ニューヨークからプロライター達がお送りする、「ここだけ」のおもしろ情報。

秋の一押し映画(9月〜11月編)

On: 夜の試写室

アメリカでは毎年決まって秋になると、年末のホリデーシーズンと年明けの賞レースに向けて各配給会社がその年一番の話題作をここぞとばかり矢継ぎ早に公開する。

そこで、今シーズンお勧めの映画をこちらで簡単にご紹介。

9月

*要注目*

「ザ・タウン」(THE TOWN)
監督/ベン・アフレック
主演/ベン・アフレック、ジョン・ハム、レベッカ・ホール、ジェレミー・レナー、ブレイク・ライブリー
アクション、ドラマ、サスペンス
米公開日:9/17

先月のベネチア国際映画祭でデビューして以来、トロント映画祭でも話題を集めた。

B級映画というとなんとなく聞こえが悪いが、昔ながらの銀行強盗ものを「大人の映画」風にうまく仕上げている。

ハリウッド・スターとして既に知られるベン・アフレックが、2007年にインディー映画「ゴーン・ベイビー・ゴーン」で初めてメガホンを取って以来二本目の監督作品。今度は主演も務めている。

やはり評価の高かった前作はまぐれではなかった、と批評家たちにも言わしめた。

前作同様、アフレックの出身地であるボストンが舞台。幼なじみ(ジェリミー・レナー)と地元で銀行強盗を繰り返すダグ(ベン・アフレック)は、ある事件で自身の集団が襲った銀行に勤める、知的で自分とは生い立ちの異なる女性(「それでも恋するバルセロナ」のレベッカ・ホール)に心惹かれる。

ダグは自らの環境を打開したい気持ちと、これまで人生を共にして来た仲間への忠誠心との間で葛藤する。

ハリウッド映画に期待するアクションはもちろん、アフレックが前作でも取り上げたアメリカでの階級社会や、前の代の罪を繰り返す若者たちといったヘビーなテーマもさりげなく追求する。

アフレック達を追うFBI捜査官に、ケーブル・テレビで話題の「マッドメン」のジョン・ハム、今年のアカデミー作品賞受賞作「ハート・ロッカー」に主演し、自身も主演俳優賞候補となったジェレミー・レナーなど、豪華キャストが名を連ねる。

*小さいけど侮れない*

「ウェイティング・フォー・スーパーマン(スーパーマンを待ち詫びて)」(WAITING FOR “SUPERMAN”)
監督/デイヴィス・グッゲンハイム
ドキュメンタリー
9/24

世界的にヒットしたドキュメンタリー「不都合な真実」で地球温暖化をテーマに取り上げ、数年前アカデミー賞を受賞したデイヴィス・グッゲンハイム監督が続いて選んだテーマはアメリカの教育システム。

どの州に住むアメリカ市民もが認めるアメリカの公立学校システムの破綻。この複雑すぎる問題は何故、何処でどのように生じるのか。

グッゲンハイム監督はこれらの疑問に、それぞれニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンD.C.、サンフランシスコの四都市に住む5つの、人種、年齢、経済事情の異なる家庭を追いながら追求する。

ドキュメントされる家庭は皆、子供を倍率の高いチャーター・スクール(公募型研究開発校)に入学するための抽選に応募し、少ない確率に彼らの将来を託す。

我々は未来の繁栄を子供たちに期待するけれど、子供たちの多くは自分が受ける教育の場を選べない。だからこそここで描かれる現実が更に残酷なものに感じられる。

しかし、グッゲンハイム監督はただ問題を提示するだけでなく、一人一人がどう解決に貢献できるかをも観客に呼びかけ、ある種社会運動を促してもいる。

ドキュメンタリー映画の劇場公開としては今年一番のオープニング・セールスを記録した。アメリカでパブリック・スクールにお子さんを通わせている方、またこれからそうするであろう方は必見。

 
*ちょっと気になる*

「イージーA」(EASY A)
監督/ウィル・グラック
主演/エマ・ストーン
ティーン・コメディー
米公開日:9/17

五万とあるこの手のティーン映画だが、ごく稀に当たりが出たときの楽しみは大きい。

近年で言えば、「クルーレス」や「ミーンガールス」がそのたぐいだ。

「イージーA」は前の二作同様、現在売り出し中の若い女優を起用し、各々がアリーシア・シルバーストーンとリンジー・ローハンにもたらした効果を、この映画の主演エマ・ストーンにも期待する。

