う世界だと思います」

「NASCAR」が好きで、「NASCAR」に対する情熱が他のどのドライバーよりもあったとしても、今までの尾形のように、日本とアメリカを行き来しながら、たまにしかレースに参戦できないドライバーでは、優勝できるわけがない、のだそうだ。

本人もそれがわかっていながら「NASCAR」参戦を目指して日本で生活していたことが、非常につらかった、と振り返る。

今回、ノースキャロライナに拠点を移し、いつでもレースに参戦できる環境は整った。

しかし、今の尾形明紀には、スポンサー獲得という大きな課題が残されている。

「簡単でないことも承知です。今まで、スポンサー探しも全部、自分一人でやってきました。自分がレーサーなのか営業マンなのかわからなくなるぐらい(笑)。

でもそのお陰で、少々の事で諦めたりへこたれることは、絶対にありません。
簡単に見くびらないでくださいね」

といたずらっぽく笑う尾形だが、その穏やかな表情の中には、芯が一本通っているように思える。


2010年10月10日に行われた「Pepsi Fall Brawl 250」。
レース前の autograph セッションは、レースファンが自由にレース場に入って
ドライバーと話したり、サインをもらったりする交流の場。

私が彼を応援する理由は、ノースキャロライナ州在住邦人同士であるという枠を超えて、レース人生に賭ける姿に共感する部分があるから。

そして、レーサーは、やっぱりレースに出て欲しい、と思うからだ。

尾形明紀のキャッチコピーは「Chasing the Dream」というのだそうだが、決して若手ではないのに、照れることもなく迷いのない一途な想いで将来の野望を語る彼を見ていると、本当にその夢を叶えて欲しい、とこちらまで熱い想いが込み上げてくる。

そして、その自分の夢を叶えることにより、私たち多くの人々にも、希望を運んで欲しいと思うのだ。

「絶対に頑張って「NASCAR」レース界で立派に通用するトップドライバーになります!
そして、何でもない人間が、ここまでできるということを証明したいんですよね。そう簡単に、日本には帰りませんよ、絶対に」

日本に残してきた家族のためにも、そして、何よりも、自分のために、レース参戦を果たし、いい結果を残して欲しいと思う。

レーサーとは、自分との戦いだ。

そんな尾形をこれからも、見守って行きたいと思っている。

現在、尾形選手は、スポンサーとなる企業、団体を探しています。
興味のある方、または質問のある方は、akinori@akinoriogata.com (Akinori Performance, LLC)まで連絡してください。

写真提供:佐藤弘康 / www.hirosatophotography.com

尾形明紀:1973年8月14日生まれ。神奈川県相模原市出身。
「NASCARの聖地」と呼ばれるノースキャロライナ州シャーロット在住の、現在、日本人唯一のNASCARドライバー。Akinori Performance, LLC 代表取締役。

「Akinori Ogata Foundation」を設立し、難病で苦しむ子どもたちへの支援も行っている。
HP:http://www.akinoriogata.com/index_jpn.html
ブログ:http://ameblo.jp/akinori-nascar/

NASCAR(ナスカー):National Association for Stock Car Auto Racing(全米自動車競争協会)の略。
アメリカ最大のモータースポーツ統括団体であり、同団体が統括するストックカー(市販車)レースの総称。

1990年、トム・クルーズ主演の「Days of Thunder」や、2006年、ディズニー社より配給された「Cars(カーズ)」は、「NASCAR」レースが舞台背景となっており、特に「Cars(カーズ)」は、現役の人気「NASCAR」レーサーが声優を務めるなどして話題を呼んだ。「Cars 2(カーズ2)」は、2011年6月に公開予定。

上山仁子:グラフィックデザイナー。
ニューヨーク在住15年後、2007年に何故かノースキャロライナ州チャペルヒルへ生活の基盤を移す。2009年、ローカル日本語情報誌「トライアングルTショット!」編集長に就任以来、ノースキャロライナ州&近郊日本人コミュニティへの貢献を誓う。

HP:www.hitoko.com
ブログ:http://ameblo.jp/nymommy/
「トライアングルTショット!」:http://triangletshot.com

このインタビュー記事は、2010年12月に「ニューヨークニッチ」に掲載されたものです。
尾形明紀さんへのドネイションに興味がある方は、直接、akinori@akinoriogata.com (Akinori Performance, LLC)まで連絡してください。

尚、筆者である上山仁子は、2012年5月に「トライアングルTショット」の編集長を辞任し、現在、新しく「ノースカロライナ.com」という情報ウェブマガジンの運営を行っています。