ストーン演じるオリーブはパッとしない普通の女子校生。しかしひょんなことからゲイ友のイメージを救うために彼と処女をなくす「フリ」をし、周囲から一目置かれることに...。

赤毛でハスキーボイスと言えば、リンジー派を彷彿とさせるが、映画のストーリーはどちらかと言えば「クルーレス」に共通する。

というのも、もともと「クルーレス」が話題となったのはオースティンの名作で、19世紀に出版された小説「エマ」を現代版ティーン映画として賢く書き換えるというひねりにあった。

この「イージーA」は、同じくホーソーンの19世紀の名小説「緋文字」になぞらえている。ティーン・コメディー必須の風刺ぶりがここでも高い評価を得ている。

10月

*要注目*

「ソーシャル・ネットワーク」(THE SOCIAL NETWORK)
監督/デビッド・フィンチャー
主演/ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク
実話、ヒューマン・ドラマ
米公開日:10/1

ここ数年で爆発的に世界に広まったオンライン・ソーシャル・ネットワークのフェースブック(Facebook)といえば、知らない人はいないだろう。

もはや若者の生活を語るに欠かせない社会現象がどのようにして始まったのか皆様はご存知だろうか。そのストーリーを語るのが、今年一番の話題作と言っても過言でないこの映画だ。

「セブン」や「ファイト・クラブ」など、ひときわダークな作品を得意とするフィンチャー監督に加え、「ア・フュー・グッド・メン」や「ホワイト・ハウス」など舞台に映画、それに人気テレビシリーズの脚本まで幅広く知られるアーロン・ソーキンが、本作の執筆を手掛けるなど業界内での期待が高かった。

いまでは当然のごとくフェースブックの創設者を名乗る27歳のハーバード大学中退生マーク・ザッカバーグは世界最年少のビリオネアだが、そもそもどのようにしてフェースブックというサイトが生まれたのか。

それは実はもっと複雑で、ドロドロしたものだった。

2003年、当時ハーバードの二年生だったザッカーバーグ(「イカとクジラ」のジェシー・アイゼンバーグ)は親友で同学年のエドワード・サヴェラン(次代のスパイダーマン役に抜擢されたアンドリュー・ガーフィールド)と一緒に今のフェースブックの元となったその名もザ・フェースブック(当時はまだtheが前についていた)をハーバードのEメールアドレスを持つ者のみが参加できる、いわばエリートのためのソーシャル・サイトとして立ち上げた。

しかし、実はそのアイディアは同大学の四年生だったタイラーとキャメロン・ウィンクルヴォスという双子の兄弟によるものだったとこのウィンクルヴォス兄弟は主張。

後にザッカーバーグは、かつてナプスターを興した天才児ショーン・パーカー(何処までも意外な才能を発揮し続けるジャスティン・ティンバーレイク)の助言で、ビジネス拡大のを図り他のIT会社同様その拠点を北カリフォルニアのパロ・アルトーに移す。

そして共にサイトを興したはずのサヴェランをその後のビジネスプランより切り捨てる。やがてこの展開に腹を立てたウィンクルヴォス兄弟とサヴェランは、それぞれザッカーバーグを告訴する。

膨大なリサーチを基に、ソーキンはそれぞれのキャラクターの供述と回想シーンを織り交ぜながら羅生門式に語り、真相に迫る。

天才的な頭脳の持ち主たちが、それでも結局は二十歳前後学生で、それ故の社交的な負い目や一見下らない恋愛の恨みをもとにやがて爆発的な社会現象となる発明をもたらしたという解釈で、ソーキン特有のスピィーディーでシャープな台詞とダークユーモアたっぷりに描写される。

まるでシェイクスピアの戯曲のような、人間の本質に迫る視野の広い作品だ。

 
*ちょっと気になる*

「レッド」(RED)
監督/ロバート・シュヴェンキ
主演/ブルース・ウィルス、モーガン・フリーマン、ヘレン・ミレン、ジョン・マルコビッチ
アクション=コミック
米公開日:10/15

「ソーシャル・ネットワーク」が若手俳優陣の意外にも繊細な演技の見せ場であるとすれば、「レッド」は超大物高齢者俳優陣が意外にもアクションに挑戦する映画である。

なにせ原題のREDとは、 “Retired and Extremely Dangerous” (定年にして非常に危険)の頭文字を取ってつけたタイトルなのだ。

原作は同タイトルのコミックによるもので、ブルース・ウィルス演じるフランク・モーゼスはCIAより命を狙われる元CIA捜査官。

そこで彼が協力を求めるのが既に定年を迎えている、同じく元CIA捜査官もしくは組織に絡んでいた危険人物たちだ。

ストーリーのオリジナリティーにはあまり期待しないとして、やはり本作の醍醐味は、かつて「クイーン」で英国女王エルザベス二世を演じアカデミー賞を始めその年の主演女優賞を総なめにし、終いには大英帝国勲章までをも受勲したヘレン・ミレンが、プロ顔負けにマシンガンをぶっぱなす姿を拝めることにあるだろう。

 
11月

*要注目*

「127アワーズ(127時間)」(127HOURS)
監督/ダニー・ボイル
主演/ジェームズ・フランコ
実話=サスペンス
米公開日:11/5

二年前の大ヒット作でアカデミー作品賞受賞の「スラムドッグ$ミリオネア」に続くボイル監督の話題作。

「スラムドッグ...」で観せたインドのにぎやかな多人口市街や色鮮やかな色彩とは打って変わり、人気の無い広大な米国ユタ州の峡谷を舞台に選んだ。

若きロッククライマーのアーロン・ラルストンは、2003年に一人でロッククライミングをしている最中に重さ500キロの落石に右腕を挟まれる。

この映画は、ラルストンがこの時に腕を挟まれてから脱出をするまでに要した127時間を描いている。

ラルストンが峡谷を脱出するのに、自らの右腕を切断したという衝撃的な事実はもはや多くの人に知られる話だ。

しかし、その孤独で緊迫した6日間をあえて映画として撮るというのは、その話がどれだけ奇跡的で感動に満ちたものにしろ、やはりヴィジュアル的に表現するのは至難の業。

これまでヘロイン中毒者(「トレインスポッティング」)やサイエンスフィクション(「サンシャイン2057」)、それにゾンビ映画(「28日後」)といった幅広いジャンルを手掛け、その都度ジャンルを新鮮なものに改めてきた独特の世界観を持つボイルならではの挑戦である。

先月のテルライド映画祭とトロント国際映画祭で既に公開され、これまでも批評家よりその高い演技力を買われてきた、ラルストン役のジェームズ・フランコ(「スパイダーマン」、「食べて、祈って、恋をして」)にオスカー候補との声も高い。

その役は、かつて「キャスト・アウェイ」で無人島に打ち上げられる会社員を演じたトム・ハンクスにあるいは匹敵するか。

 
*要注目*

「ザ・キングス・スピーチ」(THE KING’S SPEECH)
監督/トム・フーパー
主演/コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ・ボナム・カーター
実話=歴史=ドラマ
米公開日:11/24

年々、年寄りと女性にしかうけないと言われるようになってきたコスチューム/ピリオド・ドラマ(時代劇)。

ありがたいことに本作は、HBOでも常連で、質の高い時代物ミニシリーズを十八番としてきた若手監督トム・フーパー(「エリザベス1世」「ジョン・アダムス」)が手掛けたとあり、前評判も高い。

イギリスの国王ジョージ6世(コリン・ファース)は生まれつき言語障害を持つ。そのせいで長いこと演説はもちろん、きちんとした会話もできずに悩まされていた。

本来なら兄のエドワード8世(ガイ・ピアス)が国王の座を全うするはずだったが、兄がシンプソン夫人と結婚するために1936年に退位したため、急遽国王として即位が決まり、国を第二次世界大戦へと導くことになる。

子供の頃より国王になる教育を受けずに育った上、王としては致命的な言語障害を持つ夫の悲惨な姿を見かねたエリザベス夫人(ヘレナ・ボナム・カーター)は、ジョージ6世の会話や演説に対する苦手意識を克服させるべく、オーストラリア人で一風変わったスピーチ・セラピスト(言語障害の専門医)であるライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)を紹介する。

二人はそこで階級差といった当時特有の障害を経て、友情を深めていく。フーパー監督曰く、これは現代で流行の「ブロマンス(bromance)」 なのだとか。

「ボーイ・ミーツ・セラピスト(男がセラピストと出会う)、ボーイ・ルーズ・セラピスト(男はセラピストに見放される)、ボーイ・ゲッツ・セラピスト(男は再びセラピストをゲットする)」と言った具合に。

なるほど、時代劇にも現代のテーマが流れる。